33.一つ目疾走……獣人って?
目の前には透明な棺桶、そして天使。
本当にこのままの姿で、外に出て来てくれれば助かるのにな。
色々な意味で。
にしても、やはり最初の天使より若く見える。
蓋を開けたら、前の子より幼い子になってしまったりして。
1歳とか……これは覚悟が必要か?
覚悟と言っても……よし、無駄な事は考えない、逃げ出したくなる。
開けるぞ!
前のように落とさない様にゆっくり、ゆっくり蓋を押す。
すすーっと横に滑り……。
……落ちた。
「なんでだよ!」
パリーンと言う高音が響き渡っている中に、俺の声も反響する。
ものすごくソフトタッチで押したのに。
もしかして少しでも押すと、落ちるように仕掛けられているのか?
何だかものすごく、してやられた感があるんだが。
悔しい。
はぁ~、とりあえず子天使は……。
そうだよな、見た目が若かったもんな。
大丈夫、覚悟はしていた。
だけど、落ち込むぐらいはいいだろう。
「はぁ、やっぱこうなる訳か~」
いったい何歳ぐらいなのだろう。
前の子は2歳ぐらいに見えたんだよな。
それから考えると1歳ぐらいかな。
よかった、この様子だと首はすわっている。
棺桶から、ゆっくりと子天使を持ち上げる。
お、背中の羽も前の子より小さい。
かわいい、小さい羽がパタパタと動いている。
って、ここでこんな事をしているのは危ないな。
前の洞窟同様に、此処も崩れる可能性がある。
さて、撤退をしますか。
「一つ目、お願い」
一つ目が俺のもとに来て、子天使を確認。
そう、前回の経験を活かして今回は一つ目が一緒だ!
前の時、洞窟から家に帰る途中に何度かひやりとする場面があった。
それは、想像以上に幼い子を抱きながら走るのが難しかったからだ。
あの経験は前回だけで十分。
なのでベテランさんを連れてきた。
これで安心。
一つ目はさっと紐を取りだし、もう一度天使を見て……紐を変更。
理由は不明。
そして見ている間に、さっさと抱っこされ一つ目に固定される子天使。
そのスピードはさすがだ。
「よし、ここから出るぞ」
一つ目を最初に走らせてから、そのあとを追うように走る。
何かあった時、すぐに対処できるようにだ。
走り出したら、グラグラと地面が揺れ始めた。
「急げ!」
と言うか、もしもの時は一つ目を抱えて走ることも考えていたのだが……。
一つ目の走るスピードは俺が想像したより、ものすごく速かった。
子供を抱っこした状態で、走れるスピードではないと思うのだが。
なぜだろう、一つ目の背中がどんどん小さくなっていくような。
まぁ、一つ目だもんな。
無事に洞窟の外に全員が退避し終わるのと同時に、出入り口が崩れ落ちた。
子天使の様子を見ると、一つ目の腕の中ですやすやと寝ていた。
その表情を見ると、安心しているのが分かる。
前の子は俺が抱っこして走ったとき、途中から暴れ出して大変だった。
あれは、不安だったのかもしれないな。
上空を見ると、空が明るくなっている。
五芒星が現れたのだろう。
しばらくすると魔物の石が空を飛んでいくのが見えた。
吸収して集められた神力を、また石に変化させないとな。
とりあえず、この場所はこれで解決。
家に帰ろう。
家に帰ると、一つ目達が出迎えてくれた。
初めての行動に、少し驚いてしまう。
新しい天使を見るためだろうか?
一つ目が勢ぞろい……あれ? 数が多くない?
あぁ、三つ目や子鬼、農業隊まで集まっているのか。
岩人形勢ぞろいだな。
……久々に集まっているのを見たけど、こんなに増えていたんだ。
おっ、ウサとクウヒ、シュリ達もいるようだ。
コア達一族にチャイ一族……えっとなんだか皆いるな。
龍達も小さい姿になっているし。
どうなっているんだ?
出迎えにしては仰々しい。
が、とりあえず。
「ただいま」
「「おかえり」」
ウサとクウヒの出迎えは、板について来たな。
そう言えば、この子達はこのままここにいてもいいのかな?
元奴隷らしいけど、友達とか、仲間とか。
この子たちのいた場所を見に行けば見つけられるかな?
