69.……どこかの天で……2
-ある場所で、ある人たちの会話-
部下から届いた書類に目を通す。
所在が不明だった星の場所が分かったようだ。
それについてはうれしく思うのだが、書類の1ページに描かれた魔法陣を見て頭を抱えたくなる。
まさか、こんなモノをまた見る羽目になるとは。
「魔法陣については調査中です」
「必要ない。これは魔幸石を目覚めさせるために使うモノだ」
「魔幸石……確か『天界の子供の血と魔界の子供の血を魔幸石に捧げ、新たな力を授からん』でしたでしょうか?」
ん?
何だそれは?
「魔幸石について、そう広まっているのか?」
「はい、そうですが。違うのですか?」
「あぁ、正確には『天界の血、魔界の血、魔幸石に捧げ目覚めさせよ。さすれば命の終焉がくる』だ」
魔幸石は永久に生き続けることに疲れ果てた神々が作った、神を殺せる唯一の石だ。
それがなぜ、新しい力を授けるなどという事になっている?
新しい力とは、何を指しているのだ?
もしかして、神の命を終わらせる力の事だろうか?
あれは確かに、魔力でも神力でもない力だ。
新しい力と言えなくもないが。
「私が聞いた言い伝えとは、かなり違いますね」
「そうだな」
魔幸石か。
確か世界に4個、作りだされたはずだ。
成功したといえるのは1個だけ。
失敗した3個は、ある場所の奥深くに封印されている。
成功した1個も厳重に管理されているはずなんだが、書類に目をやる。
ここに魔法陣が載っているという事は、誰かが持ち出したという事なんだろうか?
アレを持ち出せる者は上級神のみ。
つまり、見習い達に手を貸した上級神がいるという事になるが。
「なぜそのような石が作られたのですか?」
「……神が不滅の存在だからだ。長く生きることに疲れ果てた神々が己の救済のために長い時をかけて作り上げたのだ」
あれ程の力を持った石は、そうそう生まれる物ではない。
しかし力が強いからこそ、失敗作の魔幸石も砕けずにいるんだがな。
「見習いの力では、あの石を目覚めさせることは不可能だろうな」
「えっ? 血が揃えば目覚めるのでは?」
「いや、そんな簡単なモノではない」
「そうなのですか?」
「あぁ、ただ血を捧げればいいというわけではないんだ。魔幸石自身が……誰か来るな」
この部屋に近づいていくる気配を感じる。
その気配には覚えがある。
いったい何の用事があってここに来るのか、もっと他にやる事がある筈だが。
こんこん
「どうぞ」
声をかけるとすぐさま開かれる扉。
そして顔を見せたのは、以前と全く変わることがないライバルの姿。
「久しぶりだな。デーメー」
「そうだな。アイオン」
同じ時期に見習いをしていたライバル。
姿は変わっていないが、少し疲れた顔をしているな。
「随分と愚かなことをしているみたいだな」
「………………」
デーメーは、私の言葉にハッと視線を合わせる。
まさか、知られていないと思っていたのか?
コイツ、こんなに馬鹿だったか?
「その小馬鹿にした顔を止めろ」
「小馬鹿にしたわけではない、馬鹿なのかと心配しただけだ」
睨み付けてくるが、何も言い返してこない。
「はぁ、情けない」
「知らなかったのだ。あの星の存在を」
デーメーは、見習い仲間の中で一番優秀だった。
その為、皆の憧れの存在でもあったんだがな。
「知った後に何をした?」
「それは……」
「デーメー。管理している星が多いのは私も同じだ。だから見落としがあるのも分かる。だが、知った後の行動が問題なのだ」
私の言った言葉が気に入らないのか、デーメーの神力が溢れ出す。
その態度に、思わずため息がでてしまう。
こんな狭い空間で神力を出すとは。
被害がでては困るので、私とデーメーを囲うように結界を作る。
「何とかしようとはした。だが……」
なんとか?
