18.フェンリル王 コア
-狼と間違われているコア視点-
主のそれまでにない膨大な魔力が森を覆い尽くすのを感じ、住処から出ると空から主の魔力の膜がゆっくりと降りて来る所だった。
慌てて主を探せば、ちょうど後ろに倒れる所に出くわした。
「主!」
急いで駆け付けたが、主はなんだか驚いた表情で体を確認している。
その間も、主から桁違いな魔力が放出され続ける。
魔力が無くなれば死んでしまう。
座り込んだ主の足に軽く前足を乗せて揺さぶるが、主が魔法を止める事は無く焦燥感に襲われる。
森を覆い尽くしていた魔力が、地中深くに消えると魔力の放出が止まった。
だが、相当な魔力を消耗したようで、ずいぶん顔色が悪い。
周りにいる我らを見て、少し困った顔をした。
けれども、すぐに笑って頷く様子から、おそらく大丈夫なのだろう。
だが、本当に大丈夫なのか?
主の近くにいるというのに、感じる魔力がかなり弱々しい。
膨大な魔力を消失した場合、それを回復させるにはかなりの日数がかかる。
我が主に出会った時の魔力量は、1割を切っていたため、元に戻るのに1年近くかかった。
だがこれは、毎日主から膨大な魔力が流れていたため、まだ早い方なのだ。
主の魔力は0に近い、元に戻るまでにはどれほどの年月が必要となるか。
我が魔力を渡せば、少しは足しになるのでは?
周りの仲間を見ると、どうやら同じ結論になった様子だ。
体から魔力を主に流そうとしたその時、主の中の魔力が一気に増えるのが分かった。
ありえない事が目の前で起こり、後ずさりをしてしまう。
しかも、まだその魔力は増え続けている。
「主、大丈夫か?」
ガルムのアイが主の腰に顔を擦りつける。
それに少し笑って頭を撫でながら、体を確認している。
魔力の戻りを確かめているのだろうか?
もしかして、魔力が戻ることを知っていた?
確かに、魔力が急速に増えていることに驚いている様子はない。
やはり主は我々では推し量れない存在なのだな。
森の異変を調べに行っていた、火龍の毛糸玉が戻って来た。
近づく魔力でわかっていたが、住処に近づくにつれその魔力が不安定に揺れていた。
それはそうだろう。
何が起こっていたのか知らない毛糸玉の様子は当たり前だ。
身近で見ていた我らも、まだ理解が出来ないほどありえない事が起こったのだから。
不安を感じてもおかしくない。
しかし、いまだに主の魔力は増え続けている。
気がつけば、止まっていた森への供給も開始されている様子。
そして我々の周りに施された結界も、すこし不安定になっていたが元に戻っている。
まさか、こんな短時間で魔力を安定させるとは。
「主はすごいな」
ダイアウルフの我が夫チャイが隣に来る。
すごい勢いで片付ける以上の事が起こっているが、主だからなのだろう。
なんとなく納得してしまうのだ。
しかし、あれ程の魔力を使って何をしたのだろう?
「主、何処へ行く!」
森へと行こうとする主を止める。
少し困った顔をしている主は森へ行こうとしているようだが、さすがに今日は止めてほしい。
少し考えて方向を変えた主。
よかった。
森に何か用事でもあるのか?
…………
「コア」
「親玉さんか、どうした?」
「魔物たちの異常が元に戻ったと報告が来た」
「……いつだ?」
「主が膨大な魔力で魔法を行使した直後からだ」
「ならば、あれは……森を守るためという事か」
「そうだろうな」
また、我々は主の手助けさえできなかった。
いつも守られてばかりいる。
小さくため息を付いてしまう。
「森の王と言われておるが無力だ」
「それは皆、同じだ」
「我は主を襲っておる、他の者達とは違うだろう」
「違わない。体に侵入されていたことに誰も気が付かなかった。コアの立場に誰がなってもおかしくなかったのだからな」
主が森に入ろうとしたのは、元に戻った事を調べるためか?
それとも、他に何か?
「主が森へ入ろうとしたのは、原因が森にあるという事か?」
「これまで主が間違ったことは無い」
仲間がそれぞれの力で森を調べたが、異常を見つけることは出来なかった。
だから原因は森ではないのではと、思い始めていたのだが、主が森を調べると言うのならやはり原因は森の中にあるのだろう。
「何も出来ないが共にいることは出来る。まぁそれしか出来ないのだが」
「あぁ」
主は優しい。
襲いかかった我を以前と変わらず隣においてくれる。
これ以上、失態を犯さないように気を付けなければ。




