28.天使?……掃除機って!
「……人? ……羽があるな、天使? まさかね」
地面には円形になるよう複雑な模様が施され、その中央に透明な棺桶が置かれている。
その中には、羽の生えた人? が納められていた。
骨ではなかった事はうれしいが、何なんだアレ。
近付けるかな?
そっと、床に描かれている模様の上に足を移動させる。
バチッ
まぁ、予想通りの反応だったので問題ない。
が、それに水色が隣でグァワっと低音で唸ったため、そちらにビビってしまう。
初めて水色の威嚇の声を聞いたのだが、すごい迫力だ。
ついでに牙をむき出しにした表情も恐ろしい。
小さいサイズになっているのに、風格があるな。
さすが龍って事なんだろうな。
水色を見ていると、こちらを向いていつもの表情で首を横に傾げる。
……うん、こっちの穏やかな方がいいな。
守ってくれようとしたのだろうけど、顔も声も怖すぎるから!
えっと、気持ちを落ち着けて……この足元の模様って結界かな?
何だか……これとは違うが似たような物を見たような。
ん~どこでだっけ?
あっ、姉貴に無理やり連れて行かれたアニメ映画だ。
彼氏と別れた腹いせだっと、なぜか丸1日俺が連れ回されたんだよな。
確かあの時見たアニメの中に、似た物があったな。
あれは、魔法陣だったかな。
そうだ、魔法陣だ。
いや、魔方陣だったか?
あれ? どっち?
まぁ、いいか。
魔法陣って確か……悪魔を封じたり、呼び出したりだっけ。
視線を透明の棺桶に向ける。
「……悪魔?」
ん~なんとなく違うような気がする、見た目が天使だし。
アニメの中で、魔法陣はどんな役割だったかな……。
あ~そう言えば、魔法の力を増幅させるとかなんとか。
……さっぱり分からない。
棺桶に目を向ける、天使だよな。
ん~、どう見ても悪魔って感じはしないな。
真っ白な羽のせいか、イメージの天使像そのままだ。
神様がいるんだ。
天使もいて当たり前か。
だったら、悪魔もいるか。
もう見た目で判断してしまおう。
あれは天使。
それにしてもあの天使、綺麗だけど何処となく不気味なんだよな。
中身が空っぽの人形みたいで、薄気味悪い。
それにしてもあの馬鹿ども、天使を封印して何がしたかったんだ?
まさか、天使の体を乗っ取るとか?
ハハハ、それは無い……よな?
…………えっ無いよな……あるのか?
体を乗っ取るとか、そんなファンタジーやホラー小説みたいな話……って俺も勇者召喚と言うファンタジーに巻き込まれていたな。
何でもありか。
本当に、乗っ取るつもりで封印したのか?
そう言えば、この場所は結界で守られていた。
しかも魔法が通用しない神力で、おそらくこの世界の者から隠すためだよな。
もし見つかっても、対処できない力だからどうする事も出来ないだろうし。
しかし神様が調べたら、すぐに見つかるはずだ。
まぁ、見つけられなかったし、奴らから聞きだすことも出来なかったけど。
それは別の問題だしな。
って今はそれは置いておいて。
厳重に隠し通した理由は、まだ利用価値があるからだろう。
利用価値……中身が空っぽに見える天使。
やっぱり、奴らがこの中に入るイメージが浮かぶんだが。
………………ものすごく嫌な予感だな。
そう言えば、俺達の意識を乗っ取って、森を調べようとする者を排除させようとしたよな。
奴らにとってこの森は、まだ価値があるという事だろう。
そう言えば、奴らは今……最下層の存在に落とされたって言っていたよな。
それも見習いの時の記憶を持って……だったら現状を変えようとするはずだ。
もしかして、神力を感じた場所にそれぞれ何か準備がされているなんて事は……。
ぅわ~、ありえそう。
進むべき方向性が間違っているけど、頭は悪くないもんな。
こんな世界を作ってしまうぐらいには。
……もしかして、この世界に戻ってくる方法があったりして……。
よし、すぐにこの魔法陣をつぶそう。
きっとそれが良い。
魔法陣に向かって、そっと手を近付ける。
まずは魔法陣を調べないと。
スーッと通り抜ける感覚がする。
……あれ?
