51.ぎゃ~!……悪魔犬?
「ぎゃ~……ちょっと、速い速い! ぅわっ! もっと低く~」
卵と似た力を持った石? の回収だけだったため気持ちに余裕があった。
なので、アメーバ達に誘われるままに遊んでいたのだが。
今は、恐怖の真っただ中にいる。
アメーバは透明なので、乗るのに少しだけ勇気が必要になる。
なぜならアメーバの体は一切濁りなどない透明なので、本当に下が綺麗に見える。
そのため上空で足元を見ると、空中に投げ出されたような心細さを感じる。
手に持ったアメーバが作ってくれた取っ手の感触だけが頼りなのだ。
アメーバも最初は、ゆっくり飛んでくれていたのだ。
なので、安心していたのだがコアとチャイがアメーバの周りをくるくる、くるくる。
それが気になったのか、いつの間にかコアとチャイを追いかける状態になってしまった。
しかもなぜか、コアとチャイがスピードをあげダッシュ。
やばいと思った時には遅かった。
アメーバはコアとチャイを追いかけてしまい、どんどんスピードが上がる。
手で持っていた取っ手を抱え込むようにして持つが、時々体が浮いているのが分かる。
アメーバ達が飽きるのを待つしかないのだが。
「落ちる~! 死ぬ~~~!」
森の中に、俺の情けない声がこだましている。
今日、一緒に来ていたアイの子供達が、コアとチャイに向かって遠吠えをしている。
それに煽られているのか、コアとチャイの走るスピードが上がる。
そうなるとアメーバのスピードも……。
何と言うか、アメーバってこんなに速く空中を飛べたのか。
それに驚きだ。
こんな状態で知りたくなかったが!
「ぅお~、ちょっ……」
時間にしてそれほど長くはない。
たぶん10分ぐらいだろうか。
俺としては、永遠とも思える時間だったが。
「疲れた……死ぬかと思った……」
ようやく終わった追いかけっこ。
地面に降り立つと、全身の力が抜けてその場に倒れ込む。
ずっと体に力を込めてアメーバにしがみ付いていたので、体全体が悲鳴をあげている。
酷使しすぎだ。
って言うか、今日は何をしに此処に来たんだっけ?
……あっ、3馬鹿の対応だ。
アレが早く終わったから、アメーバ達と遊んでこうなったと。
3馬鹿共のせいだ、石像だけとか何なんだよ。
こんちくしょう!
「穏やかに遊ぶ方法って何かないかな。それにしても体が動かん」
何とか体が動く状態になったので、立ち上がる。
足は大丈夫だが、しがみついていた腕の痺れが収まらない。
あっ、……忘れていた。
「魔法が使えるんだった……なんですぐに思い出さないかな。はぁ……ヒール」
スーッと消える痺れと痛み。
魔法って最高だな~。
……さて、家に帰ろう。
とっとと帰って休もう。
「いや、もう乗らないよ。絶対に乗らないから。……本当に今日は勘弁して」
アメーバ達の表情は読みづらいが、一緒にいる時間が長くなればある程度読めるようになる。
その顔が、断るたびに悲しそうに歪む。
絶対無理。
今日は無理。
本当に……
「……ゆっくりだったら、まぁ」
何で折れるんだ俺!
悲しそうな表情に弱すぎる。
仕方ない、気合を入れよう。
良かった、帰りはゆっくりだ。
少し俺の状態を見て反省をしてくれたのだろうか?
それだったらうれしいが。
家が見えてくると、心の底からホッとした。
ヒールの魔法で、体の痺れや疲れは取れたが心労は無くなってくれない。
遊ぶのも命がけとか~……ハードだ。
家に入り、リビングに向かう。
卵の様子を見るためと、拾ってきた? 卵に力を与えるためだ。
リビングに入ると、土龍の飛びトカゲが卵と眠る? ベッドの近くで寝そべっていた。
俺が入ると顔をあげて確かめてくるので、手を挙げて挨拶してみる。
グルッ
……鳴いた!
えっ、あれ?
今まで龍達の声って聞いたことがないよな。
思い出してみるが、記憶にない。
威嚇音は聞いたことがあるが。
「鳴けるのか?」
グルッ
鳴くというより、喉が鳴っている感じだな。
でも、まぁちょっとうれしいな。
挨拶を返してくれるのって。
「おあけり」
「おかえり」
ウサとクウヒの声が後ろから聞こえた。
どうやら畑仕事を手伝っていたようだ。
ウサは時々言葉を噛むな、クウヒの方は完璧だ。
「ただいま、ご苦労様」
ご苦労という言葉は未だに分かっていないので、2人とも少しだけ首を傾げる。
ニュアンス的に、労わっているという事は理解しているようだが。
さて、卵はどうしているかな?
