16.エンペラス国 第1騎士団団長 4
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
周りを警戒させていたミゼロストとガジーが、魔法陣の外にいる事にホッとした。
俺が此処で死んでも、彼らなら任せられる。
ヴィルトアが片手をあげると、隠れていた第3騎士団が姿を現した。
人数では負けている。
だが第3騎士団の顔ぶれを見て確信する。
無傷とはいかないだろうが、魔法陣の外の者達は生き残れるだろう。
ミゼロストの人選に感謝だな。
「どうしてこんな事を?」
「どうして? ガンミルゼ、お前がそんな戯言を?」
「戯言とは?」
「人間にもなれなかった動物を解放だと、ふざけるな!」
「やめろ、森の怒りを買うぞ」
「はっ、そのような事にひるむような我々ではない!」
「ヴィルトア様が王になれば、この国は元通りだ。お前は王になどなれん!」
ヴィルトアの影に隠れるように、ギハルド公爵が声高に叫ぶ。
その様子から、ギハルド公爵を警戒する必要はないと判断できた。
あれはただの馬鹿だ。
ヴィルトアがなぜこんな者と手を組んだのか。
魔法陣が関係しているのか?
浮かび上がっている魔法陣を見る。
「何をしても無駄さ。これは先王が作って森の支配の第1歩とした魔法陣だ」
「第1歩……」
そんな魔法陣があったか?
全ての記録には目を通したが?
「ハハハ、この魔法陣は我々が先王様に託された物です。我々ギハルド一族が!」
先王とギハルド公爵が親しかったのは知っていたが、魔法陣を託すほどだったのか?
そのような情報はなかったのだが……。
森の支配の第1歩……どんな魔法だ?
「ふっ、この魔法陣は中に居るものを傀儡にする。奴隷ではない傀儡だ。昔、森の門番と言われる魔物が居たそうだ。それを消すために生まれたのがこの魔法。同士討ちと言う、こちらには一切被害が生まれない方法だ。最高だろ」
「趣味が悪いな」
「はっ、あと少しで王が森を支配できたというのに! お前が邪魔をした」
「違う。王は報いを受けただけだ」
「うるさい!」
ヴィルトアが興奮したように手に持った物を上に掲げる。
それが魔石の欠片だと気付いた時には、魔力を溜めて魔法陣に向かって投げつけていた。
ほぼ同時に第3騎士団がミゼロスト達に襲いかかる。
魔石は浮かび上がった魔法陣に触れると、魔力を解放した。
その魔力に反応したのだろう、魔法陣から黒い影が生み出される。
黒い影は魔法陣の中にいた者達の体を覆うように、体に纏わりつく。
俺達を同士討ちさせる事が目的なんだろうが、そうはいくか。
腰に差していた小型ナイフを首にあて、横に引くため力を入れる。
「やめろ! ガンミルゼ!」
その瞬間。
天から膨大な光が降り注ぐ。
「なっ、何だこれは!」
ヴィルトアの叫び声が聞こえるが、光で姿が見えなくなる。
膨大な光は、俺の周りに纏わりついていた黒い影を一瞬で消すと、そのまま地面へ吸い込まれていく。
光が収まり周りを見ると、魔法陣が消えていた。
何が起こったのか。
ミゼロスト達も唖然と周りを見回している。
被害はない。
黒い影と魔法陣を消した以外に変化は何もなかった。
ヴィルトアに視線を向けると、唖然とした表情で立ちすくんでいる。
ギハルド公爵は白目をむいて倒れていた。
第3騎士団の隊員達は、初めて森の力をその目で見たのだろう。
あまりに膨大な魔力に、怯えて震えている。
「大丈夫か?」
ミゼロストが足早に近づいて来る。
その後ろにはガジーの姿もある。
片手をあげて返すと、第1騎士団の状態を確認する。
少し怪我をした者もいるようだが、欠けた者はいないようだ。
「森に助けられたなガンミルゼ」
「あぁ、驚いたよ」
「しかし、以前にも増してすごい魔力だったな。森の中に居たからか?」
「どうだろう? ……それより仕事だ。ギハルド公爵、並びに第3騎士団を捕らえろ」
ギハルドは意識が無いため、拘束されたのち担がれて森を出る。
第3騎士団は素直に命令を聞いている。
おそらく森の脅威を実感したため、早く森から出たいのだろう。
呆然としているヴィルトアに近づき声をかける。
「何が? 何が起こったのだ?」
「世界の王の力だ。以前は奴隷達を助けるために、そして今回はなぜか俺のために使ってくれた」
「あの魔法陣は崩されるはずがないんだ! 魔石まで使ったんだぞ」
「だが、世界の王にとっては一瞬で消せる。その程度のモノだ」
項垂れるヴィルトアを伴って森を出る。
あと少しで森の外と言う場所で、膨大な魔力に襲われた。
いきなりの事で少し混乱が生じてしまう。
「落ち着け!」
ミゼロストの声が森に響き渡る。
「あっ、あれは!」
騎士の1人が空を見て叫ぶ。
空を見上げれば、森の王の一角と伝えられている赤い龍の姿が見えた。
我々の姿が見えたのか、真上で旋回している。
緊張感があたりを漂う。
しばらくすると赤い龍は、森の中へと帰って行った。
「すごい! 龍が!」
「すごい覇気だったな!」
「なんだあの魔力!」
第1騎士団達は初めて見た龍に興奮したのだろう、口々に喋り出す。
だが、恐怖に震えていた第3騎士団達にとっては、恐怖を倍増させる存在だったようだ。
腰を抜かして地面に座り込む者や頭を抱えて神に許しを請う者までいた。
ヴィルトアは、座り込み龍が消えた空を見つめていた。




