29.脱力……崩壊
今までの事を考えると、そう簡単には開かないだろう。
だが、念のため棺桶の蓋の部分に手をかけて、押してみる。
「……開くのかよ……」
蓋は音もなく横にずれていく。
まさか、開くとは思わなかったので力が抜ける。
此処にたどり着くまでの結界や、魔力を吸収する仕掛けなどを思い出す。
で、最後がこれか。
喜ぶ事なのだが、なんとなく裏切られた気持ちになった。
自分勝手な考えだよな。
……此処までたどり着ける者はいないと、考えたんだろうな。
確かにこの世界の者だったら、洞窟の入り口部分で諦める事になるだろう。
結界は、魔力では突破できない神力で作られていたからな。
そう言えば、龍って神獣とも言われているよな……神力って使えないのかな?
まぁ使えるのなら、既にフォローしてくれているか。
横にいる水色を見つめる。
水色は俺の隣で、じっと天使を見つめている。
もしかしてこの天使が何か、知っているのだろうか?
とは言え、意思の疎通が出来ないから教えてもらうことは出来ないか。
あぁ~、早く神様が来てくれないかな。
そうすれば、言葉の問題は解決するはずだ。
あっ!
目の前の天使を見る。
そうだよ、天使だったら日本語を理解できるのでは?
俺の知識の中の天使のイメージって、神様の使者だ。
魔法についても色々と、教えてくれるかもしれない。
よし、早速起きてもらおう。
……どうやったら起きるんだ?
蓋が開いたが、天使が起きる気配はない。
それにしても、やはり不気味だ。
顔が整いすぎているからか?
男? 女? 天使って無性だったか……どうでもいいな。
とりあえず、蓋を完全に開けてみるか。
横にスライドさせる様に、蓋をぐっと押す。
すすっと抵抗なく蓋は移動したが、力が強すぎたのか勢い余って下まで落ちてしまった。
地面に落ちた瞬間、パリーンと言う高音が響き渡って砕け散る。
「ぅわっ!」
あまりの結果に驚いていると、棺桶自体が光り出す。
やばい、また何かやらかしたみたいだ。
って、どうすればいいのだ?
どんどん光が膨れ上がり、あまりの眩しさに腕で目を守る。
パリパリと言う音がするので何が起きているのか確認したいが、眩しくて目が開けられない。
目をギュっと閉じ腕で守っているが、涙がにじむ。
その眩しさがしばらく続き、パリパリと言う音がバリバリと言う音に変わると光が落ち着いてきた。
何度か目を瞬かせ、白くぼやけた視界を振り払う。
落ち着いたので、現状を確かめるために周りを見回す。
仲間達は、まだ視界がおかしいようだ。
「うっ、ごめん。気を付けているつもりなんだが……」
俺が何かするたびに、周りに迷惑を掛けているような気がする。
もう少し、行動を起こす前に考えないと駄目だよな。
……いや、考えて行動しているつもりなんだが……この場合はどうすればいいのだ?
気を取り直して、棺桶を見る。
透明だった棺桶には小さなひびが多数入り、今にも崩れそうだ。
慌てて中を確かめる。
ハハハ……マジですか?
信じたくなくて、数回瞬きするが現実は変わらない。
……本当に期待を裏切ってくれるよな。
あぁ、期待したさ。
天使がいれば、言葉を何とかできるのではって、本当に期待したんだ。
だから起こそうと思った、それの何が悪い!
悪くないはずだ。
なのにこの結果。
いや、成功はしている。
なぜなら、視線がばっちり合っているからだ。
そう、目の前の天使は起きている。
だがまさか、こんな落ちが付くとは思わなったよ。
ほんと、期待した分この怒りとか、やり場のない気持ちとか何処にぶつければいいのかな?
………………………………………………………………ふふふ。
もうほんと、いい加減にしろって感じだな。
神様もさ~、今まで考えない様にしてきたけど、このデカい仕掛け見逃すとか馬鹿なの?
