62.反撃……ゆっくり吸収
3~4m? ぐらいある石の前で首を捻る。
結界で守られていないところは初めてだ。
本当にこれなのかと疑問が湧くが、確かに目の前にある巨大な石から強い神力を感じる。
なので間違いないとは思うのだが……。
それにしてもこの石に、どんな意味があるんだ?
あっ、もしかしたら新しい石像を作る予定だったのかも。
「まぁ、どんな理由があったとしても俺には関係ないな。壊すか」
壊して終わらせる。
今までと同じだ。
掌を石に向けて粉々になるイメージを作り、新しい力で。
「粉砕!」
掌から光が溢れ石を包み込むと……そのまま光が消えた。
「……あれ?」
光が消えたと同時に力が消えたのを感じた。
石に吸収されたのか?
とりあえずしばらく待つが、巨大な石に変化は訪れない。
どうやら失敗したようだ。
もう1回、試してみるべきか?
いや、同じ結果になるような気がするな。
そっと石に触れる。
冷たさが伝わってくると思ったのだが、まさかの温かさを感じた。
石って、温かいモノなのか?
上を向く。
木々が邪魔をして太陽の光は届いていない。
なので、太陽光で温められたということではないようだ。
「熱を発している石? もしくは、生きている石とか……不気味だな」
石に触れていた手を離す。
新しい力が効かないなら、魔力で試してみるか。
もう一度、今度は魔力を意識して。
「粉砕!」
体がカッと熱くなり、体から膨大な魔力が放出される。
あれ?
もしかして、危ない?
慌てて力を抑え込もうとするが、溢れ出した魔力が拳ほどの大きさに凝縮され巨大な石にぶつかる!
…………
「ん? なんで、マシュマロの上にいるんだ? えっと~」
何故かマシュマロの上に乗って空をくるくる旋回している。
おかしいな、マシュマロに乗った記憶はない。
下を見ると、巨大な石が見える。
あっ!
石に攻撃をしたら反撃されたんだった。
魔力がぶつかった瞬間、石が光りものすごい爆風が起こって飛ばされたんだ。
マシュマロの上にいるという事は、助けてくれたのか。
「マシュマロ、ありがとう」
声を掛けると首を伸ばして振り返り、グルルと喉を鳴らす。
マシュマロも飛びトカゲの様に喉を鳴らせるのか。
まだまだ知らない事が多いな。
それにしても、すごい風だったな。
どうするか。
攻撃は危険だ。
次に攻撃をした時に、爆風で飛ばされるだけとは限らない。
というか、また俺は迷いなく攻撃を実行したな。
まずは調べる事が先決だろうが。
はぁ、この性格は便利だが無謀だな。
「とりあえず、あの石を調べるか」
マシュマロに、石の近くに降りてもらうようお願いする。
周りを見ると、一緒に来た仲間達は全員無事の様だ。
よかった。
俺のせいで怪我などさせては申し訳ない。
不安そうな表情をしているクロウ達の頭を順番に撫でていく。
しばらくすると、皆落ち着いてくれたようだ。
巨大な石を見る。
そっと手で触れるとやはり温かい。
先ほどより温かさが増しているような気がする。
もしかしたら反撃した事で熱くなったのだろうか?
まぁ、どちらでもいいが。
今、重要なのはこの石の……壊し方。
もしくは、何であるかを解明する事か。
でも、どうやって調べればいいんだ?
今までは、ただ壊すだけだったからな~。
石の内部に力を侵入させたら、何か分かる物だろうか?
……分からないが、俺が出来る事ってそれぐらいだしな。
「やるか」
深呼吸して気持ちを落ち着かせ、石の内部に新しい力を少しずつ少しずつ侵入させていく。
1本の糸を、ゆっくりと中心へ差し込んでいくイメージだ。
反撃される事を想定していたが、特に問題なく内部に侵入する事が出来た。
攻撃をする意思が無い事が分かるのだろうか?
それとも攻撃した衝撃か何かに反応して反撃する?
