32.なかった!……扉の出現方法
この辺りなんだけどな。
映像で見つけた五芒星の中心にいるはずなのに、手探りで結界を探すが見つからない。
記憶した光った場所の周辺を思い出すが、似たような木々ばかりなので合っているのか分からない。
やばい、間違っているかも。
そうだ、魔物の石が飛んで来るまで待とう。
あの魔物の石達は、高性能探知機能を持っているもんな。
しばらくすると、森の中を飛び回っている魔物の石の姿が目に入った。
その姿に、頼もしさを感じる。
あれ?
新しい力を使えば、神力を感知できるよな。
……まぁ、いいか。
魔物の石がしっかりと働いていることを、確認していると思えば。
必要ない様に思うが、もしかしたらあるかもしれない。
うん、きっとある。
それに、何事も確認する事は大切だ。
魔物の石が、少し離れた所でクルクル回っている。
惜しい!
ちょっとずれていただけの様だ。
石が飛び去ったので、周辺をもう一度調査する。
ゆっくりと手を動かすと、ピリッとした痛み。
「いてっ。でもこれだな」
痛みを感じた指先をさする。
思ったよりも結界に突っ込んでしまったようで、ピリピリしている。
他に方法が無いのだから仕方がない……って方法あるよ。
はぁ~、新しい力を使えば結界に触らなくても、見つけられるはず。
さっきから何をやっているんだ俺は。
しかも、ついさっき新しい力なら神力を感知できると考えたばかりだぞ。
それを次の瞬間には忘れてしまうとか、やばすぎる。
とりあえず、ショックだがあとで考えよう。
今は目の前の問題の解決が先決だな。
「結界の壁、崩壊」
神力を使った結界を壊す魔法を、発動させる。
『ガッシャーン』
「あっ……忘れてた」
森に響きわたるガラスの割れる音。
うるさいからイメージを変えようと思っていたのだった。
……今日の俺はいつにもまして駄目だな。
何気にすごいショックだ。
いや、色々精神的にあったからだ。
きっとそうだ。
それに間違いない。
よし、洞窟の探検だ。
今、俺自身の事を考えると間違いなく落ち込むと思う。
そんな自虐趣味は無い。
気を取り直して、探検だ!
洞窟内はやはり整備されている。
この先に骨の山があるのを想像すると、ため息をつきそうになる。
解放してあげたいとは思うが、あの耳にこびり付くような声は聞きたくないな。
あの呪詛の言葉って、耳に残るんだよ。
暗くなった気持ちを切り替えようと、今日のお供の親玉さんとアイと毛糸玉を見る。
何だか不思議な取り合わせだな。
そう言えば、アイは随分と落ち着いたな。
最初の頃は、周りの仲間に対して腰が引けていたから心配したものだ。
今では堂々とした貫録さえ出てきている。
それにしても、綺麗な筋肉の付き方をしているのな。
しなやかでかっこいい。
あれ?
最初の洞窟と違うな。
こちらの洞窟は、奥まで光が届いているようだ。
前の洞窟は、途中から真っ暗だったよな。
しかも今気が付いたが、光る石を使っていない。
替わりにランプのような物が、壁にぶら下げられている。
最初の洞窟は、まだ作りかけだったのだろうか?
通路を突き進むと、空間ではなく扉が現れた。
これも違うな。
あの時は扉は無く、すぐに問題の空間に出ることが出来たからな。
「微妙な違いだが、何かがありそうで嫌だな」
扉の取っ手を持つ。
正直、骨の山が待ち受けている可能性を思うと、このまま開けずに帰りたい。
まぁ、無理だけど。
よし!
手に力を入れると、扉がゆっくりと開いていく。
そして目の前には……何も置かれていない空間が広がっていた。
「……よかった~」
足を入れて空間全体を見渡す。
檻も無ければ骨もない。
ホッと体から力が抜ける。
あれ? もう一度空間を見回す。
扉もない。
……えっと、そうだ、前の洞窟では骨の問題を解決した後に扉が出現したんだ。
周りを見る。
何もない空間が広がっているだけだ。
もちろん、解決する問題がない。
なので扉も現れる気配がない。
「まさか扉の事で頭を悩ますことになるとは……」
扉を出現させる切っ掛けがあるのではと、壁を入念に調べる。
残念ながら何も見つけられない。
前の洞窟を思い出して、扉が出現するであろう場所に目星をつける。
壁に手を当てて魔力を通して空間が無いかを調べる。
だが、魔力の流れに変化が見られないので、空間は無いようだ。
他の壁でも同じように調べてみるが、空間は見つけられなかった。
困った。
少し落ち着こう。
えっと探しているのは扉だ。
此処までは問題なし。
では、どうして扉が無いのか?
