49.力の暴走?……特訓
ふっと意識が浮上する。
体の中が熱い。
毎日の事なので、これにも慣れてしまったな。
慣れていい状態ではないと思うが……。
「どんどん熱さが増しているような気がする」
微かに不安が過ぎる。
少し思い当たることがある。
それは、力の暴走だ。
俺がこの世界で生き残れたのは、絶えず力を放出し、時には膨大な力を使っていたかららしい。
神様の話では、もう止まっていると言っていたが当てにならないだろう。
今のこの世界では、それほど膨大な力を使う機会はない。
もしかしたら、俺の中に余分な力が溜まってしまい、それが暴走している可能性がある。
だがその場合、力を放出したらいいのではと思うが、どれだけの量が放出されるのか。
それに、その無駄な力が世界に影響を与えてしまうかもしれない。
他の方法は……思いつかないな。
今はまだ大丈夫だろう。
それにまだ『それ』と決まったわけでもないからな。
もう少し様子を見るしかないな。
……だが、少し覚悟をしておくべきだろうな。
とりあえず、今日も……………………3馬鹿の対応か。
止めたいな~。
ほんと、嫌だ。
3馬鹿をこの世界に連れて来てほしい。
そうしたら、思いっきり心の底から罵倒するのに。
というか、次に神様が来たら絶対に怒鳴りつけるだろうな。
あ~、このまま冬眠したい、夏だけど。
って、何を馬鹿な事をグダグダと。
「本当に嫌な事を目の前にすると、人は何とか回避しようと無駄な事を考えるんだな」
……これも無駄な事だが。
はぁ~。
逃げていても仕方ない、頑張るか。
頑張れるかな?
いや、やるしかないか。
「あ~、グダグダと鬱陶しい!」
自分の事だが、意気地がない。
「頑張れ俺!」
……なんだかちょっと恥ずかしいな。
周りを見る。
誰もいない。
よかった。
少し重く感じる体を動かして、リビングへ向かう。
リビングに入ると、子天使が飛び回っていた。
「おっ、2人とも飛べるようになったんだな。って危ないぞ」
部屋中をなぜかグルグル、グルグル。
何をしているんだ?
……追いかけっこ?
追いかけられている天使は、手に何かを持っているな。
あれは、パン?
「パンを食べられる様になったのか?」
で、どうして1つのパンを取り合っているんだ?
机を見る。
焼き立てのパンが置いてある。
美味そうだ。
あのパンと天使が手に持っているパンは違う物なのか?
しばらくリビングの入り口で様子を見ていると、キッチンから1個のパンを持った「一つ目」が出て来る。
追いかけていた方の天使がスッと「一つ目」に近づくとパンを受け取って、ベビーベッドへ飛んで行った。
「ん~、さっぱり意味が分からない」
ベビーベッドへ近づいて様子を見る。
パンに齧り付く天使。
何気に癒される。
あっ、何か挟んである。
あの色は、蜜かな。
蜂蜜みたいな甘い蜜が取れる花がある。
その蜜が塗ってあるパンだったのか。
なるほど、天使達は2人とも甘党か。
「おはよう、ごはん食べる」
ウサの声に、朝の挨拶をしながら椅子に座る。
すぐさま、スープが運ばれてくる。
今日の朝食は、燻製した肉が入ったスープに果物のソースが掛かったサラダ。
いつ食べても美味しい。
パンも……豆パンか。
初めて出てきたが美味い。
あっ、卵の様子を見るのを忘れていた。
卵が寝ている? ベビーベッドを見る。
此処からでは全く見えない。
後でいいか。
今は食事を楽しもう。
「あ~、美味しい」
そう言えば、今日は暑さが落ち着いている。
この世界の激暑の時期は過ぎたのか?
去年より、ちょっと短いな。
「ごちそうさまでした」
『ごちそうさまでした』
ウサとクウヒと一緒にお皿を片付ける。
さすがに、全てを一つ目達にしてもらうわけにはいかない。
しっかりと自分の事は自分でしなくては……出来る範囲で。
「さて、卵は?」
卵が寝ている? ベビーベッドへ近づく。
ちらりと天使達を見ると、1人は食べ終わって寝ているようだ。
もう1人はパンを咥えたまま寝ている。
この子は追いかけていた方の天使だな。
どうやら、頑張りすぎたようだ。
パンが邪魔だろうと、取ろうとするとうっすらと目を開けて口を動かす。
……食べるのか。
すごい、根性だ。
まぁ、一つ目達に任せよう。
それにしても。
「本当に可愛い」
違う、卵の様子を見に来たんだった。
卵に視線を向けると、視線が合った。
……視線が合う?