一度見に行ってみよう。
コア達やチャイ達の頭を撫でる。
そう言えば、今年生まれた子達が大きくなっている。
既に前の子達と区別がつかない。
どの子も皆元気に育ってくれてうれしいけど、少しぐらい見た目が違ってもいいと思う。
見た目が違うって言うか、少しぐらい小さい子がいて欲しい。
皆に囲まれると、俺が埋没するから!
皆、デカすぎる!
何とか抜け出して子天使の下に行こうと思ったが、既に家の中に入った後の様だ。
岩人形達も、全員仕事に戻っている。
あの子達は、本当に子天使を見に来ただけのようだ。
まぁ、俺の出迎えではないだろうとは思ったけどさ……ただ、ちょっとぐらい。
いや。
子天使は可愛いからな、仕方ない。
そう言えば、調べる場所ってあと何ヶ所だ?
確か全部で20ヶ所だったから……五芒星と中心で6ヶ所それが2回で12ヶ所だから、残り8ヶ所か。
五芒星は2つだけの様で、あとは線で繋げて見ても意味のある形にならなかったからな。
1つ1つ見て行くしかないよな。
何があるのか不安だよな。
天使に、骨の山の呪詛、あとは何が考えられるだろうか?
何も思いつかないが、覚悟だけはしておこう。
リビングに近づくと、子天使たちの泣き声が聞こえる。
さすがに2人になると結構な音量だ。
部屋の中を見ると、一つ目達が急いでご飯を用意している姿が目に入る。
そういや、小さい方の子天使はミルクの方が良いのかな?
と言っても、此処にはミルクなんてない。
必要だったらどうにかしないといけないな。
一つ目達が用意したのは、ジャガイモみたいな野菜を柔らかく煮こんだ物だ。
2人の子天使は、普通にそのご飯を食べている。
様子を見る限り問題ないようだ。
よかった。
でも、ミルクがそろそろ欲しいな。
正直、卵も欲しい。
やはり、どうにか手に入れる方法を探さないとな。
ミルクは、牛とヤギ。
卵は鶏、ウズラ……ダチョウ?
そう言えば、この世界には日本にいた動物のようなモノがいるのだろうか?
この森で見かけるのは、デカい魔物ばかりだ。
そう言えば小さい魔物……あっ、リスがいるか、角があるけど。
リスは魔物? 動物?
そもそもこの世界に、動物と言う概念はあるのか?
ウサとクウヒを見る。
もしかして、獣人がこの世界での動物?
獣人ってそもそも何なんだ?
2人はどう見ても犬の耳を持っているよな。
あの子達は、大きくなったら完全な犬に変身出来るようになったりするのか?
そう考えると、牛を見つけても……ミルク、貰えないよな。
変態になってしまう。
チラッと村とか町の様子を見に行ってみようかな。
そうすれば、獣人が何か分かるかも知れない。
そう言えば、妹も確か獣人がどうのこうのって言っていたな。
何だったけ?
たしか、『獣人のけもみみさいこー!』だったか?
けもみみってなんだ?
みみは耳か?
けも耳……毛も耳、最古……最高?
「毛も耳、最高……意味が分からん」
諦めよう。
あの頃の妹を理解するのは難しかった。
さて、どうやって様子を見に行こうかな。
言葉が分からないと、失礼な態度を取ってしまうかもしれないな。
これからの事を考えると、マイナスのイメージは避けたい。
上から様子を見て、それから考えよう。
そう言えば、森に大人の獣人がいたな。
あの姿は、ウサとクウヒをそのまま大きくした感じだったので分かったが、もし別の姿だったら気が付かなかったよな。
あっ、あの姿が大人なら……変身はしない?
ん~、ここで考えていても分からないな。
そう言えば、彼らはどこから来たんだろう?
彼らがいた場所に行けば会えるかな?
希望的観測だが、行ってみようかな。
会えなかったら、近くに建物があるか探してみよう。
そうだ、あの時彼らは龍達の姿に混乱していたな。
様子を見に行くときは、龍達は駄目だな。
やっぱりコアかな。
一番、乗りなれているから俺としても安心だし。
コアが来るならチャイも来るかな。
よし、2人にお願いしよう。
いっぱい引きつれて行くと目立つしな。
2人だけにしよう。




