39.エンペラス国 第4騎士団団長2
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げますm(__)m
-エンペラス国 第4騎士団 団長視点-
「ミゼロスト団長。申し訳ありませんが、あとをお願いできますか?」
ガジー宰相が、困った表情で魔石がある部屋の中を見ながら問いかけてくる。
視線の先には、魔石の周りを歩き回るアマガール魔術師の姿。
しかもその姿は、いまだに縄でぐるぐる巻きの状態だ。
興奮している彼には些細な事の様で、気にしている様子はないが。
そんな彼をキミール副団長が落ち着かせようとしているが、あまり効果は出ていないな。
ガジー宰相は、魔石について少しでも問題解決の糸口が見つかればと一緒に来ていたのだ。
が、頼ったアマガール魔術師が話を聞ける状態では無いため、今は諦めたようだ。
彼はやることが多く、その内容も日々届けられるこの国の問題に頭を悩ます王の相談役として、また元奴隷達の仕事の手助けなど多岐にわたっている。
その為、ここでずっとアマガール魔術師が落ち着くのを待っている時間は無い。
「大丈夫だ、任せてくれ。彼が落ち着いたら、しっかりと話を訊いておく。優先して訊いておくことは?」
「あの魔石を確実に砕く方法です」
「確かにな」
「では、よろしくお願いします」
「あぁ、わかった。もしかしたらアマガール魔術師の力を見て、協力を頼むかもしれないが」
「その判断は任せます」
「了解」
部屋を出て行く姿を見送ってから、魔石を見る。
1mほどの大きさの魔石が、部屋の中央に鎮座している。
縦に大きく割れているが、台座が支えているため倒れる事はない。
その魔石には不思議な太い縄のような物が巻き付いている。
それは森から攻撃を受けた時に現れた代物で、それが何なのかは判明していない。
前王時代に、かなり長い時間を掛けて縄について調べたようだが、正体は分からなかったと調査報告書に書かれていた。
特徴があるとすれば、強度だろう。
魔力が含まれていない普通の縄に見えるのに、異常なほどに強いのだ。
剣でも魔法でも傷1つ付けられないほど。
「すまない、ようやく少し落ち着いたみたいだ。あれ? 宰相殿は?」
「あぁ、仕事が立て込んでいるから戻ったよ。しかし、アマガール魔術師は先ほどとは別人だな」
「ハハハ、今の姿だけだったら安心なんだがな」
ダダビス団長が言うように、今の彼なら頼りになりそうだ。
それにしても魔石を調べ始めてからは本当に別人のようだ、視線さえ鋭くなるのだから。
そう言えば、いつの間にかぐるぐる巻きに縛っていた縄も解かれているな。
いつ解かれたんだ?
「縄は副団長が?」
「あぁ、あれは魔法で簡単に解けるんだよ。普通の縄を使っているからな」
「魔法で、なるほど」
魔石の近くで小さな光が発生する、
見ると、自由になった両手を魔石に近づけては、魔法を使って何かを調べているようだ。
やはり上位魔術師だけはあるな。
使用している魔法の種類が多種多様の様だ。
どんな魔法を使っているのかは分からないが、色が異なるので違いが分かる。
だが、魔法を使った後の表情はかなり険しい。
「すごい種類の魔法を使えるのだな」
「俺の国でもかなり珍しいよ、あれだけの種類を扱えるのは」
「そうなのか?」
「あぁ、だから少しの奇行は許される」
「…………少し?」
「あ~、まぁ。あっ、調べ終わったみたいだな。ただ、思うような結果は出なかったみたいだ」
アマガール魔術師に視線を向けると、長い溜息をつく姿があった。
その表情はかなり険しい。
隣にいるキミール副団長も、そんな彼の表情に少し戸惑っている様子だ。
「珍しいな、あんな表情の彼をみるのは」
「そうか」
やはり、彼でも一筋縄ではいかないか。
さて、どうやって彼に協力をしてもらうように話を進めるか。
「ん~? 何かあったのかな? かなり深刻そうだけど。あの魔石ってそうとうやばいのか?」
「あぁ、かなりだ」
俺の言葉にダダビス団長が微かに驚く。
魔石について、国は秘匿することが多い。
それは魔石が戦力となるからだ。
だが、あの魔石については何も隠すつもりはない。
とりあえず、今はそんな事より魔石の情報だな。
何か掴んでくれているといいのだが。
