40.リフレッシュ?……ここ何処?
「う~ん、まったく何もする気がしない」
この頃、朝になると新しい力が体に熱を発生させる。
理由が分からないため、対処のしようがない。
熱だけなので問題ないといえば無いのだが、違和感があって目が覚めてしまう。
まぁ、自分で起きられるようになったので、いい事なのだが。
そんな訳で、今日も朝早くから目が覚めた。
そして第一声があれだ。
なぜだか起き上がる気さえしない。
って、そんな甘えが許されるような環境では……ないはずだ。
なので頑張って起きてみた。
ただ、やはりやる気が起きない。
「なぜだ?」
まだ、3馬鹿の後片付けは残っている。
それを早めに片付けなければならないのはわかっている。
だが、骨の山の呪詛に天使の若返りに洞窟の崩壊。
ちょっと心が疲れてしまったのか。
……違うな。
正確に言うと怒りが湧いてくるのだ。
3馬鹿だけではなく、見逃していた神様連中にもだ。
とはいえ、ぶつける相手がいないため心の中で溜まっていく。
これが心を疲弊させる。
で、気力がなくなるって感じか……自己分析終了~……。
う~、そうだ!
まったく違う事をして気持ちを切り替えよう。
無駄な怒りに時間を割くのももったいない。
さて何をしようかな?
まったく関係ない事と言っても、意味の無い事をするのは嫌だ。
「「おはよう」」
「おはよう……あっ、そうだ。獣人達を見に行こう。あと動物の確認だ!」
「「??」」
あ~、ウサとクウヒが不思議なモノを見る目で見ている。
朝の挨拶のすぐ後に意味の分からない事を叫ばれたらそうなるよな。
ごめんよ。
2人の頭を撫でて誤魔化しておく。
一つ目達の作る朝食。
何だか、卵と牛乳が無いこと以外はホテルの朝食並みだ。
焼き立てパンに、サラダに果物のフレッシュジュース、それに焼いたベーコン。
数日前に、ベーコンらしき物が出された時には驚いた。
どうやって作ったのか、一つ目達の作業場所を見せてもらった。
何故か、燻製器が有った。
どうやってその知識を得たのか、疑問だ。
朝食後、休憩がてら天使達の様子を見る。
相変わらず楽しそうに攻撃しているな。
この魔物の石って、どれくらいで砕けたりするのだろう?
ちょっと心配だな。
夜にでも新しい魔物の石に魔力を溜めて、一つ目達に渡しておこう。
天使たちの上で砕けたら大変だからな。
「それにしても、歩かないな」
天使達は2歳か3歳、もしくは4歳ぐらい。
既に歩いてもいいはずなのだが、寝てばかりいる。
摑まり立ちをしたところを、見た事も無い。
一つ目達に、抱っこやおんぶはされているのだが。
どうなっているんだ?
大丈夫なのか心配だ。
そもそも、天使と人って同じように育つのか?
それにこの天使達、大人天使が若返った子達だし……通常とは違うのかも知れないな。
天使達の頭を撫でると、少し気持ちよさそうな表情を見せる。
そう言えば、俺が触ろうとすると遊ぶのを止めるな。
こちらの状況を理解しているのだろうか?
……さすが天使ということか?
さて、そろそろ行くか
コアとチャイはどこだろう?
龍達を連れて行くと驚かれるからな、今日は2人だけにしよう。
あっ、まただ。
最近どうもこの2匹を、2人って言ってしまうんだよな。
まぁコアはこの世界に来て、初めて出会った者だからな。
一番親しみがあるかもしれない。
チャイはそのコアの旦那だしな。
まぁ、2人でも2匹でも俺的には困らないからいいか。
リビングからウッドデッキに出ると気持ちのいい風が吹いている。
そろそろあの凶悪な夏になるな。
今年は雪山で遊ぼう。
「コア、チャイ。こっちおいで~」
俺が呼ぶと、広場で子供達とじゃれ合っていたようだが、止めて来てくれた。
魔法がどれほど飛び交っていても、あれはじゃれ合いだ。
俺がコアを呼ぶと、子供達の表情が嬉しそうに見えたが、気のせいだろう。
……たぶん。
「悪いな。森を出て周りの国を見たいんだ。飛んで連れて行ってくれるか?」
コアの背中をポンと軽く叩いて、自分を指さす。
これは乗せての意味になっている。
次に空に指を向ける。
これは乗せて移動してほしい事を伝えるジェスチャーだ。
何度も繰り返して、覚えてもらった。
コアは俺の肩にスリッと鼻を擦りつける。
OKの合図だ。
チャイを見ると、チャイもグルルと喉を鳴らした。
一緒に行ってくれるらしい。
と言うか、この2人でなくて2匹。
いつも一緒に行動している。
夫婦仲がいいのは、いいことだ。
コアの子供達が数匹、一緒に行く様子を見せる。
俺と2匹だけで行こうと思っていたが。
コアとチャイだけを指さして首を振る。
そのジェスチャーにク~ンと鼻を鳴らす子供達。
……別に増えても問題ないか。
良し、一緒に行こう!
