22.穴の中……日本語
邪魔をしていた壁が消えたので、穴の中に入る。
入口は狭かったのだが、中は広い通路に繋がっていた。
周りを見ると、確実に誰かの手が加えられている事が分かる。
足元は石畳になっており、壁はレンガとは少し色が違うが同じ形の物が積み上げられている。
3馬鹿が作ったのだろうか?
奴らが作った場所と考えるなら、何か罠や攻撃があるかもしれない。
後ろを向けば、一緒に穴に入ってきた仲間達。
神力を使っての攻撃は、魔力で防ぐことが出来なかった。
何か防ぐ方法を考えないとな。
壁を砕いた銀色の力……あの力を使えば攻撃を防げるだろうか?
あの力が何かは不明だが、役に立つなら使うべきだよな。
結界を作れるか、とりあえず試してみるか。
失敗した時の事を考えて魔力の結界の上に、新しく結界を張るか。
やってみよう。
自分自身を魔力で包み込み、その魔力を先ほどと同じ要領で変化させる。
ただし、先ほどのように突風が起こると大変だ。
何が風を起こしたのだろう?
変化する時の力かな?
とりあえず、なるべくゆっくりと変化するようにイメージを作り変える。
「銀色の力にチェンジ」
周りの魔力が、銀色に光る力にゆっくりと変化する。
風がふわっと起こるが、巻き上がることは無かった。
完全に変化したことを確かめてから
「結界」
結界の魔法はよく使うので、イメージを作る必要は無い。
以前作ったイメージがあてはめられるからだ。
少し強めに風が起こると、銀色の力がふわっと消えた。
上手くいったのか調べてみると、魔力で作った結界の外側に新しい力の結界を感じることが出来た。
成功だな。
少し体を動かして問題がない事を確かめてから、仲間達にも銀色の力の結界を施す。
「さて、これで何があっても大丈夫だろう。一緒に奥に行ってくれるか?」
奥を指さして仲間達に声をかける。
すぐに尻尾を振って答えてくれるコア達。
俺の真上の天井で、カチカチと音を鳴らす親玉さん達。
不安だってあるだろうに、いつも一緒に行動をしてくれる仲間達。
本当に感謝だな。
穴の奥を見るが、真っ暗で何も見えない。
そう言えばこの辺りは明るいな。
不思議に思い周りを見ると、光る石が壁にはめ込まれているのに気が付いた。
家の岩みたいなモノかな?
と言うか、警戒心が無さすぎるな俺。
通路の左右に等間隔で光の玉を並べる。
想像した以上に通路が長かったようで、光の玉が全部で20個以上も必要になった。
コアが先頭に立って歩き出す。
親玉さん達は壁などから進むようだ。
相変わらず俺って守られているよな。
結界は簡単に作れるようになったが、攻撃は正直全くしていない。
出来るのは、風魔法を使った切断だけだ。
仲間の心配を軽減するためにも、攻撃方法を学ぶべきかも知れない。
攻撃か~、正直怖いんだよな。
と言うか、どんな攻撃方法を学べばいいのだろう。
魔法での攻撃方法を増やすことが一番だろうか?
そう言えば、以前ちらっと見た獣人達の中に腰に剣を下げている者達がいたな。
という事は、剣?
……いや、無理だな。
剣を振り回している姿を、まったく想像できない。
無駄な事はやめよう。
やっぱり魔法攻撃かな、俺の場合は。
考え事に没頭している間に、通路の終わりまで歩いて来ていたようだ。
……攻撃方法を学ぶ前に、警戒方法を学ぶ方が先だな。
いや、集中力の方が先か。
気を取り直して、通路から真っ暗な空間に向かって光の玉を出す。
こちらもかなり広い空間の様で、全体が照らされるまで光の玉を増やしていく。
「ぅげっ。……まじか」
空間が光に照らされていくと、壁際に骨らしき物が積み上がっているのが視界に入った。
少し近づくと、頭蓋骨が見えたので人骨の様だ。
何なんだここは。
人骨以外の場所を確認する、机に椅子、それと10個の檻。
檻の中を確かめる。
入口は開いていて何もないが、1つの檻の中に紙があることに気が付いた。
紙に近づくと、文字らしきモノが見えた。
そう言えば、この世界の文字って初めて見るな。
紙を拾い上げて、文字に視線を走らせる。
「……日本語?」
線ががたがたで読みにくいが、日本語だった。
『いきなり目の前がまっしろになったと思ったらここにいた。足がひざからなくなっていて痛い。神と言う人物にいろいろ聞かれる。何が起こっているのか分からない。おりに入れられた。どうして? 1日の変化を書けと紙を渡された。それよりも痛みがあるから助けて欲しいと言ったが無視をされた。声が聞こえる。俺の他にも人がいるようだ』
別の紙の文字を追う。
『いたいいたいいたいいたい。くるしいたすけて。神様は何もしてくれない。誰かが死んだ。すごい叫び声が耳にこびりついている。新たな人がつれてこられた。ひどい。ぜんしんちまみれでかなり苦しそうだ。上手くいかないってかみさまが叫んでいる。何が上手くいかないのか分からない。あしがいたい。たすけてだれか』
『かえりたいかえりたいかえりたい いたい。しぬのか。かぞくにあいたい』
紙は全部で8枚あるが、読めるのは3枚。
その3枚も読めない場所が多くあり、読める場所の方が少なかった。
「はぁ~」
積み上がった骨を見る。
召喚術は難しいので誰もが出来るものではないと、説明をしに来た神様が言っていた。
空間全体を、もう一度見回す。
檻、そしてその檻を全て見られる場所に机と椅子。
まるで檻の中を観察するように置かれている。
奴らは練習をしたのだろう、召喚術を成功させるために。
この場所は実験場所で観察場所。
頭の芯が冷えて行く。
怒りで叫びだしそうだ。
グッと怒りを抑えて、骨の山から頭蓋骨を1つ手に取る。
瞬間、バチッと音がする。
「なんだ?」
結界が上手く作用したようで痛みは無いが、攻撃されたようだ。
なんだろう?
頭蓋骨を1つ持っただけなんだが。
骨の山を見る。
次の瞬間、人骨の山が青い炎に包まれる。
驚いて数歩後ろに下がると、コアとチャイが俺を守る様に前に出て炎に向かって威嚇する。
親玉さん達も警戒をしながら、炎を囲うように移動していた。