下を向いて、何か考え込んでいるアマガール魔術師に声を掛ける。
「アマガール魔術師殿、魔石について何か分かりましたか?」
俺の言葉に、彼は目をくわっと見開いたかと思うとすごい勢いで近づいて来る。
「よくも抜け抜けとそんなことが言えますね! 私に嘘を言っておきながら!」
やはり、そう言われるか。
いきなりアマガール魔術師が怒鳴ったので、ダダビス団長とキミール副団長が驚いている。
ただ、部屋にいた我が国の魔導師達は少し残念そうな表情をした。
「嘘は言っていません」
俺の返答に、よりいっそう怒りが増したのだろう。
アマガール魔術師の表情が、より陰険になる。
「馬鹿にしているのですか? 魔眼を発動させていた魔石だと言っていたではないですか。ですがあれは違う! 確かにあの魔石にもかなり強力な力を感じます。ですが森を覆った闇の力を持つ魔石ではない。あれは光の力だ! なぜ嘘など!」
「アマガール! 少し、落ち着け!」
俺に詰め寄る彼の姿に慌てたダダビス団長が間に体を入れて、彼の肩を押さえつける。
「嘘ではありません。アレがその魔石なんです」
「しかし、あれからは魔眼に必要な闇の気配が全くしない! 魔石の中の力が完全に変化する事などあり得ない!」
「そのあるはずの無い事が起きたんです」
「はっ?」
アマガール魔術師の知識も魔力もかなりなものだ。
この魔石の問題を解決できる可能性に1歩でも近づくなら、協力を願うべきだな。
だが、怒ってしまった彼をどう説得すればいいのか……正直に願うほうが協力をしてもらえそうかな?
はぁ、だいたい俺に政治は無理だしな。
「アマガール上位魔術師殿、我々はあの魔石について、あなたに嘘を教えた事はない。少し情報を言っていなかった部分はあります。ですが嘘は言っていない」
「…………何を言っていない?」
「もう、気が付いているのではないですか? 力の変化です」
「変化……ありえない。そんな……」
「いえ、本当に変化をしてしまったのです。アマガール上位魔術師殿、お願いがあります。あの魔石を砕く手伝いをしていただきたいのです」
「砕く手伝い?」
隣でダダビス団長の唖然とした声が聞こえる。
当たり前だ。
目の前にある魔石の力は相当な戦力となる。
それを砕くと言っているのだから。
「……本当に、アレが問題の魔石なのですか?」
「えぇ、そうです。アレが森を覆い尽くした魔眼魔法を発動させ、同時に奴隷紋に力を注ぎ、前王と数人の魔導師達の老化を止めていた魔石です」
一言、一言、間違いが無いようにしっかり伝える。
魔石に詳しい彼ならば、目の前の魔石の異常さに気が付くはずだ。
「まさか……本当に……」
アマガール魔術師は、唖然とした表情で魔石を見つめる。
彼が困惑するのも良く分かる。
今まで培って来た常識が、この魔石1つで大きく覆されるのだ。
魔石の常識として、彼の言っていた事は正しい。
ただし、目の前の魔石以外ではと言う言葉が付くが。
この魔石は今までの常識では当てはまらない事が起こっている。
その1つが魔眼魔法の力だ。
魔眼は闇の力を必要とする魔法なのだ、それも少し特殊な。
だから、魔石がその力を持っている時はかなり分かりやすい。
調べれば確実にわかる。
目の前の魔石は、森を覆い尽くす魔眼魔法を発動させていたため、その力は闇に属していた。
だが今、魔石からは闇の力は一切感じられない。
信じられない事だが、感じられるのは光の力なのだ。
そう、魔石の常識ではありえない、力の変化が起こったのだ。
その説明をあえてしていなかったため、アマガール魔術師は別の魔石を調べさせたと怒ったのだ。
言わなかった理由は、期待したからだ。
もしかしたら、彼になら闇の力を感じる事が出来るのではないかと。
まぁ、ほんの少しの期待だったが。
「アマガール魔術師殿、この魔石は自己修復をするために周りに攻撃することまで行う。修復が終わったら、次は何が起こるのか……また、世界中に何かを起こす危険性があります。だからこそ、早急に砕いてこの世界から消してしまいたい。協力してください。お願いいたします」
頭を下げる。
他国の魔術師に騎士団長たる者が頭を下げる行為は、おそらく駄目だろう。
だが、この魔石が砕けるならばそれは些細な事だ。




