45.ぷかぷか……増えた!
ウッドデッキから見える景色に変化なし……と言いたいのだが。
何度か瞬きをしてみる。
間違いなし……子天使が浮いている。
ウッドデッキから出た少し先、特訓をしている場所の近くに天使がいる。
空中にぷかぷかと浮いた状態で。
高さは、地面から3mぐらい。
飛んで行ってしまわないようになのか、体に紐が結ばれている。
そして、紐の先は『一つ目』がしっかりと掴んでいるようだ。
「リアル天使の凧揚げ」
見た感想が口から零れる。
何だか微妙な気分になるが、大丈夫なんだろうか?
子天使は、短い手をパタパタ動かして自由に飛び回っている。
ただ、その動きはものすごく遅いが。
ぷかぷか、ふらふら。
ぷかぷか、ふらふら。
風に吹かれたのか、訓練場所の方へ……紐がしっかり防いでいる。
なるほど、訓練場所へ飛ばされないようにするための紐なのか。
しかし、高さはないが本当に凧揚げみたいだ。
子天使の顔は見えないが、手をぱちぱちと叩いて笑い声が聞こえるので楽しいようだ。
空の散歩。
見た目がちょっとシュールだが、本人が楽しそうなので止めないでおこう。
「あれ? そう言えばもう一人いたよな?」
空に浮かんでいる天使は一人。
大きさからみて最初に保護した子天使だろう。
周りを見渡すと、少し離れた場所に抱っこされた状態の子天使を発見。
あの子はまだ、飛べないようだ。
腕を上げているように見えるが、体が浮き上がっていない。
「歩く前に飛んでしまったな。もしかして天使って歩かないのか?」
俺の中にある天使像って、上空から降りてくる子天使なんだよな。
有名な物語の最後のシーン。
あれって確か教会の絵の前だったよな。
……駄目だな、まったく参考にならない。
ウッドデッキから外に出て、抱っこされている子天使のもとへ行く。
近付くと「ウ゛~ッ」というような声が聞こえる。
どうやら飛べない事でぐずっているみたいだ。
「一つ目、ご苦労様。文句を言っても仕方ないだろ、もう少し大きくなったら飛べるようになるから」
……たぶん。
口をつきだして、不平を声に出している子天使の頭を数回撫でる。
目をきょときょとと動かして俺を視線で捉えたのか手を伸ばしてくる。
そっと指を近付けると、ギュッと力強く握りしめてきた。
バチッ
「ぅわっ……なんだ?」
痛みは一瞬。
冬の乾燥した時期に起こる、静電気のような痛みを指先に感じた。
子天使にも痛みが走ったのでは? と慌てるがじっと俺を見つめている。
痛みは俺だけだったようだ。
よかった。
けど、何だったんだ?
静電気が起こるのって、確か乾燥した時期だよな。
指先を確かめたいが、ずっと握られているため見る事が出来ない。
まぁ、いずれ飽きるだろうから待ってみる。
しばらくすると、「ヴゥ~」と叫び声? をあげてから指を離した。
何なんだ?
不思議に思いながら痛みを感じた指先を確認するが、特に変化はない。
火傷も傷もない。
本当に静電気だったのか?
まぁ、怪我をしていないようだから気にするほどの事でもないか。
指先を確認していると、今度は機嫌の良さそうな声が頭上から聞こえた。
視線を向けると、ぷかぷかと浮いた子天使。
近くで見て気が付いたが、少し羽が成長している。
だから飛べたのかもしれないな。
背中の羽がぱたぱた、ぱたぱた。
腕をぱたぱた、ぱたぱた。
何だろう、ものすごく癒しがそこにある。
ちょっとだけ、空中で溺れているように見えたが。
可愛いモノは可愛い。
時間にして5分くらいで疲れたのか、浮いていた子天使がゆっくりと『一つ目』の腕の中に戻る。
もう1人の子は、不貞寝中だ。
朝の散歩が終わったようで、一つ目達に連れられて天使達がリビングに戻った。
それにしても、天使の成長って面白い。
身長が伸びる前に羽が成長するのか。
俺としては奇跡みたいに急に大人になって、話してくれるようになったら一番なんだが。
……あの様子では無理そうだな。
まぁ、ゆっくり健康に育ってくれればいいか。
さて、そろそろ俺は本格的に3馬鹿の残した物の対処に入りますか。
色々あってここ数日ゆっくり過ごしたからな。
怒りでちょっと暴走しそうだったから違う事をして、精神的ショックを受けて……。
え~っと、残りは8ヶ所だったよな。
場所は……あれ?