まぁ、とりあえず中心部分を目指すか。
……おかしいな。
石の全体の大きさは高さ3~4m、横幅2mぐらい。
もうすでに中心を通り越しているはずなのだが、なぜかまだ奥へと向かっている気がする。
「どうなっているんだ?」
送り込んだ力の糸の長さを調べてみる。
正確ではないが、4mぐらいのはず。
既に中心を通り越して、反対側から出てもおかしくない長さだ。
目で確かめているわけではないので絶対とは言えないが。
だが今も、力の糸は奥を目指して侵入をし続けている。
このまま進めても、大丈夫かな?
「ん?」
力の先端が何かを感じたため、奥へ進むのを止めて様子を見る。
「気のせいか? 何かあると思ったのだが」
気を取り直して、もう一度力の糸を動かす。
すぐに何かに触れている感覚が、糸を通して伝わってくる。
やはり気のせいではなかったようだ。
触れている力は特に反撃をしてくる気配はない。
攻撃をしない限り問題ないという事なのだろうか?
さて、力に触れているのは良いが……これからどうすればいいんだ?
調べると言っても、何をすればいいのか……。
とりあえず、力から感じるのは……かなり凝縮された力だという事だな。
あれ?
見習いたち以外の神力を感じる。
ん~、と言っても神力ってどれもよく似ているからな。
俺もしっかりと区別出来ているわけではないし。
確実ではないが、他の見習いもしくは神が関係している可能性ありって事は覚えておくか。
で、今の問題はこの凝縮された力だよな。
見習い共が残した、最後の力だ。
破壊は無理。
おそらく攻撃したら反撃される。
「攻撃以外で力を弱らせる方法……あっ、吸収」
力を奪ってしまえば、この巨大な石が問題になる事はない。
吸収は攻撃とは違うので、反撃される事もないだろう。
ん? ……攻撃ではないよな?
ちょっと不安は感じるが、大丈夫のはずだ。
俺達をここまで誘導してくれた魔物の石を出す。
どうやってこれに、あの力を誘導するか……。
そうだ、力の糸って使えないかな。
糸を伝って……ストローみたいに吸い上げる?
やってみよう。
イメージは長いストローが水を吸い上げる感じでいいか。
こういうのはシンプルなイメージの方が失敗が少ない気がする。
巨大な袋に入った水をストローが吸い上げて魔物の石に詰め込んでいくイメージを作る。
量の問題とかは考えない。
ただ、出来るイメージを作り上げて
「吸収」
魔物の石がふわりと浮かびあがり光りだす。
それにビビっていると、巨大な石も光りだしてしまう。
やばい、攻撃か?
爆風、もしくは違う攻撃に備えるために身を低く構える。
クロウ達やマシュマロも、身を低くして構えているのが視界に入る。
……?
しばらく待つが、何も起こらない。
ただ今も、魔物の石は光っており巨大な石も光っている。
よく見ると、2つの間が白い紐で繋がっているのが見えた。
もしかして、力の移動で光っているだけなのかな?
というか、成功しているのか?
そっと魔物の石に手を伸ばす。
が、なんとなく危険な気配を感じたので止める。
魔法が発動されている時は、邪魔をしない方が良いだろう。
きっと。
成功していると考えて、あの凝縮された力ってこの魔物の石1つで吸収できる物なのかな?
出来るとして、いったいどれくらいで終わるんだろう?
……魔物の石の予備って確か持って来ていたよな。
バッグを探ると10個ほど出て来る。
一つ目達が用意してくれたのだが、持ってきておいてよかった。
それにしても、石同士を繋いでる紐を見る。
「細すぎるよな」
侵入させる時は、反撃されないように細い糸をイメージした。
ストローに変更する時、もっと太いストローをイメージすればよかったのだが、忘れていた。
その為、紙パックについているような細いストローになっている。
いったいどれだけ時間がかかるのか。
「いつ家に戻れるんだろうな~」