普通、奴らの作った世界なんだから、もっと詳しく調べたりしない?
どうしたらこの洞窟とか、神力をばしばし感じる魔法陣とか見逃すかな。
ありえないでしょ!
見かけ仙人みたいなんだからさ~。
見かけ倒しとか、本当に迷惑。
あの馬鹿な見習いの事だって、神様たちは怒っているらしいけど、今まで見逃してきた方もどうかと思うのよ。
確かに、神様になるための修業がどういうものかは知らない。
でも、見習いって、神様にとって生徒だよね。
だったら、しっかり監視しておけよ。
まだ半人前で暴走する可能性があるんだから。
実際に暴走していたし、しかも数百年単位で!
それをず~っと見逃し続けた神様も、悪いと思う訳なんだけど!
どうなんだろうね、その辺り!
次に来た時、ただじゃおかないからな、こんちくしょー!
本当にいい加減にしてくれ!
俺の期待返せ!
「はぁ~」
頭の中を回る、罵詈雑言。
考えても仕方ない事なので、放置をしてきた事がぐるぐると回っている。
本当は大きな声でわめき散らしたい。
だがそれをすれば、コア達が驚くだろうと思い至り、何とか口からこぼれるのを防いだ。
「はぁ~……」
もう一度大きくため息をつく。
そして目の前の現実と向き合う。
崩れそうな棺桶の中には、天使がいた。
背中の羽がパタパタと動いて、つぶらな瞳で俺を見ている。
……ものすごく可愛い2歳ぐらいの天使が。
棺桶の中には大人の天使がいた。
なのに、蓋が壊れ光が溢れた後にいたのは子供の天使。
子供と言うか幼児に近い天使だった。
そして
「うぅ……う?」
どう考えても、意味のある言葉とは思えない声が漏れている。
体から力が抜け、床にそのまま座り込む。
もう、本当にまさかという事が起きるよな。
床に座り込んでいると、グラグラと揺れる振動を感じた。
慌てて立ち上がり、棺桶の中の天使を抱き上げる。
見渡すと壁などに大きなヒビが入ってきているのが目に入った。
「やばい、崩れるかも! 全員此処から出るぞ!」
仲間に声を掛けて洞窟の外へと向かって走る。
後ろを確認すると、一緒に来た仲間すべての姿を見ることが出来た。
よかった、ちゃんと後を追って来ている。
洞窟を出て、仲間を確認する。
どうやら全員無事に退避できたようだ。
安心していると、洞窟の入り口がドーンと言う音と共に崩れ落ちた。
「危なかった」
次の瞬間、空が異様に明るくなる。
「あ~、今度は何!」
コアに頼んで、上空に連れて行ってもらう。
そこで見たモノは、俺の場所を囲うように現れた五つの魔法陣。
その魔法陣が線でつながっていく。
「五芒星?」
見ていると線が崩れていき、魔法陣が光になって1ヶ所に集まった。
少しその光からは離れているが、伝わる力はかなり純度の高い神力だ。
あれをどうしたらいいのだ?
迷っていると、何処からともなく神力の欠片を吸収している魔物の石が飛んで来た。
そして、何事もないように神力を吸収していく。
どんどん消えていく光に唖然としていると、魔物の石はまた何処かに飛んで行った。
「えっと、解決? これって解決でいいのか?」
周りを見るが特に変化はない。
おそらく、これ以上の事は起こらないのだろう。
それにしても、この場所って五芒星の真ん中だったのか。
……もしかしたら、まだあったりする?
とりあえず、家に戻って確かめるか。
「ぅぅ~……」
腕の中の天使も忘れちゃダメだよな。
というか、この子どうしたらいいのだろうか?
当分、お預かりかな。
……一つ目達って子育て出来るかな?
あの子達は万能だからな、お願いしてみよう。