それは骨の問題を解決していないから。
合っているよな?
問題を解決していないから、扉は出現しないんだよな?
あれっ……おかしい。
どうしてあの時、扉が現れたのだ?
俺達のような侵入者を探知したら、逆に扉は絶対に開かなくなるのでは?
洞窟の出入り口の神力を使った結界。
骨の山での妨害。
どちらも、天使の空間に行かせたくないからだろう。
それを踏まえると、問題の解決により扉が現れたと思うのは間違っている。
俺だったら、扉は何が何でも隠し通す。
とすれば、あの時は別の事で扉が現れたという事になる。
なんだろう。
あの時、何をしたっけ。
確か、新しい力だ。
あの時、人々を解放する方法として神力を銀色の力に変化させたんだ。
そうすれば俺でも扱えるようになると思って。
それが、扉を出現させた原因?
じゃないよな……いや、3バカが銀色の力を使えるとしたら?
それが扉を開ける鍵だとしたら……。
でも、もし使えるなら銀色の力で結界を作るよな。
神力よりなんだか強いみたいだし。
とりあえず、銀色の新しい力で扉が飛び出すか試してみるか。
「何を出せばいいのだろう……光」
銀色の新しい力を体内で意識して光を出現させる。
中心が紺色で周りが銀色に光り輝く玉が空中に浮かぶ。
そう言えば、魔力を神力に変えようとして銀色の力に変化し、神力を銀色の力に変化させようとして紺色の力に変化したんだっけ。
落ち着いて考えると、俺のやっている事って無茶苦茶だな。
人外だとは言われているけど、また何か変化が起こってたりして……はっ、まさか。
ありえない、ありえない、たぶん。
それにしても、新しい力ってすごく綺麗だな。
しかも、魔力よりかなり強い。
変化、大丈夫のはずだ。
光を見つめていると壁の一部分がふわっと光るのが、視界の隅に入る。
そちらに視線を向けると、扉が出現していた。
やっぱり、3バカもこの力を使えるって事なのだろうか?
いや、今の問題はそれではないな。
ここにいない奴の事を、真剣に考えても仕方ないし。
ただ、もしかしたら使えるかもって事だけ覚えておこう。
……覚えておけるよな。
真面目な話、人外とか力よりも記憶力の方が心配だ。
現れた両扉はやはり豪華な造りだ。
最初の扉とは少しデザインが違う。
あちらの扉は豪華な印象があったが、こちらは繊細さを感じる。
扉の取っ手をつかみ、力を込める。
音もなく開く扉。
目に飛び込んでくる天使の入った透明の棺桶。
此処に違いは無いようだ。
ただ、棺桶の中に入っている天使の見た目が違う。
こちらの方が若い印象だ。
「まさかあれより幼い天使になるとか? いや、もしかしたら大人の天使のまま目を開けるかも!」
無駄な期待は後でショックを受けるが、思う事は自由だ。
願いに近いが。
良し、とりあえず魔法陣を消し去ろう。
一応、小さい魔力玉を作り出して魔法陣に発射。
予想通り、魔法陣に魔力が吸収される。
前回の魔法陣と同じだと判断して良いだろう。
という事で、持ってきた魔物の石に向かって新しい力で魔法を発動。
「吸収」
掃除機スタート。
力が抜ける見た目なので、イメージを作り変えようと思ったのだが、これ以上に最適なモノが浮かばなかった。
しゅぽしゅぽっと言う音が空間に響く。
やはり、何とも言えない魔法だよな。
まぁ、確実に魔法陣が消えていっているので問題は無い。
少しの間、天使の入っている棺桶の周りを魔物の石がしゅぽしゅぽっと動き回る微妙な光景を眺める。
最後の魔法陣を吸収すると、スーッと魔物の石が俺の元に戻ってくる。
お掃除ロボットみたいだな。
あれは充電器に戻るのだけど。




