48.威嚇が怖い……必要?
「ただいま」
疲れた。
3馬鹿の作った洞窟は問題なかったが、親玉さん達の威嚇で非常に疲れた。
おっ、龍達だ。
ん?
なんだ?
龍達の動きが止まっているけど。
「えっ! おぉ~」
いきなり、毛糸玉が上空に向かって炎を噴いた。
その炎の勢いに正直ビビる。
恐すぎる。
というか、なんでいきなり炎を噴いたんだ?
何か問題……あ~、龍達の視線を追うと親蜘蛛さんが持つ卵に向かっている。
そうだな、親玉さんがあんなに威嚇したんだ。
龍達だって、何らかの反応を見せるだろう。
だからといって、いきなり炎を噴くのはどうかと思うが。
それにしても龍達にまで警戒されるなんて。
この犬もどきって本当に何者なんだ?
って、興奮している龍達を落ち着かせないと、第2弾を噴きそうだ。
「あ~、たぶん大丈夫だから」
俺の言葉に龍達の視線が俺に向く。
何だろうな、ちょっと怖い雰囲気だ。
う~、頑張れ俺。
「大丈夫、だと思うから。きっと」
言葉が通じなくてよかった。
今の言い方は、通じていたら絶対にアウトだろう。
今日ほど、言葉が通じていない事に感謝した事はないな。
何とも、調子のいい話だ。
親蜘蛛さんの背中からおろされた卵に近寄る。
けっこうな振動があったはずだが、中の犬もどきに動いた様子は見られない。
一見死んだようにしか見えないな。
まぁ、よく見ると心臓の部分が微かに動いているのが分かるのだが。
それにしても顔は3つあるのに、心臓の位置は俺と一緒なんだな。
なんて意味のない事を考えて、周りの不穏な気配をちょっと無視しておく。
「ハハ、龍達に睨まれているような気がして心臓に悪いな。今日は絶対に厄日だ」
周りの様子に視線を走らせると、親玉さんと龍達が集まっているのが目に入った。
そう言えば、あの子達って種が違うのに言葉が通じているんだよな。
ただ、親玉さんも龍達もお互いに違う音を発しているので言語? とは違うと思うのだけど。
どうやって通じているんだ?
アレが分かれば俺も会話に入れるかな。
あ~、でも今は「役に立たないくせに、また面倒なモノを拾ってきやがって」とか言われてそうだな。
……想像だけでも頭が痛くなりそうだ。
ん?
卵が動いている!
って、一つ目達が移動させようとしているだけか。
産まれるのかと焦ってしまった。
そうだ、産まれたらどうするかも考えておかないとな。
それにしても、『天使』に『皆が警戒する不細工な犬もどき』。
はぁ~、もう本当に神様はこの星の何を調べて問題ないと言ったんだ?
見落とすにも程がある。
次に会った時は、本気で話し合おう。
クイッと引っ張られるので、視線を向けると一体の『一つ目』が腕を引っ張っていた。
「どうした?」
その『一つ目』は腕を離して家の方へ歩いて行く。
見ていると途中で立ち止まって、俺に視線を向けた。
これは、付いて来いという事なのであとを追う。
俺が動き出す姿を確かめると『一つ目』は再び家に向かって歩き出した。
家の中に入り、『一つ目』と一緒にリビングへ向かう。
俺の後にはコアとチャイ、アイも来ている。
その後ろには毛糸玉とふわふわが体を小さくしてついて来た。
リビングでは子天使達がそれぞれ機嫌よく1人遊びをしているようだ。
魔物の石に向かって、光が走っているのが見える。
それにしても、毎日飽きずによく続くよな。
あっでも、少しずつ遊ぶ時間は減っているな。
やっぱり飽きてきたのかな?
違う遊び道具は……一つ目達が考えるか。
まぁ、任せておこう。
俺のする事は卵の対応だな。
卵を探すと、テーブルの上に置かれていた。
転がらないようにだろう、何重にも重ねた布の上だ。
テーブルに近づいて卵に手を添える。
ほんのり伝わってくる熱。
やっぱり生きているんだよな。
これって親玉さんやシュリの卵と一緒で、魔力を流す必要があったりするのかな?
