58.急げ……本?
「……はぁ、どこまで続いているんだ?」
体の熱は、日々暴れる時間が伸びている。
ほんの少しずつだが、それは確実だ。
なので、力を安全に使う方法を早急に探す必要がある。
だが、見習いが残した問題箇所がまだ4ヶ所も残っている。
こちらも、何が起こるか不明なため急いで解決する必要がある。
目の前の問題と出来る事を考えた結果。
見習いが残した問題の方が、解決しやすいと考え優先する事にした。
のんびりはしていられない、1日で回れるだけ回るつもりだ。
本日1ヶ所目は、洞窟。
出入り口に結界が張ってあったが、今までと同じで力で壊して突入。
洞窟の奥の部屋にあったのは、光る石。
光るといっても、部屋を少し明るくする程度で特に驚異的な力は感じない。
不思議に思いながらも、とりあえず持って帰る事にした。
持ち出すと、何か魔法が発動するかもしれないと警戒しながら外へ出る。
それなのに、あっけないほど何もなく。
特別な物ではないのだろうか?
そして本日2ヶ所目。
見た目は1ヶ所目と同じような洞窟。
簡単かな? っと予想したら大外れ。
入り口に結界が張ってあったので壊して突入。
かれこれ1時間ぐらいだろうか、ずっと代わり映えの無い洞窟を歩いている。
これが問題の場所でなければ、引き返しているだろう。
「飽きた」
一度立ち止まって後ろを振り返る。
既に入口は全く見えない。
……先へ進むしかないよな。
それから約30分。
「あっ!」
ようやく見えた変化。
洞窟の奥に扉だ。
嬉しさのあまり、バンザイをやりそうになってしまった。
「あれ? この扉、今までの様な装飾が無いな」
目の前にあるのは、シンプルな両扉。
今まで見てきた扉には彫り物や宝石と思われる石が装飾されていたのだが、これには全くない。
扉の取っ手に手をかけて力を込める。
何の抵抗もなく開く。
結界もなし?
不思議に思うが入るしかないので、警戒しながら足を進める。
ガランとした空間。
そして………………何も無い。
「マジで?」
空間を魔法の光で照らす。
隅々まで見るが、本当に何も無い。
何か隠しているのではと壁を叩いて歩いてみるが、何も起こらない。
魔法や新しい力で調べるが、問題なし。
「ここまで歩いてきた労力と時間が無駄に……」
はぁ、反応した場所には何かあると思い込んでいた。
「まさか何もないとはな~」
長い洞窟を頑張って歩いて来て外れ。
さすがに体から力が抜けそうだ。
クゥ
隣にいるコアが心配そうに喉を鳴らす。
心配をかけるのは駄目だな。
「大丈夫だ。次へ行こうか」
まぁ、何事もないのが一番だ。
骨とか卵とか棺桶とか、無くてよかったと思っておこう。
さて、外に出るか……またあの長い通路か。
ん?
何も持ち出さないのだから、警戒して歩く必要はないのか?
だよな……よし、走って一気に外に出よう。
「行こう」
扉の外を指してコア達に伝える。
今日のお供はコアとチャイ。
と、おそらくクロウの子供達。
見た目が変わらないからな、違う可能性もある。
そしてふわふわ。
相変わらず、俺を守る様な配置だ。
俺が走ると、皆ついて来るので少しずつ速度を上げて外に向かう。
行きと違って速い、これならすぐに外に出られるな。
遠くに外の光が見え始めた時、後ろからドーンという音が響いた。
「はっ?」
急いで立ち止まり後ろを振り返る。
すると奥から砂埃が迫ってきているのが見えた。
「外に急げ! 壁!」
急いで壁をイメージして魔法を発動。
壁が作られたのを確認して、すぐに外に向かって走る。
コア達も洞窟の崩壊が迫ってきているのを確認したのか、スピードを上げて走りだした。
何もなかったくせに、仕掛けだけはあるとか性格が悪い!
