55.家の家訓……まさか
「許さないとは思っても、何をすればいいのか……」
俺は頭が良くないからな。
此処までの方法も、母の受け売りだし。
1つ、問題が起きた時、まずは動くな
1つ、味方と敵をしっかり把握
1つ、とりあえず時間を稼ぐ
1つ、相手の話した内容を、1つでも多く思い出す
1つ、自分が1番に何を求めているのか、しっかりと確認
1つ、身動きが出来ない時は、無知であれ、馬鹿であれ、考えるな、ありのまま全てを見ろ、そして知れ
ただし、無駄に敵を作るな
事をなす時は、
1つ、出来る事を全て確認しておく事
1つ、逃げ道の用意、逃げる事はけして負けではない
我が家の家訓だ。
子供の頃から何度も聞き、そして役立ってくれた。
姉曰く、仕事だけでなく恋愛にも使えるそうだ。
今まで俺の恋愛関係では役に立ったことは無いが……。
とりあえずは俺にできる事と制限されている事を、しっかりと確認していくか。
魔法による攻撃も防御も出来る。
結界魔法も使えるし、怪我の治療や疲れを取る魔法も問題ない。
ただし、飛べない。
コア達を見て、飛べるのではと考えて挑戦したが飛べなかった。
魔法は発動しているようなのだが、体から発動した魔法が逃げる?
ん~、散らばって纏まらないような感覚になる。
「発動した魔法が、制限を受けている感じだよな」
それと同様に瞬間移動も無理だった。
有名なアニメを思い出して、イメージは完璧だったのだが飛ぶ魔法同様に力が四散した。
あと、言葉だ。
ウサとクウヒを見る。
2人は、俺以外にはこの世界の言葉で話している。
ちょっと後ろめたいが2人の会話を聞いて、この世界の言葉を耳に慣れさせようと考えた。
友人が数ヶ月英語圏で生活すると「英語耳」になって理解できるようになったと喜んでいたからだ。
しかし、2人と出会ってそろそろ8ヶ月。
未だに2人の言葉を理解できていない。
耳はしっかりと音を拾えているのだが、分からないのだ。
違和感を覚えて集中的に頑張った時期もあるが、やはり音を理解できなかった。
言葉にも、何らかの制限が働いていると考えた方がいいだろう。
おそらくこの世界の人や獣人と関わらせない為かと思うのだが、意味があるのだろうか?
言葉が理解出来ずとも、ウサやクウヒとはいい関係を築けている。
と、俺は思っている。
彼らが子供だからという事も考えられるが。
そしてコア達にもそれは当てはまる。
ウサとクウヒの話す内容を、コア達が理解しているようなのだ。
今のところ、コア達の話す内容をウサ達は理解出来ていないようだが。
そして岩人形達。
彼らも、ウサとクウヒだけでなく、コア達の言葉を全てではないようだが理解し始めている。
なぜ俺だけ言葉が理解できない様になっているのか。
ん~、理由がさっぱり分からない。
俺を完全に孤立させたいなら、コア達と出会うのを妨害すればいい。
出会った後に妨害を考えた?
いや、それは無いな。
俺は、少しずつ仲間を増やしたんだ。
邪魔をされたような印象は無い。
何だか中途半端な妨害だよな。
「意思の疎通と、この世界から出て行く事が禁止されているって事なんだろうな」
だが、そもそもこの星を出て何処へ?
日本?
帰り方なんて全く分からないのだから、心配される必要は無い。
今分かっているのは、この星では意思の疎通が出来ず、力によってこの星から出られないという事だ。
次に気になる状況は、力の暴走だな。
4人の勇者の力が段階的に増えた事は対処が済んで問題ないと聞いたが。
いや、神が何処まで真実を話してくれたのか分からない。
この状況で、神を信じる事は出来ないな。
ただ、勇者達の力は、魔力なんだよな。
暴走し始めているのは新しい力の方だ。
そもそもこの新しい力が、どんな存在なのかが分かっていないからな。
分かっている事は、魔力や神力よりも力が強いという事だ。
「暴走を止める方法か」
龍達に今の俺の状況を伝える事が出来れば、何らかの解決策を聞くことが出来たかもしれない。
だが、ジェスチャーには限界がある。
今も、なかなか伝わらない事があるからな。
伝わったとしても、彼らが俺に何かを伝える事が出来るかどうか。
何処に制限があるのか、まだ分かっていないからな。
制限だけとも言い切れない怖さもある。
……んっ?
ある考えが頭をよぎる。
それは、ほんの少しも考えたくない事。
だが、もしそうなら全てが繋がる。
この星から出られない俺が、力を暴走させたらどうなるか。
……危険を伝える事も難しいとなれば……。
この世界で出来た仲間と、平和に過ごせればいいと言った俺に。
「この星を潰させるつもりか? 仲間を巻き込んで?」
怒りがふつふつと湧き上がってくる。
グッと握りしめた掌に痛みが走る。
掌を見ると、爪が食い込んで血が滲み出ている。
もし本当にそう考えているなら最悪だ。
いや、まだそうと決まった訳ではない。
そうだ、決めつけは駄目だ。
今は冷静にならなければ。
「はぁ~」
少しでも、気持ちが落ち着くように長く息を吐き出す。
ふわりと暖かい風に包まれる。
それに驚いて、下を向いていた視線をあげる。
目の前には飛びトカゲの姿。
「どうした?」
驚いた。
飛びトカゲは他の龍達より行動が落ち着いている。
俺としては龍達のお父さんというかまとめ役というか、そんな存在だ。
その飛びトカゲが、じっと俺を見つめている。
不思議に思い見つめ返す。
何だろう?
飛びトカゲを見つめていると、不意に飛びトカゲと違う物が目に映る。
えっ、何度か瞬きをすると見えなくなる。
だが、またすぐに飛びトカゲに何かがかぶさって見える。
何だこれ?
飛びトカゲが俺に見せているのか?
しかし、何だ?
かなりノイズが入っていて見えづらい。
映像には何か巨大な石が映っている。
ん?
何でこの石、しめ縄なんてしているんだ?
この世界で、まさかしめ縄を見る事が出来るとは。
かなり有名な石なのだろうか?
もっとよく見ようと体を前へ突き出すと、映像が切れてしまった。
飛びトカゲを見ると、なんだか不思議そうな表情をしているように見える。
そして、自分の体を見回している。
もしかして、今の映像を見せる事で何か起こったのだろうか?
「大丈夫か?」
俺の声に、喉を鳴らして顔を突き出してくる。
ゆっくりと頭を撫でると、目を細めて気持ちよさそうだ。
あれ?
何だかいつもより力を感じない。
龍達は力を膨大に持っているためか、触れると強い力を感じるのだが今はそれがない。
もしかして、今の行為で力を抜かれた?
もしそうなら、龍達やコア達に協力を求めるのは危険だ。
「ハハ、ある意味徹底しているな」
それよりあれは何だったのだろうか?
巨大な石。
しめ縄?
この映像のモノに制限があるという事は重要な物なのだろうな。
「しめ縄……俺の家の近くの御神木のしめ縄に似ていたな」
そういえば、『マガン』の反撃の時に、しめ縄をイメージした事があったな。
あれも御神木のしめ縄をイメージしたな。
…ん?
もしかして一緒だったりするのか?
まさかな?
「とりあえず、重要な物なんだろうな」




