46.色々な個体……卵か~
さて、火山に対する完全防御の魔法って何が必要なんだ?
火山はマグマによる熱だよな。
つまり……熱の対策でいいのか?
「まぁ、とりあえず。熱さ完全防御」
マグマの中を自由に歩けるようにイメージして魔法を発動。
マグマの中を歩くなんて事は絶対にしないけど。
考えただけで恐ろしい。
準備も完璧?
だと思う事にして、3馬鹿のやらかした場所へ行きますか。
此処からだと走っても1時間ぐらいで着くかな。
「いってら」
「いってらっしゃい」
ウサとクウヒに手を振って、ウッドデッキから森へ向かう。
農業隊達も手を休めてこちらを見ているので手を振っておく。
すると畑仕事を手伝っている、子アリや子蜘蛛、土のアメーバ達も反応を返してくれる。
なんとなく和む風景だ。
あっ、親蜘蛛さんが畑の上を飛んでいる。
そう言えば、あの子は羽が大きく成長しているな。
元々親玉さんは羽を持っていたからそういう個体だろうけど……羽が大きくなりすぎているような。
まぁ、本来の形が分からない為何とも言えないのだが。
この頃は、シュリの子供達にも個性的な子が現れてきているんだよな。
蜘蛛もアリもそんな簡単に変化していいものなのだろうか?
まぁ、皆元気に育っているので問題はないと思うが。
変化って必要に応じてするものだったはず。
この生活の何処に変化が必要なんだろう?
俺との生活で?
だったら、俺の責任になるのだけど……原因が分からない。
ん~、もう少し様子を見るか。
森を少し進みながら、周りを見る。
今日のお供は親玉さんと、親蜘蛛さん達5匹。
そして親アリさん達5匹……えっ!
大きな鎌を持った子アリが1匹。
初めて見る個体だ。
と言うか、何だろうそのものすごく切れ味の良さそうな鎌は。
必要に応じて?
えっと、そんなものが必要な生活ではないと思うのだが。
木を切る為?
じっと鎌を持った子アリを見ていると、なぜか胸を張って鎌を構える仕草をする。
……かっこいいと思うが、何に必要なんだろう。
ものすごく気になる。
時間がある時に、じっくりと観察してみよう。
とりあえず今は、マグマに対する防御を全員に施しておこうかな。
「熱さ完全防御」
全員の周りがうっすらと光りすぐに消える。
おそらく防御魔法が掛かったはずだ。
親玉さんが不思議そうに体の周りを見ているが、何か問題でもあったのだろうか?
様子を見てみるが、特に何もない。
大丈夫という事でいいか。
「さて、行こうか」
足に力を入れて森の中を疾走する。
やっぱりこの速さで走るのは気持ちがいいよな。
通常では絶対に無理と言うか、これで日本に帰ったら世界記録を塗り替えられるだろう。
一躍有名人間違いなし。
まぁ、俺の全力疾走も親玉さん達は余裕で付いて来るけど。
それにしても、その巨体がどうやればそんな速く走れるのか不思議だ。
しかも、走ると言うより木と木の間を飛び跳ねているように見える。
それで、その速さ。
さすがだ。
まぁ、親アリさんたちもものすごいスピードで地面を走っているよな。
途中にある、株とか倒れた木とか一切気にせず。
と言うか、勢い余って倒れた木とか時々吹っ飛んでいるし。
怖ろしい。
そう言えば鎌を持った子アリは走れているのだろうか?
後ろを確認すると、大きかった鎌の部分がギュッと折りたたまれている。
まさかの折り畳み式。
便利だな。
そして、鎌の部分を使わなくても速く走れるのか……ものすごく負けた気分だ。
「この辺りだな……」
1時間ぐらいで目的の場所近くに到着。
火山の近くとはいえ、似たような場所が多いので間違いがないか周りを詳しく見ていく。
火山の方角と倒れている木などからおそらく問題なし。
で、ここからが問題だ。
3馬鹿の作った洞窟の入り口を探すのが結構手間なのだ。
だが今回は、前回の失敗を踏まえて魔物の石を持参した。
飛んで来るのを待つより確実だからな。
ポケットから魔物の石を取り出して「吸収はじめ」魔法を発動。
石が光って、近くの岩に吸い込まれていった。
……ん?
吸い込まれたけど、どうなっているんだ?
しばらくすると岩が微かに光り、魔物の石が岩から飛び出してくる。
えっと、岩に何か魔法が掛かっているという事だろうか?
