25.風龍 水色
-浮かぶ島に住む風龍の水色視点-
森に行っていた主たちが戻って来た。
空から見る限り、怪我をしている様子はない。
よかった。
最近いろいろな事があったから、心配だったんだ。
主は大丈夫って森に行ってしまったけど、もしかしたら何かが起こるかもしれない。
主の結界は強力だから、ある程度のモノを防ぐ。
それでも、もしもを考えると心配で心配で。
ずっと住処の上をぐるぐると回っていた。
体を小さくして主に近づくが、違和感を感じる。
おかしいな、主から感じる力が2種類になっている。
そんな事があるのかな?
えっと……2種類のうち1つは、いつも感じている主の魔力で間違いないな。
あの膨大な魔力は間違いようがない。
……もう1つ、別の力を……やっぱり感じる。
間違いない!
神力に似ているような気がするけど、何かが違う。
神力みたいに尊大な感じは受けない。
もっと穏やかで優しいような気がする。
朝は主からあのような力は感じなかった。
やっぱり森で何かがあったんだ!
やっぱり一緒に行けばよかった。
力が増えた影響なのかな?
主がちょっと疲れているように見える。
でも、疲れて当たり前だよね。
膨大な魔力を持っているうえに、あの新しい力を保持しているのだから。
しかも新しい力もかなり量が多い。
主の体に、問題が起きたりしないといいけど。
後で、皆と相談だな。
先ずは、主お帰り~。
あっ、カレンに先を越された!
…………
「コア、チャイ! 主のあの力は何?」
「……分からん」
「え~、一緒に森に行っていたのに! 何をやっていたのさ?」
供をしていたコアやチャイ、親玉さんに聞くが全員が首を振る。
どういう事?
何で、分からないの?
「水色、少し落ち着け」
「落ち着けるわけないだろ! 主の体に膨大な魔力と、知らない力が存在しているんだよ!」
「わかっているが、此処で焦っても何も解決しないだろう」
土龍の飛びトカゲの言葉に、嫌々ながら気持ちを落ち着けようとするが、なかなか落ち着かない。
もう、主が心配だから落ち着くなんて無理!
ふんっ!
「ひとまず、何があったのか説明してくれ」
飛びトカゲの言葉に、コアが頷く。
話は、俺達を盗んで閉じ込めた奴らの法術が発動してしまった事。
そして主がそれを止めるために、新しい力を作った事だった。
驚いた事に新しい力は、1度変化をしているそうだ。
神力は、特別な力だ。
神様が操る力と言う事だけではなく、他の力に影響を受けないのだ。
魔力だったら、どんなに高濃度の魔力でも弾き飛ばしてしまう。
星を守る力が、他の力の影響を受けていては守りきれないからね。
それから考えると、神力に影響を及ぼす力など簡単には作れないはず。
だが、主は作ってしまった。
これって……大丈夫なのかな?
「神力に影響がある力で間違いないの?」
「あぁ、命を使った法術を打ち破ったのをこの目で確認した。それに、神力で傷ついた命を癒すのを見た」
命を使った法術って確か禁術だったはず。
あいつら、そんなことにまで手を出していたのか。
でも、それを打ち破った主の力。
すごいとしか言いようがないな。
しかも傷ついた命を癒す?
それって……神様だけが出来る事ではなかったか?
主はそれが出来てしまうのか……やっぱりすごい。
感心していると、誰かの声が耳に届く。
「主は大丈夫なのか? かなり疲れているように感じたが」
心配はそこ!
さっき見た主は、疲れた表情をしていた。
力の影響だったらどうしよう。
「おそらく大丈夫だと思います」
チャイの言葉に、供をした者達が頷いている。
何でそんな事が言い切れるんだ?
「本当に大丈夫なの? 新しい力は変化もしているんだろ?」
俺は心配になる。
だって、新しく力を作ることも大変なはずなのに。
すぐに力を変化させたなんて。
大丈夫なはずがない!
「正直、この場所に戻ってくるまで不安だったのだがな」
チュエアレニエの親玉さんの話にやっぱりと思う。
当たり前だ、俺達の知りえない力。
それが、唯一の存在にどう影響を及ぼすのか、不安にならないほうがおかしい。
でもこの場所に戻るまで?
どういう意味だろう。
「この場所には主の作ったゴーレム達がいる。あれらは主の変化に敏感だ。そのゴーレム達に変化が見られなかっただろう?」
そう言えば、まったく気にすることなく畑を管理していたな。
住処の中のゴーレム達は、外に様子を見に来る事も無かった。
そう言えば、まったくいつも通りだった。
「主が魔力を使い切りそうになった時、ゴーレム達は大量の魔石を主の近くに持って来ていた。あの時は使われる事が無かったが、あれらは主に一番敏感だ」
そう言えば、そうだった。
俺達は主から失われる膨大な魔力に驚いて動けなかったのに、ゴーレム達は対応するために準備をしていた。
主の魔力が戻るのを確認すると、何事もなかったように魔石を戻して畑や家の中に帰って行ったが。
そうか、彼らが反応していないのなら問題ないかもしれない。
ゴーレム達の動きを思い出して、ホッとした。
「コアさん、主の新しい力を身近で感じてどうでしたか?」
ガルムのアイが主の力の印象を聞くと、周りが静かになる。
やはり、気になるのだろう。
ゴーレムの反応で大丈夫だと思っても、実際どのような力なのか。
「そうだな。……変化する前の力は、神力より少し弱い感じを受けた。だが、変化をした後は神力をしのぐ力強さを感じた」
「つまり、奴らの使っていた神力より強いと?」
「おそらく。親玉さんはどう感じた?」
「我も同じ印象だ」
主は本当にすごい力を作ってしまったみたいだ。
それにしても……。
「面白いな」
「何がだ、水色」
同じ神獣である火龍の毛糸玉が不思議そうな顔をしている。
どうして、皆気が付かないのだろう。
「新しい強力な力なのに、ここにいる誰もが恐れていない」
この星で神獣としての役割は無い。
だが、それでも今までにない力を見れば、通常は恐怖し警戒する。
それが、当たり前だと感じる。
なのに、主が作ったと言う事を前にすると、その恐怖も警戒心も無くなる。
「……確かにな」
皆が顔を見合わせて、笑っている。
誰の心にも、主が作った力に不安が無かったのだ。
皆が心配した事は、主の体への負担だけ。
これが違う者だった場合、大騒ぎだろうな。
「新しい力が主を苦しめないのなら、何の問題もなし! だね」
最初、この世界が大嫌いだった。
空気が澱んでいるし、何処か閉塞感を感じた。
でも、主と出会ってからはこの世界が大好きになった。
だって、この世界に流れる魔力は主と同じで優しいから。
そして俺も主と同じ魔力が使えるから。
神獣の使う力は本当は神力なのだけど、ここにいる龍は誰も神力が使えない。
それは祝福されていない星で誕生したから。
神獣なのに、神力が使えないとわかった時は少しショックだった。
でも、今はそれでよかったと思う。
神獣だったら、この星にいる事が出来なかったかもしれないから。
神獣が1ヶ所に多く集まっていたら問題になるんだって。
それを聞いた時、皆神力を使えない事に喜んだ。
神様は驚いていたけどね。
そうだ、体をもっと小さくして今日は主と一緒に寝よう。
前に忍び込んだ時、仲間は怒っていたけど、気にしないもんね。
主だって驚いていたけど、怒っていなかったし。
そうしよう~。
皆がまだ話し込んでいる隙に……ばいばい。




