44.2年目の川遊び……全てがでかい!
アメーバの上でゆっくりと背伸びをする。
川にぷかぷか浮かぶアメーバは、何ともひんやりして気持ちがいい。
去年と同じように、アメーバに乗って川を遊泳中だ。
ん?
違うな、遊泳は泳いでいないと駄目だ。
俺は乗っているだけだから……遊覧?
これも、違うな。
まぁ、のんびりくつろぎ中だ。
この世界の驚愕の事実を知って落ち込んだが、諦めた。
魔法で背を高くすることまで考えたが、恐ろしくてやめた。
思いつめた人間が考える事は恐ろしい。
あの時、正気に戻ってよかった。
で、何事もあきらめが肝心だという言葉を思い出した。
良い言葉だ。
まぁ、完全復活するまでに5日という日数がかかったが可愛いモノだ。
夏がきたな~っと思っていると、去年同様に一気に気温が上がって暑くなった。
去年と一緒ならば、おそらく一週間ぐらいでこの暑さも落ち着くと思うのだが正確なところは不明だ。
なんせ、この世界に来て2年目なのだ。
……まだ、2年目なんだよな。
あまりに濃い1年だったから、そんな気がしないんだが。
コア達に会ったのも去年の春ぐらいか~。
あっ、そう言えばこの世界の暦ってどうなっているんだ?
ん~、俺がこの世界に飛ばされたのが日本では春先だったな。
まだ少し寒さが残る日だった。
日本とこの世界って少し似ているかもしれないな。
春夏秋冬がある。
ただ、長さが違うな。
気温で考えるなら春が長いな。
夏はあっという間で、かなり暑くなる日がある。
秋は一番短いかもしれないな。
冬もある程度の長さがあったな。
パシャッパシャッ
水音に視線を向けると、アイの仲間のネアとラキだ。
この2匹、とても器用に泳いでいる。
潜水した時には驚いたが。
その傍にウサとクウヒが、微妙な泳ぎを披露している。
2人は水の中で泳ぐというのをした事が無かったようで、俺が川で泳ぐのを見て驚いていた。
最初は溺れているのと間違えたようで、かなり慌てていたな。
問題ないと分かったら川に入って来たのだが、恐る恐る川に入るその姿が何とも可愛かった。
ただ、どうやら彼らは顔が水で濡れるのが駄目らしい。
顔が水に沈まないような泳ぎ方をしているのだが、何というか……。
けして、溺れているわけではないのだが……見方によってはそう見えてしまうだろう。
そして、ネアとラキにはそう見えたのだ。
俺が2人の泳ぎを見ていると、慌てた2匹が川に飛び込んだ。
が、傍によって溺れているわけではないと気が付いたのか、微妙な距離を守りながらずっと近くを泳いでいる。
あれはきっと、いつでも助けられるようにだと思う。
2人を見る。
……確かに2匹が傍で見守ってくれていると安心だ。
ゆっくりと流れるアメーバ。
去年の失敗を繰り返さないために、水分補給はしっかりと行っている。
夏のあの日、意識がもうろうとした状態で何をしたのか不明だからな。
まぁ、森に影響はなかったようなので何かの魔法を発動させてたと思ったのは、俺の勘違いだったのかもしれないな。
ん?
ネアとラキに体を引き上げてもらっているウサとクウヒ。
溺れたのか?
見ていると、1匹のアメーバがすぐに2人と2匹を体の上に乗せた。
もしかして、この子もずっと様子を見ていたのか?
でも、いったい何があったんだ?
「大丈夫か?」
「ふわれた~」
「ふかれた~」
……「疲れた」かな?
そう言えば、まだちゃんと疲れたって言えていなかったな。
それにしても、ネアとラキはずっと心配だったんだな。
アメーバの上にいる2人に、ものすごく安心した表情を見せている。
まぁ、確かに溺れているように見えたからな。
泳ぎ方って教えるにはどうすればいいんだ?
俺の場合は、最初はビート板を使ってバタ足から教わったよな。
ビート板……木の板で代用できるかな?