魔物の石を手元に呼んで「吸収ストップ」
動かなくなった石をポケットに入れて、岩に近づく。
「なんだかものすごく怖いな」
そっと岩に手を当てて……生暖かい感触に触れる。
「ぅおっ!」
想像とあまりに違ったため、叫び声をあげて手を離す。
気持が悪い感触だ。
と言うか、生暖かかったんだが。
もう一度、今度は先ほどの感触を思い出しながらゆっくりと手を当てる。
やはり生暖かい触り心地だ。
それに柔らかい感触が伝わってくる。
見た目は岩、感触は生暖かく柔らかい……不気味だ。
深呼吸して、当てていた手をぐっと中に押し込んでみる。
魔物の石は中に入り込んだように見えた。
つまり入れるはずだ。
「う~、何だろう。ものすごく気持ちが悪い」
得体のしれない物に手を突っ込むことになるとは。
何ともいえない気持ち悪さと不気味さと。
逃げ出したい。
だが、解決するためには頑張らないとな。
もう少し力を込めると、手が何かを突き破った感覚があった。
中は空洞になっているのか?
……と言うか、魔法で中を確かめる事が出来るのでは?
「……馬鹿か俺は」
腕を岩から引き出して、様子を見てみる。
特に怪我もなく、違和感もない。
よかった。
腕を出したら血まみれとか恐ろしすぎる。
さて、岩のように見えるけど違うようだし、これはいったいなんなんだろう?
岩に手を当てて魔力を流してみるが、拒絶されているようで流した魔力が押し戻される感覚がする。
新しい神力もどきで試してみるか。
流す力の種類を変えると、スーッと岩に力が染み渡る。
さすが新しい力だ。
で、とりあえず効力があるなら何を試してみるかな?
「とりあえず中の様子を見たいな」
色のついた岩が透明になっていくイメージを作り新しい力で発動する。
「透明化」
岩がふわっと光ったかと思うと色がスーッと消えている。
しばらくすると、透明な何かに守られた通路が出現した。
「ぅわ……これはちょっと」
子天使がいた洞窟は2つとも綺麗に整頓されていた。
魔法で綺麗にしていたのか、埃も少なく小ざっぱりした印象を受けたのだ。
だが、目の前にある今回の洞窟はどことなくどんよりとしている。
何かが起こりそうな、不気味な雰囲気なのだ。
ホラー映画とかで出て来るような……いやな事を想像してしまった。
首を横に振って、想像した物を慌てて消す。
俺はホラーは苦手なんだ!
「う~行きたくないな~」
どう見ても、良い事なんて全くない雰囲気だ。
まぁ、3馬鹿の作ったモノだ。
碌なモノなどある訳ないのだが。
「頑張れ俺!」
ホラー感満載の通路をそろそろと一歩踏み出す。
湿気はあまり感じない。
ただ、どんよりとした空気を感じる。
しかも、ちょっと暗い。
「あっ、明かりをつけたらいいんだ」
そうだ。
このホラー感は暗さも影響しているはず。
明かりを足して少しでも感じている物を薄めよう。
明かり魔法を数回発動して、通路を明るくする。
「よし!」
何処となく感じていた気持ち悪さが明かりで薄れた。
よかった。
心底ほっとする。
すると親玉さんが先頭切って歩き出してくれた。
ものすごく安心感があるな。
うん、ついて行こう。
しばらく歩くと、洞窟には必要ないと思われる豪華な扉。
薄暗くて汚れた印象を受ける洞窟で異様な綺麗さを見せる扉。
絶対何かあると言う印象だ。
「扉を装飾する意味ってあるのか?」
とりあえず、扉を押してみる。
まぁ、どうせ何か仕掛けがしてあって開かない……『ギィ~』……開くのか。
ちょっと開いてほしくなかったような気がする。
はぁ、よし!
扉をぐっと押して中が見えるようにする。
「えっ!」
棺桶の次は卵?
しかも透明で中が見えているけど……頭が三つある犬?
アレ?
頭が三つある犬ってどこかで聞いたことがあるような……。
俺でも知っているという事は有名な生き物か?
まぁ、それ以前に生きているのか?
透明な卵に近づくが中にいる生き物はピクリとも動かない。
死んでいるのか?
そっと卵に触れると、暖かい。
暖かいという事は生きていると思っていいのだろう。
さて、どうするべきか。