流したら産まれる?
そう言えば、この卵や犬もどきの力って魔力でいいのかな?
少し調べてみるか。
卵にそえた手から、ゆっくりと力を感じとる。
……ん?
あれ?
俺が知っている力とは異なるみたいだ。
という事は、魔力ではない。
それに3馬鹿から感じた力とも違うな。
神力でもないという事か。
それにしても、この力はなんだろう。
感じただけなのに、ものすごく寒気を感じる。
しかも、気分が悪くなるな。
卵から手を離して大きく深呼吸する。
掌に少し違和感があったので、見ると。
「あっ、火傷?」
掌には小さな火傷が沢山。
違和感は火傷のピリピリ感だったようだ。
これって卵から感じた力にやられたって事か?
「やっぱり元の場所に戻した方がいいのかな?」
初めての経験に正直とても困っている。
まさか力を調べただけで怪我をするとか、考えてもいなかった。
どうしようか。
とりあえず、治すか。
「ヒール」
掌が優しい光に包まれ火傷が消えると、感じていた違和感も消えた。
よかった。
魔力での治療は出来るらしい。
治癒魔法で治せない場合は、本気で元の場所に戻すことも考えないと駄目だったからな。
掌を見ていると、肩にすりっとコアが顔をこすりつける。
見ると、心配そうな視線を感じる。
チャイもそばで様子を見ている。
「大丈夫。火傷はもう治っているから」
火傷が癒えた掌を見せてから、2匹の頭をそっと撫でる。
気持よさそうな表情に癒されるよな。
今日は特に、心が疲弊しているからな。
リビングの出入り口から一つ目達と三つ目達が入ってくる。
その手には、細い木。
何かを作るようだ。
準備を始めたのは、子天使達が寝ているすぐ隣。
見ていると、ベビーベッドが組み立てられていく。
ただし、天使達のモノと比べるとかなり小さい。
「……まさか犬もどきのためのベッド?」
えっ、卵を寝かせる場所を作っているのか?
まぁ、確かに場所があった方がいいのだろうが。
犬もどきといっても、今は卵だ。
卵にベビーベッド?
何だそのシュールな見た目は。
って、出来上がっているし。
子天使のベビーベッドの隣に新たに小ぶりのベビーベッド。
そして1体の『一つ目』が卵を持って行って中に寝かせて? いる。
そしてなぜかベッドの上に作られる魔物の石のクルクル回す玩具。
……あれは必要ないよな、絶対に。
もしかして、玩具ではなくて意味が他にあるのか?
設置されていく魔物の石を見る。
天使達のとは違い、カラフルだ。
天使達の上にあるのは透明の魔物の石だ。
卵の上にあるのは、全ての色の魔物の石があるようだ。
やっぱり意味があるのだろうか?
「考えてもさっぱりだな。はぁ、言葉に知識に足りないモノばかりだな」
それにしても岩人形達ってあの卵を怖がらなかったな。
毛糸玉もふわふわも、いまだに警戒しているみたいなのに。
もしかして俺が作った人形達だから、あの卵が何か分かっていない可能性もあるのか。
分からない物を怖がったりなど普通はしない。
「出来たみたいだな」
綺麗に整えられたベッド周辺。
卵に必要は無いと思うが。
まぁ、一つ目達が満足そうなのでいいだろう。
何かあった場合、彼らが一番に気が付くだろうし。
「そう言えば、卵の力を調べていたんだった」
すっかり忘れていた。
って、魔力でもなくて神力でもなくて、俺の作った力とも違う。
……答えは出ないな。
とりあえず、卵力?
何ともしまりのない言葉だな。
触れただけで怪我をさせられる力なのに。
「それにしても色々力ってあるモノなんだな。日本で平凡に暮らしていたら知らなかった事だな」
……知りたかったか? と聞かれたら、必要ないと答える事だけどな。
それにしても、疲れた。
精神的疲労がこの頃多すぎる。
3馬鹿の残している物って精神的にくるよな~。
意味の分からない物も多いし。
残りは……まだ、8ヶ所もある。
逃げ出したいかも……。