「他の神々に知られる前に、星の中に閉じ込めて全て消そうとしたことか?」
「……」
「あぁ、少し違うな。巻き込まれた彼やそこで利用されていた神獣たちが何も知らない事をいい事に、見習い達が仕掛けた問題を全て見なかった事にしたことか?」
「なぜ……」
「それとも、見習い達が作った未熟な星隠しの結界を完成させるために、神力を足したことか?」
「それは……」
何をそんなに驚いているのか。
上級神の私が本気になれば、全て調べることが出来ることぐらい考えれば分かることだろうが。
「そう言えば、問題を起こした見習い達の話は聞いたのか? 魔幸石まで持ち出したんだ、あれらだけで出来ることではないだろう? あぁ、悪い。知りたくないから、喋る前に黙らせたな」
「違う! あれは正しい処罰だ」
「正しい? 規律の中で『問題を起こした見習い達の罰は、面倒を見ていた神々以外の者で決定されなければならない』と言うものがある。お前はこの一文を忘れたのか? もしそうなら、とっとと隠居しろ」
「アイオン!」
「なんだ? 私は何か間違ったか? それと神力で威嚇するな、鬱陶しい」
声と神力を飛ばして抑えられるのは、自分の部下たちだけだ。
同等の存在である私に、そんな暴力が通用するはずないだろうが。
まったく。
これがライバルの今の姿か。
…………落ちぶれたな、本当に。
「見習いに誰が協力した? まさかお前か? デーメー」
顔を真っ赤にして怒っているようだが、本当に何をしに来たんだコイツ。
「違う! 知らなかったと言っただろう」
「あぁ、そうだったな。で?」
「きさま……」
「まぁ、誰でもいいがな。それにしても、お前の考えは見事に彼が打ち破ったな。しかも結界まで破られて」
アハハハと声に出して笑うと、デーメーの周りが光りだす。
やだやだ、怒りで周りが見えなくなっているよ。
狭い空間で法術を使えば、どれだけの被害が出ることか。
本当に愚かだ。
「吸収」
私の言葉でデーメーの神力が空間に消えていく。
それに驚いた表情を見せるが、それほど驚く事でもない。
ここは私の空間。
私が最も自由に力を使える場所なのだから。
それにしても本当に彼には驚かされる。
机の上にある書類を見る。
デーメーは、確実に彼が暴走して星を崩壊させるよう仕向けた。
まぁ正確にいえば、見習い達が残した問題を少しずつ修正して彼の力が溢れるように仕向けた。
見習い達は本当に優秀だったのだろう、書類を見る限りではほとんどの術式は完成されていた。
だが、1つだけ未完成というかそのままでは使えない物があった。
それが、星を隠すために作られた結界だ。
星が崩壊するまでけっして見つかる訳にはいかないデーメーは、その結界にだけ力を足した。
かなり見事な結界を作り上げたようだ。
そしてあとは待てばいいはずだった。
だが、ここで予想外の事が起きる。
彼が勇者召喚で授けられたギフトを、自分の意思で抑えつけた事だ。
おそらく勇者召喚が失敗したからだろうな。
いや、そもそも彼は選ばれた人物ではなかったか。
どれが影響したのかは、分からない。
だが、そのお蔭で星は崩壊せず、しかも上級神が手を貸した結界を破壊。
デーメーにとっては、ありえない事だろうな。
「なぜ知っている?」
「時の上級神に協力を願ったからだ」
時間を自由に扱う事が出来る神で、条件さえそろえばどんな過去でも見ることが出来る。
未来だけは見せてくれないが。
「そんな、あの方が……」
デーメーの顔が一気に青くなる。
赤くなったり青くなったり大変だな。
書類の最後のページを見る。
『強力な結界により、上からでは見ることが出来ず。主導権が移り、時の管理者の影響を受けず』
ここ数日の間に何かが起こったようだ。
はぁ、私はまた出遅れてしまったな。