卵が寝ているベッドを確認する。
3匹分の表情を確かめるが、目を閉じて寝ているようだ。
持って帰って来た石を、鞄から取り出す。
飛びトカゲがぐっと顔を持ち上げて、力を持った石を見ている。
やはり、この力にかなり反応を示すな。
「いったい何の力なんだろうな? 魔法は魔力、神様たちが使うのが神力。他に何があるんだ?」
龍達は神様の使いというイメージだな。
その龍達がこれほど反応を示すとなれば、敵対関係の力か?
神様の敵といえば……ん?
悪魔?
ハハハ、悪魔なんて……神様がいるんだからいたりして。
卵の中の子犬もどきを見る。
悪魔犬?
今の状態は、かなり弱々しいのだが。
手に持っている、力を発している石を見る。
悪魔だった場合、目が覚めたら龍達と殺し合いでもしたりするのかな?
それは駄目だ。
確かに拾った以上、責任はあるが犬もどきより龍達の方が優先だ。
だが、悪魔犬と決まった訳ではないし。
ふ~、弱っているのを見ない振りって難しいな。
何か起きたら、起きた時だ!
手に持っていた石を……どうしたらいいんだ?
石の力は、やはり卵から感じる力と同じだ。
なので弱っている様子だから力をあげたいのだが、方法が分からない。
そもそも、力ってあげる事が出来るのか?
「何も考えてないな俺。どうして力をあげられると考えたんだ?」
はぁ、んっ?
手に持っていた石が少し暖かくなったような気がしたので、視線を向ける。
見た目に変化はないが、少しずつ暖かさが増している。
とりあえず卵の近くに置いたら反応したりしないかな。
ベッドの中に石を置いてみる。
特に変化はない。
やはり無理があるか。
石を取ろうとすると、石の中から小さな黒い光が飛び出してきた。
そして卵の中に吸収される。
「まさかうまくいくとは。って言うか問題ないよな?」
卵の中の様子を見るが、特に変化は見られない。
様子を見ていた飛びトカゲも、卵をじっと見ているだけだ。
「大丈夫そうだな。とくに問題もないようだ」
黒い光が飛び出していった石を手にもつ。
先ほど感じた暖かさは感じない。
あったはずの力も消えている。
本当に、卵に移動したようだ。
もう一度卵を見ると、透明な卵がうっすらと白く濁っていた。
えっと、問題ないよね?
まだ中が見えるぐらいの濁り方なので、中の犬もどきを確認する。
中の1匹が目を開けているのが、分かった。
手を少し振ってみると、視線が合う。
その瞬間、背中をぞくりと何かが駆け上がる。
寒気というか、恐怖というか。
そう言えば、前も視線が合った時に感じたな。
……やっぱり悪魔犬なんだろうか?
大丈夫だよな?
かなり不安だが、なんとなく全て手遅れだと感じる。
それに、目があった犬もどきなのだが以前より俺を見る視線が優しいような気がする。
たぶん、きっと……俺の願望ではないはずだ。
なのでそれを信じよう。
しばらく見つめあっていると、ふっと目を閉じて寝てしまった。
まだ弱々しさが窺える。
そういえば、今回の場所と似た場所があと3ヶ所あったな。
ちょっと急いで確認しに行くか。
卵の中の犬もどきを見る。
3つの頭のうち目を覚ますのは、いつも同じ1匹だ。
他の2匹は目も開けることなく、ずっと眠っている。
その2匹のうちの1匹なのだが、少し呼吸が荒い。
卵を見た時から気になっていたのだが、解決方法が何も無いため困っていたのだ。
石像にあった力が解決してくれるかどうかは不明だが、やるだけの事はしないとな。
「なるべく早く力を持って来るからな」
俺の言葉が聞こえたのか、初めて尻尾が揺れた。
ちょっとは元気になっているのかな?
グル?
俺の隣で飛びトカゲが喉を鳴らすが、その語尾が上がっている。
横を見ると、飛びトカゲの額にくっきりと皺が刻み込まれている。
龍の眉間に皺。
何ともミスマッチだが、困った感じで可愛いな。
「大丈夫だと思うぞ」
今の犬もどきの反応を見てそう感じたので信じる事にする。
不細工だが、反応は可愛いのだから。
……すっごい、不細工だが。