「行こうか!」
俺の言葉にグルルと4匹の子供達が鳴いた。
コアに跨って首に腕を回すと、すっと空に向けてコアが駆け上がる。
チャイがコアの隣に並ぶのが視界に入った。
おそらく後ろにコアの子供達が、付いて来ているだろう。
この上に上がる感覚がいつも不思議だ。
表現できないが面白い。
上空でいったん止まってもらい、3馬鹿が問題を起こした国がある方角を指し示す。
そして、すぐにコアの首に抱き着く。
以前、抱き着く前に走りだしてしまって空中に投げ出された事があった。
あれは、ジェットコースター以上に恐かった。
コアもあの経験があるから首に抱き着くまで移動は待ってくれる。
走りだすと気持ちがいい。
暑すぎず、心地よい風が体を包み込む。
ただし、それも数分だけ。
俺がコアに乗りなれたため、コアはかなりのスピードで森を走りぬけるのだ。
そうなると、振り落とされない様に、必死だ
でも、そのお蔭で昼辺りには森から抜ける事が出来た。
何だか走る速度がどんどん増しているような気がするのだが、気のせいだろうか?
まぁいいか、早く目的の場所に着けるのだから。
「コア、ゆっくり、ゆっくり」
コアの首元をポンポンと叩いて、スピードを落としてもらう。
下の様子を見ると、どうやら見渡す限り畑だ。
ん~、見事な広さだな。
ただ、何も植わっていない。
何故か草1つ見あたらない。
そうとう管理されているな。
……あれ?
この季節に、畑で何も育てていないのはおかしくないか?
丁度、野菜などが育つ一番いい時期のはずだ。
農業隊が管理している畑も、どこも青々とした葉っぱが風に揺れている。
「おかしいな。何かあるのか?」
下の様子をじっと見ていると、なぜか畑から魔力を感じる。
不思議に思い魔力感知を行ってみる。
「どうなっているんだ? 畑からものすごい魔力を感じるのだが……実験かな?」
もう一度周りを見渡す。
かなり広大な畑だが、何処も土が丸出しだ。
つまり野菜は植えられていない。
これだけ広大な実験とは考えられない。
もしかして、森から魔力が流れてしまったのか?
……いや、森には3馬鹿が施した結界があった。
あれを越えて魔力があふれる事はないと思うが……。
あっ、人がいる。
あれ?
その隣に獣人?
……おかしい。
ここって3馬鹿が問題を起こした国ではないのか?
下の様子を窺うと、耳は髪の毛で見えないが尻尾が無いので人間だろうと思われる者がいる。
そして、その人間の隣に耳と尻尾がある者がいる。
間違いなく獣人だ。
そう、俺の視線の先には人間と獣人が一緒にいる。
雰囲気的に友人のような感じで、嫌悪しているような関係ではなさそうだ。
問題を起こした国では獣人達は奴隷にされていたと、神様が言っていた。
あれからまだそれほど時間は経過していないので、両者の雰囲気はもっと悪いだろう。
となるとここは違う国なのか?
……分からん。
俺はいったいどこへ来たんだ?
問題の王様がいた国にきたつもりだったのだけど……?
あっ、こっちを指さしているって事は見つかったみたいだな。
何だか少し慌てているように見える。
何だろう?
あれ、俺ってもしかして密入国しちゃっているかも?
無断で他国に入るのは、犯罪だよな。
って、この世界の法律なんて知らないから何とも言えないけど。
さて、どうしよう。
……もう一度、下の様子を窺う。
やはり騒いでいる。
この世界の犯罪を取り締まる機関ってどうなっているのだろう?
そう言えば、以前出会った獣人達は同じ格好で腰に剣を差していたっけ。
騎士みたいなイメージだったな。
「逃げるか? 印象が悪くなるな。これからは少しずつ関わろうと思っているのに……」
あっ、畑の魔力を取り除いたら印象が少しは良くなるかもしれない。
畑は魔力で草も育たない状態になっている。
野菜が育たないとなれば、食糧難で苦しんでいる可能性もある。
よし、ここは畑の魔力を取り除いて密入国を許してもらおう。
なんとなく持って来ていた、魔物の石を取り出す。
そして、下の畑に溜まっている魔力を吸収するように石に魔法を発動させる。
ふわっと魔物の石が光って魔力の吸収が始まった。
ゆっくりコアに移動をしてもらって、畑の魔力を吸収していく。
……て、この畑ってどこまで続くんだろう。
見渡す限り、畑なんだけど……。
まさか、魔力の吸収だけでその日1日が終わるとは……予定外だ。




