15.エンペラス国 第1騎士団団長 3
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
第1騎士団の精鋭と第4騎士団団長のミゼロストと共にトトロスの町に入る。
村人たちは、物々しい雰囲気に少し怯えているようだ。
申し訳ないが、そのまま怯えていてほしい。
そうすれば愚かな行動をする者が減る。
今、俺に対して何か事を起こせば、周りの者達は容赦なく斬り捨てるだろう。
ミゼロストに人選を任せたのだが、どうも覚悟を決めた者達を集めたようだ。
これからの事を考えてだろうが、慣れないな。
「奴らの居場所は?」
「森の中に入ったみたいだ」
森に?
まさか森の中に居るとは。
森の近くに居ながら、森を恐怖の対象と思っていないのか?
それとも他に何か、森に居なくてはならない理由があるのか?
「どうする?」
「そうだな。この町のトップは?」
「キョフリ侯爵だ。ギハルド公爵の妹君がキョフリ侯爵の妻らしい」
「ギハルド公爵が此処に来た理由は調べが付いたか?」
「ギハルド公爵は王都に近い町を治めていたんだが、追い出されたらしい」
「追い出された?」
「今回の奴隷解放にギハルド公爵は反対の意を表明したのだが、どうも町民達の考えとは逆だったみたいだ。少数派だったギハルド公爵は、町民と元奴隷達に追い出され、逃げ込めるのがこの町しかなかった。先王と親しかったから、森の怒りを買うのではと貴族は誰も救いの手を差し伸べなかったようだ」
ギハルド公爵は王都で何が起こっていたのかを知っているのか。
それでも、奴隷解放に反対すると言う事は何か秘策でもあるのか?
それとも、ただ単に現実を理解できないほど愚かなのか。
森の中に、逃げ込んだ事も気になる。
森の怒りが自分たちに向かないと言う自信でも?
魔石の欠片を盗んだ事を考えると、魔法で何か仕掛けてくるかもしれないな。
「ヴィルトアの居場所も森の中か?」
「あぁ、ガジーの仲間から聞いたから間違いない。追跡をしていると聞いている」
「そうか……俺も森へ行く」
「駄目だ!危険だ!」
「団長、それは」
第1騎士団の団員からも反対の声が上がる。
だが、行かない事には話は出来ない。
そして、膠着状態になっている余裕はない。
速やかに、何らかの解決をしなくてはならない。
此処に来るまでに、間者だと思われる者を数名目撃した。
おそらく第1騎士団団長が、次の国王になると言う情報を掴んだのだろう。
間者たちが姿を見せたのは、おそらくワザとだ。
おそらく次の王がどう動くのかを見て、国に報告するはずだ。
敵となるか、味方となるか、まだ様子を見るか……すぐに攻め込むか。
時間は無い、判断が遅いと思われたら付け込まれる。
今、他国に攻め込まれるわけにはいかない。
「お前たちも見ているだろう?時間がない」
「間者か……まさか姿を見せるとはな」
「捕まえなくていいのですか?」
「あぁ、あちらも今は様子見だ。失敗しなければ、こちらの望む情報を持って帰ってくれるからな」
「分かりました」
「ただし、居場所だけは把握しておくように。こちらが不利な時に、何かしてこないとも限らない」
「はっ」
森へ向かって馬を走らせる。
森へ足を踏み入れると、何かが起こるのではないかと不安を感じる。
先王が死んだ日から、王都が攻撃される事は無くなった。
だが、森との関係は改善されていない。
森の王に会って謝りたいが、どうすれば会うことが出来るのか。
森へ近づくと、入口付近にガジーの姿が見える。
すぐに駆け寄って現状の説明をしてくれた。
ヴィルトアが森に入ったのは確かなようだが、見失ったそうだ。
「申し訳ありません」
「いや、充分だ。ありがとう」
森に入って周りを見回すが、あまりの変容に固まってしまう。
「森が変わっている……」
「すごいな。なんだこれ……」
ミゼロストも驚いているようだ。
木々の間に川が多数流れているのが見える。
その川から膨大な魔力を感じる。
しかも、見かけた事の無い木々や花まである。
「本来の森の姿と言うやつか?」
そうかもしれない。
森が本来の力を取り戻したのだろう。
「行こう」
1つ1つ変化を確かめたいが、今はその時ではない。
先ずは問題を解決しなければ。
「ミゼロストとガジーは周辺を注意してくれ。魔法陣が刻まれている可能性がある」
「了解」
「はっ」
森の中を突き進むが、人の気配1つ感じない。
何かがおかしい。
違和感を感じて立ち止まる。
周りを確認する。
嫌な感じだ。
「下がれ!」
此処はいったん引き返した方がいい。
俺の命令に、部下達が急いで森の外へ向かおうとするのだが
「何処へ行く?」
今まで感じていなかった気配に驚いて、声がした方向へ視線を向ける。
ヴィルトアが木の後ろから姿を見せた。
気配を感じなかった!
どういう事だ?
周りが警戒する中ヴィルトアはゆっくりこちらに近づいたと思ったら、手に持っていたものをこちらに投げつけた。
「退避!」
遅かった。
足元が光ったと思った次の瞬間には、魔法陣が現れて閉じ込められていた。
まさかこれほど高度な魔法を扱える者が、ヴィルトア側に居るとは……。