不思議に思ってよく見てみると、卵の中の3つある頭の1つの目が開いて俺を見ている。
「あぁ、目を覚ました……って違うな。見えているのか、これ」
ちょっと手を振ってみる。
それに合わせるように視線が動く。
「見えているのか」
卵が透明なので外の様子が見えるのか。
というか、えっと……産まれるのか?
どうしようかと考えていると、起きていた目がスッと閉じた。
そして、動かなくなった。
どうやら寝たらしい?
よかった。
今産まれたら、パニックになる自信がある。
はぁ、もうしばらくこのままでいて欲しい。
とりあえず、3馬鹿が残した問題の対応が済むまで。
「とりあえず、もうしばらくゆっくり寝ていてくれ。よろしくな」
卵をゆっくりと撫でる。
ん?
ちょっと揺れた?
って、卵が揺れるわけないよな。
それにしても、目を覚ましてもやっぱり不細工だったな。
もう少し可愛げが……期待はしない方がいいか。
何だろう、目がものすごく吊り上って細いから?
口がちょっと裂け気味に見えるぐらい大きいから?
ん~、全てのバランスがちょっと残念なんだよな。
そう言えば、目の色は真っ赤だったな。
子犬もどきのくせに、ものすごい目力があった。
視線が合った瞬間、なんだかぞわっとした恐怖を感じたからな。
ウッドデッキから見る庭は、なぜか龍達が占領している。
そう言えば、龍達が訓練をしているのを初めて見るな。
何か心境の変化でもあったのだろうか?
「それにしても、すごい迫力だ」
昔テレビでやっていた怪獣戦争の映画が再現されているようだな。
それにしても、龍達の魔法ってやっぱりすごい威力だな。
あっ、火柱が上がった。
おっ、氷の槍が地面に突き刺さったぞ。
……雷って何もない空中からでも作られるんだな。
ん~、吹雪で視界が奪われたので何をしているのか分からないが、音だけでもすごい事はわかるな。
とりあえず、龍達は絶対に怒らせないようにしよう。
俺には優しいが、調子に乗らないように気を付けないとな。
それにしても怪我とか大丈夫かな?
ときどき子蜘蛛達とかちびアリ達が、特訓で怪我をしているのだが。
あんなすごい攻撃の怪我とか、命に関わるのでは?
あ、吹雪が止まった。
白く覆われていた視界が晴れてくると、龍達の無事な姿が目に入る。
よかった、怪我はしていないようだ。
どうやら特訓も終わりらしい。
庭を覆っていた結界が消えるのを感じた。
そう言えば、誰が結界を担当していたんだ?
あの龍達の魔法を防ぎきるとか、すごすぎる。
庭を見渡すと、ほとんど全員が特訓を見ていたようだ。
さすがに、龍達の訓練に突進する猛者はいなかったようだな。
おっ、あれはコアと親玉さんか?
2匹の周りに、魔法を発動する時に現れる力の揺れを感じた。
結界はあの2匹が力を合わせたのかもしれない。
龍達が、3mぐらいのサイズになってからウッドデッキに向かって飛んで来る。
ちょっと皆、ふらふらしているように見えるが。
「大丈夫か?」
声を掛けると、しっかりと頷かれた。
大丈夫と言う言葉は、意味までしっかり伝わっているので問題ないだろう。
さて、3馬鹿の残した問題の箇所はあと8ヶ所。
そう言えば、4ヶ所はすごく遠いんだよな。
俺の家が森のほぼ中心部分にあるんだが、4ヶ所は森のはずれ。
森から出る少し手前に反応があった。
しかもこの4ヶ所をつなげるとほぼ正方形。
五芒星の事があっていろいろ見ていたら判った事なんだが。
これにも意味があったりするのだろうか?
「クゥ~ン」
腕にすりっと顔をこすりつけるチャイ。
視線を向けると心配そうな表情をしている。
どうやら考え込んでいたため、心配をかけたようだ。
「大丈夫。優しいなチャイは」
頭を思いっきり撫でる。
気持がいいのか、すりすりと頭を擦りつけてくるのだがなんせ力が強い。
体に力を入れてふらつかない様にする。
撫でる行為も全身運動だ。
甘えてくれるのはうれしいが、見た目以上にハードだ。
「チャイ、そろそろ問題の場所に行こうか」
そろそろ後ろに倒されそうだ。
その前に止めよう。
「クゥ」
チャイは俺から離れるとコアにそっと寄り添う。
……本当に仲がいいな。
「さて、近場から制覇していきますか」
昨日の夜、場所は確かめておいた。
浮かぶ島がある湖を越えて、すぐの場所だ。
呪詛の骨でも天使でも卵でもありませんようにと、心の中で祈る。
神様は心情的に嫌だったので、俺の家の近くにあった樹齢2600年といわれる御神木に祈る。
クスノキの老木で御神木としても有名だ。
神様より頼りになると思う。