何で、攻撃されないんだ?
……それに何だろう、体から何かが抜けていく感覚がする。
あっ、やばい!
手を引き抜き、体の中の力を感じ取る。
やっぱり、魔力が減っている。
それもかなりの量だ。
と言っても、すぐに補充されていくな。
「ふ~、びっくりした」
まさか、魔力を吸い取られるとは思わなかった。
何で魔力を吸い取ったんだ?
あぁ、そっか。
この世界の者が、魔法陣を攻撃するとしたら魔力だもんな。
その魔力が吸収されてしまう、つまり攻撃を無効化するためか。
魔法陣に向かって攻撃する。
「火球弾」
目の前に白い炎が現れて、魔法陣へ発射される。
魔法での攻撃方法を考えて、作っておいた攻撃弾だ。
見ていると、魔法陣が光り火球弾がスーッと吸収されていく。
「やっぱり。……だったらこっちはどうだ?」
新しい力で、もう一度火球弾を発動させる。
「火球弾」
濃紺の炎に銀色の光をまとった炎が、魔法陣に発射される。
魔法陣に触れたのだろう、バチバチと言う凄まじい火花が散る。
そこから少し後退して様子を見る。
そのままバチバチと言う音と共に魔法陣が異常な光り方を見せる。
「あ~、……もしかしてやばい?」
直感だが、やばい。
えっと火花って水で消える?
いや無理だろう。
魔法陣が浮かび上がってくる。
やばい! やばい!
水色が唸る声やコアとチャイの威嚇する声、火花がはじける音に魔法陣の異常な光りに体が少し震える。
落ち着け、まだ大丈夫だ。
えっと、何をすれば……あっ魔法陣を消せばいいのか。
役に立つかと持ってきた魔物の石を取り出す。
空中に浮かんでいる神力を吸収できるなら、魔法陣も吸収できないかな?
やってみるか、駄目だったらまた考えよう。
急げ……イメージは簡単なモノで。
掃除機で魔法陣の模様を吸い取っていくイメージを作る、って掃除機じゃないだろ!
吸い取る掃除機を魔物の石に変えて。
「吸収」
魔力だと吸い取られるので新しい力を意識して、手の中の魔物の石に魔法を発動させる。
魔物の石がふわっと浮くと、魔法陣に向かって移動する。
バチバチと音が響く中、魔物の石から銀色の光が空間全体に溢れ出す。
あまりの眩しさに腕で目をかばい、ギュッと目を閉じる。
しばらくすると、しゅぽしゅぽっと変な音が聞こえてきた。
そっと目を開けると、火花が消えていた。
確認すると魔物の石が魔法陣の上をくるくると移動して、魔法陣の模様を吸っていた。
しゅぽ、しゅぽっと……掃除機が埃を吸い取る様に。
想像力が無さすぎるだろ、これは……。
吸い取られる魔法陣を見ていると、笑える。
全て吸い終わったのか、手元に飛んで来る魔物の石。
石は、すごい輝きを放つ物へと変化していた。
手の中で力を調べると、かなり純度の高い神力だと感知する。
すごいな、手の中にあるだけでピリピリする。
「何気にこの魔物の石ってすごいよな」
ただな~、部屋に山積みになっているのを知っているから、ありがたみが薄れるんだよ。
しかも、毎日増えていくし。
とは言え、この頃は魔物の石に感謝する事が多いな。
「ありがとう」
なんとなく、魔物の石をちょっと上に掲げて拝んでおく。
あっ、そう言えば魔法陣はどうなったんだ?
目の前には透明の棺桶だけで、魔法陣は欠片も残っていない。
よかったけど、まったくもって、かっこのつかない解決方法だったな。
近付いて中を確かめる。
ん~、やっぱり綺麗なんだけど不気味だ。
この棺桶って開けても大丈夫かな?
閉まっていると開けたくなるよな……大丈夫だよな?