洞窟から少し離れた場所で立ち止まる。
後ろを振り返ると、洞窟の入り口が大きな音を立てて崩れていく姿が目に入った。
慌てて周りを確認すると、一緒に来た仲間全員の姿を確認できた。
よかった、無事だ。
それにしても、焦った。
何も持ち出していないのに、洞窟が崩壊するとは。
「せめて何か持ち出した時だけにしてほしいよな。理不尽だ」
大きなため息をついて、気分を切り替える。
さて、次の場所だ。
空を見上げる。
それぞれの場所が遠いのと、この場所で随分と時間を使ってしまった。
あと2時間もすれば暗くなってくるだろう。
今日は次の場所で終わりだな。
「よし、行こう!」
走り出して周りを見る。
コア達もふわふわも相変わらず余裕で付いて来る。
さっきも、洞窟が崩壊すると分かった瞬間速度を上げたよな。
本気で走られたら絶対に追いつけないだろうな。
少し前を飛んでいる魔物の石を見る。
相変わらずこいつも有能だよな。
的確に場所を教えてくれる。
しばらく石を追って走っていると、空中でぴたりと止まる石の姿が目に入った。
目的の場所に到着したようだ。
「ストップ」
俺の言葉に、空中に浮かんでいた石が地面に落ちる。
それを拾うと微かに熱を感じた。
新しい力を少し入れ過ぎたようだ。
気を付けているつもりなんだが、力の調整が難しい。
魔物の石を使って、力の微調整を特訓しよう。
さてそれよりも、本日3ヶ所目だ。
魔物の石が示した場所を確認する。
見た目は何もない。
どうやら隠されているようだ。
「探知」
前の時は手で探ったが、あとで思ったのだがあれは危ない。
そのため今回は、新しい力を体から少し出して神力を探る方法を取る。
イメージは力の触手?
ちょっと不気味な想像になったが、成功したようだ。
見えないが確かに何かある。
さて、時間をかけるのは勿体無い。
ここも力技で押し通す!
目の前にある何かに、力をぶつけるイメージを作り。
「粉砕!」
空気が揺れて、ガシャーンと何かが崩れる音が森に響く。
コア達がびくりと警戒する姿が目に入った。
あっ、またやってしまった。
「ごめん。大丈夫だから」
俺の言葉に少し首を傾げたが、目の前に現れた物を見て頷いてくれたコア達。
結界が壊れた事で洞窟の入り口が現れ、俺のしたことを理解してくれたようだ。
いつも驚かせてしまって申し訳ない。
「しかし、また洞窟か」
さっきみたいに、やたら長いだけの洞窟だったら嫌だな。
……確かめますか。
「行こうか」
洞窟に入ってすぐに気が付いた。
何か空気が違う。
何だろう?
警戒をしながら奥へ進む。
2ヶ所目と違ってすぐに扉にたどり着くことが出来た。
よかった。
「ここの扉も装飾が無いな」
何も無い可能性があるのか?
扉の取っ手に手をかけて力を込める。
抵抗なく開く扉に、2ヶ所目が思い出される。
……何も無いのかな。
扉が開いた瞬間、部屋の中に光が灯された。
少し気が緩んでいたので、一瞬体が硬直してしまった。
慌てて警戒するが、攻撃魔法の類ではなくただの明かり。
「……はぁ」
開いた扉から、部屋に入る。
目の前に広がっていたのは、壁にびっしりと詰め込まれた本。
重厚な机に椅子。
机の上には紙の束が積み重なっている。
「書斎?」
まさかこんな場所があるとは思わなかったので、驚いた。
部屋に入り、本を1冊手に取って中を確認する。
「まぁ、そうだよな。読めるわけないか」
ミミズが踊っているような文字の解析は無理だ。
紙の束を確認するが、同じ文字だった。
何か分かるかと期待したが、無理そうだな。
とりあえず本棚を確認。
机の上の積まれた紙にも目を通す。
残念、日本語ではない。
次に、机の引き出しを順番に開けていく。
何だか悪い事をしている気分になるな。
「ん? 本?」
引き出しの中に、年代を感じる本が1冊。
取り出すと微かに何かの力を感じる。
その力を調べると、神力だが見習いのモノとは違うようだ。
「開けても大丈夫か? まさか開けた瞬間ドカンとか」
まぁ、今までそれはなかったから大丈夫だろう。
開けるか……あれ?
今の考え方に違和感を覚えるんだが。
気のせいか。
……まぁいいか。
ふ~、何も起こるなよ。
本を開けようとすると抵抗する力を感じた。
新しい力を徐々に強めて、力を押し返す。
あと少しと力の放出を強める。
「よしっ!」
ボッッ
「あっ……えっと……」
本に掛かっていた力を押し返すことに成功はした。
が、どうやら込めた力が多かったようだ。
目の前で本が燃えた。
いや、正確には一瞬で燃えて灰になった。
力の微調整って難しいよな。
『重要な本だった』なんてことがないことを祈ろう。