ん~、重すぎるな。
魔法で木の板をビート板みたいに変えられないかな?
水を弾くように撥水加工をして、あとは水に浮けばいいのか。
まぁ、試してみるしかないよな。
今日の夜にでも作ってみよう。
一つ目達が川の傍に姿を見せる。
お盆の上には飲み物が用意されている。
そろそろ、水分補給をする時間らしい。
アメーバも気が付いたのか、ゆっくりと一つ目達に近づいていく。
何と言うか、至れり尽くせりだ。
どんどん俺が駄目になっていくような気がするな~。
「ウサ、クウヒ飲もうか。一つ目達はありがとう」
「ありがとう」
「ありがと」
一つ目達からコップを受け取ってウサとクウヒに渡す。
お皿に入った水も渡される。
どうやらネアとラキ、2匹の分もあるようだ。
さすが一つ目達だな。
抜かりがない。
果実水を飲みながら、乗っているアメーバを見る。
俺の視線に気が付いたのか、目がキョロリと背中側に移動する。
どういう体の作りをしているのか、目が自由自在に動くのだ。
最初に見た時は、驚いてと言うか恐怖から声も出せずに川に落ちた。
すぐに、引き上げてもらったが。
あれは、怖かった。
今は、見慣れたな。
あっ、そう言えばウサとクウヒは初めて見るのでは?
慌てて2人を見ると、不思議そうに自由に動くアメーバの目を見ている。
……驚いても、怖がってもいない、ただ、不思議なモノを見たって感じだな。
あれ?
怖くないんだ。
あっ、この世界ではアメーバは普通にいるモノなのか。
だったら、目が動く事も知っていてもおかしくないか。
……いや、だったら不思議そうな顔はしないか。
どういう事だ?
まぁ、怖がっていないなら問題ないか。
コップを一つ目達に返すとアメーバがまたゆっくりと移動を開始する。
ウサとクウヒを乗せたアメーバも、付いて来るようだ。
ゆっくりとアメーバに寝そべって、目を閉じる。
「水の音って眠くなるよな~」
「寝る~」
クウヒが欠伸をしながらアメーバに体を横たえる。
その横でウサは川の水で遊んでいる。
しばらくすると、ラキがこちら側のアメーバに乗ってくる。
ちょっと驚いて様子を見ると、俺の近くで体を横にして目を閉じた。
「?」
もう1匹の方のアメーバを見ると、ウサとクウヒとネアがアメーバの上で伸びていた。
全員が寝てしまって、かなり幅を取ったようだ。
「ラキ、お前追い出されたのか?」
「クゥウ~」
ちょっと情けない声が聞こえる。
笑って頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
少し強めの日差しがふっと陰る。
どうやら果樹の森の中に入ったようだ。
2年目とは思えないほどの立派な森だ。
まぁ、木そのものを移動させたのだから1年目も2年目もないが。
それにしても……収穫が大変そうだ。
かなりの実が生っている。
去年より間違いなく豊作だろう。
しかも、既に1回目の収穫が済んでいる。
と言うか、済んでいた。
俺が色々としている間に終わっていたのだ。
申し訳ない。
それより気になるのは、野菜や果実の成長速度と大きさだ。
どうも、去年より成長が早いような気がするのだ。
しかも収穫した物を確かめたが、どれも一回りぐらい大きい。
家族が増えているし、食べる量も多いので助かるのだが。
成長速度は速くなっても特に問題ないなら気にはならない。
が、問題は大きさの方だ。
目の前には、みかんのような実が生っている木がある。
美味しそうな色に熟しているが、その大きさはどう見ても俺の顔と同じくらいだ。
いや、それより大きいサイズもありそうだ。
あの果実は、みかんの様に皮をむいて食べるのだが食べるまでに体力を使う。
皮が硬いのだ。
最近では一つ目達が剥いて持って来てくれるが……もう少し小さければ俺でも剥けるはずだ。
「この世界は、全てがデカいよな~」
それにしても、日が陰ると風が気持ちいいな。
少し火照っていた体が冷やされていく。
う~ん、眠い。




