59.……どこかの天で……
-ある場所で、ある2人の会話-
「まったく、少し目を離すと何を始めるやら」
目の前に積まれた書類に手を伸ばす。
それには、部下の失敗による被害報告が書かれている。
読んで、そして……放り投げた。
まったく、やってられないよ。
どいつもこいつも。
「失礼します」
「ぁあ~、入るな~、仕事を増やすな~、帰れ~」
「全て拒否いたします」
「……う・ざ・い」
「はいはい。少し前に戻って来た彼らが何処から飛ばされたのか、ようやく突き止めました」
「分かったのか?」
「はい」
「何処?」
「名前の未定な未承認な星です」
「……はぁ?」
「ですから『何度も言わなくても分かる』……ならば聞き返さないでください」
本当にこいつは何と言うか融通がきかない。
いや違うな。
真面目すぎる。
そうだ、くそ真面目すぎるんだ。
よく私の部下をやっているよな~。
「他の者達に泣きつかれましたので。あなたをどうにかしてくれと」
「勝手に人の心を読むな」
「いえ、読まなくても分かります。それと書類を放り投げないでください」
「あ~、休憩したい」
「し・ご・と、の時間ですから」
「はいはい」
あ~、それにしても未承認な星?
いったい誰が何をしているのやら。
そう言えば、少し前に見習いが処罰されたっけ?
どんな問題を起こしたのか知らないが……随分早急だったよね。
そういえば、監督達はどうしたんだろうね?
問題を起こした奴らだけが原因ではないだろうに。
「これを」
また書類。
簡潔に口頭で伝えてくれたらいいのに。
「口で伝えたら、あとで聞いていないと言いますので」
「…………そんな事は『これまでの経験での判断です』……あ、そう」
書類を読む。
そして…………。
「はぁ」
「怒り狂わないでくださいね。あなたが暴れたら被害がすごい事になりますから」
「分かっている。だから落ち着かせている」
なるほどな、見習いどもをさっさと処罰した理由は私か。
ハハハ、ばれないと思ったのかね~。
それにしても。
「この男も、私の管轄の者なのか?」
「えぇ、どうやら巻き込まれたようです。今の状態は、その書類に書かれている通りです」
「帰って来た者達は、時間がかかりそうだって言っていたね」
「はい。ですが時間をかければ、また転生できるだけの力は戻るでしょう」
「そうか」
書類を読み進める。
そして、ある一文に目を止める。
彼らを私の元に帰してくれた者が……『既に人ではない可能性がある』と書かれている。
「あれには、そう簡単に手を出しては駄目だと何度も通達しているのだがな」
「一見、誰にとっても幸せの構図に見えますからね」
「誰にとっても? ハハハ、あれ程ひどいモノはない」
書類を机の上に置く。
体の中からふつふつ怒りが湧きあがってくる。
だが、それをぶつける事は出来ない。
それをしていい立場ではないからだ。
というか、私が怒りで力を解放したら、星が数十個ぐらい吹き飛んでしまう。
力が強いという事は、ものすごく不便だ。
感情のままに、行動できなくなるのだから。
もう一度、書類に手を伸ばす。
少し前に、魂力を消耗した者達が現れた。
調べると、私が管理している星から突如として消えた子供達だった。
私は、その子供達をずっと探していた。
私が守らなければならなかった子供達。
言い訳になるが、あの当時私が見守る星は多すぎて全てに手が回っていなかった。
その被害者である子供達。
それが、不意に姿を見せたのだ。
しかも、存在が消えるのではと心配するほど魂力をすり減らして。
何が起こったのか、すぐに魂に触れて記憶を調べたかった。
だが、あまりにも傷つきすぎた魂力は、間違った方法を取れば消滅してしまう。
消滅してしまえば、全ての事が分からなくなってしまう。
その為、魂力に力を取り戻すことを優先した。
時間がかかったが、ようやく魂から記憶を取り出す事が出来たようだ。
この手の中に書かれているのは、帰って来た子供達が経験した事柄。
「はぁ、場所の特定は?」
「今、全ての記憶を突き合わせて調査中です」
「そうか。場所が分かったら私が行く」
「分かっています。ですが、けして怒りにかられないように」
「努力する」
彼は今、無事だろうか?
「関わった神達は? それに見習いは何処にいる?」
見習いを消滅させるのには、上の者のサインがいる。
だから処罰という形を取ったのだろう。
そういえば、処罰された中にライバルのお気に入りがいたな。
もしかして、関わっている?
「割り出し中です」
「そうか」
「急いでくれ。彼が心配だ」
私に子供達を帰してくれた彼も、私の大切な子供の1人。
何か問題が起こっているなら、手助けしなければ。
「報告しますか?」
「そうだな。この件は公表して、勇者召喚そのものを問題ありとするか」
あんな馬鹿げた神の御遊びを、いつまで放置しておくのか。
いい加減神々は認めるべきなのだ。
永遠は地獄だと。
「あぁ、関わってはいないが傍観した神共も調べておいてくれ」
全員、はっ倒す。
「過激な事は止めてくださいね」
「問題ない」
「あなたの問題ないという言葉ほど当てにならないモノはない」
「そうか? 私の言葉は重いと思うが」
「はぁ、そうでもあり。そうでもないです」
何だそれは。
紙にもう一度目を通す。
この男、魂の記憶ではかなり不思議な力を使っている。
どんな力なのかは興味があるな。
まぁ、それも全て問題が解決した後の話だな。
今は、彼の安全の確保だ。