何処だったか思い出せないな。
もう一度、調べ直すか。
その前に。
「吸収ストップ」
奴らの神力を吸収して集めている魔物の石に、魔法を発動させて動きを止める。
あの石の働きは優秀すぎて、動いている状態では場所を特定できない。
前回は確か、1時間ぐらい待ってから調べたはずだ。
今回もそれぐらい待つ必要があるだろうな。
そう言えば、吸収した神力は吸収石に移動させて溜めているはず。
どれぐらい集まっているのか確かめに行こうかな。
森から戻って来ている魔物の石を視線で捉えながら、吸収石のもとへ行く。
相変わらず、農業隊の管理する畑って綺麗だよな。
無駄が無いと言うか、雑草もあるんだがそれらも管理されているような気がする。
野菜は手間をかけると美味しくなると聞いたことがあるが、あれは本当なのかも知れない。
農業隊達が育てた野菜はとても美味しい。
この森自体も優秀なんだろうな。
野菜は土によっても味が変わると父が言っていた。
この森の土は、野菜を育てるのに向いていたという事なんだろうな。
吸収石のもとに着いたが、やはり少し大きくなっていた。
と言っても、五芒星の神力を吸収した後ほどではない。
あれはパンパンに膨れ上がって、少しの振動でもはじけそうだったからな。
吸収石を手に持って、傷の有無を調べる。
傷があるとそこから壊れてしまうかもしれない。
「問題なし。ちょうどいいから神力を固めて取り出しておくか」
吸収石の中の神力を圧縮して固めて、珠を作り出す。
卵型の透明感のある珠。
既に2個作り出してあるので、今回ので3個目だ。
五芒星の神力を集めた時ほど大きくないので、今回は少し小ぶりサイズ。
とても綺麗なのだが、何の役に立つのか不明のため放置されている。
膨大な神力の塊など使い道に困るというものだ。
神様が来たら、持って行ってもらおうかな。
家の周辺を見て回る。
農業隊が掃除もするため、本当に綺麗な状態がキープされている。
一つ目達も、農業隊達も不思議な存在だな。
俺が作ったのだけど。
家を一周すると、丁度いいぐらいの時間がたっているはずだ。
さて、まずは神力を感知しないとな。
「感知魔法発動」
ふわっと頭の中に浮かび上がった森の映像。
森が広すぎるため全体像は見られないが、白く光る場所が数ヶ所あるのはわかる。
1つ2つ……9ヶ所。
?
えっと、1つ、2つ……9つ。
増えてる。
マジですか!
何度見ても白く光る場所は9ヶ所。
最初に確かめた数からいけば、残りは8ヶ所のはずなのだが。
「はぁ~、仕方ないな。頑張ろう」
一番近く、もしくは光り方がやばそうな場所は何処かな?
そういえば、異様な雰囲気を感じた光があったよな。
前回は5ヶ所だったが……3ヶ所。
2ヶ所は対処できたという事か。
よかった。
ん?
前回とは明らかに異なる光り方をしている場所があるな。
しかも、ちょっと異様な光り方だ。
調べるならこの場所だな。
光の周辺をアップしていく。
何か、目標となる物を見つけないと探すのが大変だ。
「なんだ、火山の近くか」
分かりやすい場所だな。
火山……暑いが、仕方ないな。
魔法で完全防御していくしかない!
長くお休みをいただき申し訳ありません。
風邪も落ち着いたので更新を再開いたします。
また、よろしくお願いいたします。




