56.エンペラス国 第4騎士団団長3
-エンペラス国 第4騎士団 団長視点-
部屋の扉を叩き、返事が聞こえる前に開ける。
呆れた部下達の表情など気にしない。
「お疲れ様です。どうですか?」
エントール国のアマガール魔術師に話しかけるが、無視される。
周りにいるこの国の魔導師達も、既に見慣れた光景なので苦笑いをする程度の反応だ。
なぜなら1日に1回は必ず顔を出して様子を見に来ているが、そのほとんどは無視で出迎えられるからだ。
1週間も過ぎれば、いつもの光景だ。
そろそろ今日も終わりという時間に、差し掛かろうとしている。
研究を止めて、休んでもらわなければ。
「アマガール魔術師、そろそろ終わりにしましょう」
「……………………」
「アマガール魔術師、食事にしましょう」
「アマガール魔術師、そろそろ寝ないと」
「アマガール魔術師、……はい、終了」
アマガール魔術師が持っていた何かを取り上げる。
「おっ! 何をする! …………ミゼロスト君、また君か!」
「はい、また俺です。そろそろ今日が終わります。なので、仕事も研究も終わりです」
「……あと少しで区切りがいい」
「駄目ですよ。そう言って朝まで終わらなかった事があるんですから。エントール国の王様からも注意してくれと言われているので」
最初の数日この言葉に騙されたからな。
「あっちでは、もっと丁寧に扱われているんだがな!」
「はいはい」
アマガール魔術師の補佐から、師の扱いについてという手紙で『アマガール魔術師は研究を前にすると幼い子供と同じです。止める場合は集中している原因の物を取り上げる方法が一番です』と教えてもらっている。
なので扱いは変わらないはずだ。
「言っておくが、俺の研究を無理やり終わらせるような奴はいなかったからな」
言い方を変える彼に苦笑が浮かぶ。
「わかりましたから終わりです。ほら食事に行きますよってその前に片付けです。ほら手を動かして」
アマガール魔術師と楽しい会話をしながら、周りを片付けていく。
彼の扱いに慣れてから、既に何度もした会話だ。
俺の態度に大きなため息をついて、片付け出すのもいつもの事。
研究対象を前にしていない時は、すごい人だと感じる事もあるんだけどな。
エントール国から、協力者としてアマガール魔術師がこの国に住みだして既に1ヶ月。
その間ずっと、問題の魔石の研究をしてもらっている。
が、なかなか成果が出ていない。
ただ数日前に、力を吸収しようとしている力が弱まっていると報告がきた。
それがいい事なのか、悪い事なのか分からないが。
片づけが終わり、食堂へ向かう道中いつもの質問をする。
「今日は何か変化がありましたか?」
「ん? おっ! そうだ。あったぞ」
今日は『無い』という返事とは異なるようだ。
ただあの魔石に関しては、良い答えが期待できないのだが。
「何があったのですか?」
何を聞いても落ち着いて対処できるように、気持ちを整える。
「割れていた部分が、一部修復した」
「……はっ?……えっ、ちょっと待ってください。魔力を集められないように結界を何重にも張っているのでは?」
「あぁ、しっかりと結界は張られていた。だが、割れが直ったのだ」
「そんな……」
なぜ魔力の供給を止めているのに修復した?
何処からか集めている?
いや、アマガール魔術師が1日中張り付いているのだから、そうだった場合はわかるだろう。
「言っておくが、完全に魔力からは遠ざけているからな」
「分かっています、アマガール魔術師の力は信じていますので」
「今日の夕方あたりか、いきなりあの縄に何か不思議な力を感じてな。それが落ち着いたら割れが修復されていた」
あの縄が?
どんな意味があるのかと、過去の文献なども調べさせているがいまだに不明な物だ。
まさか修復する力を集めるための物なのか?
そう言えば。
「あの、不思議な力というのは?」
「わからん。言える事は魔力ではなかったという事だな」
はぁ。
また問題が出てきたな。
魔力とは違う力?
神が持つといわれる神力か?
しかし魔力を近付けないだけでは、防げないのか?
どうすれば。
「その不思議な力なんだが」
「はい」
「敵という印象は受けなかった」
敵という印象?
「あ~つまりだ。なんて言えばいいのか……」
俺の表情で理解していない事がばれたみたいで、説明してくれようとする。
だが、説明は難しいのか険しい表情で考え込んでしまった。
「何と言うか、優しかったんだ」
優しい?
余計に分からないのだが。
「あ~、とりあえず、魔石の割れを修復した力に敵意は無い」
と言われても、魔石を元に戻そうとする以上は敵なのだが。
「あの魔石は……いや、やめて置こう。私の中でもまだ良く分かっていない」
アマガール魔術師は大きなため息をつきながら首を横に振る。
彼が分からない事を俺が分かる訳ないな。
しかし、ガンミルゼを悩ます事柄がまた1つ増えたな。
すまない。
「それでだ、新しい力を感じたら接触をしてみるつもりだ」
「……えっ!」
危ない事はしないと、約束しているはず。
アマガール魔術師に何かあったら国同士の問題になってしまうからな。
「エントール国は問題ない。手紙で許可をもらった。何があっても私の責任だ」
「手紙? いつの間に」
「あの王様は私の性格を把握しているからな、魔石の研究中に私が死んでも国の問題にはならない」
「不吉な事を言わないでください」
「悪い、悪い。おっ、今日のスープも美味そうだ。此処は良いな~、食事が美味い」
我々の姿を見て用意される夕食。
「ありがとう、ご苦労様」
夜勤組の食堂職員にお礼をいって、夕飯を受け取る。
確かにこの城の食堂は美味い。
最後に大量に用意されているスプーンから1本取って、椅子を探す。
といっても、この時間に椅子が埋まっている事はない。
誰が夜中の12時に夕飯を食べる。
夜勤組がいるが、食堂が埋まるほどの人数ではない。
「危ない事は、しないでください」
「大丈夫だ。敵という印象は受けなかったと言っただろう?」
確かにそうだが、アマガール魔術師の感覚が理解できないため危険度が分からない。
止めるべきなんだろうが。
それで何か分かる可能性があるなら……いや。
「問題ない。私も危ないと感じたらすぐに引く。まだまだ研究を続けたいからな、死ぬわけにはいかん」
「……はぁ。危ないと感じたらすぐに止めてください。もし余裕があるなら、俺を呼んでください」
「あ~、わかった。わかった」
……止められる事を考えて、俺を呼ぶ気はないな。
魔導師達に話を通しておくか。




