147.エンペラス国の隣国のエントール国2
-エントール国 騎士団長視点-
フェニックスの姿を見た興奮からか、どこか騎士達の危機感が薄れている。
調査をこのまま続けたら怪我につながる可能性があるな。
ちょうど開けた場所があるし、ここにするか。
時間をおけば騎士達も落ち着くだろう。
「止まれ。本日はここで休息とする」
かなり歩いたが興奮からか疲れを感じない。
皆と同じで俺も落ち着かないとな。
「副団長と補佐、周辺を見回るから一緒に来い!」
「「はっ」」
返事だけはこの2人いいんだよな。
すぐに暴走する副団長とちょっと抜けてる補佐。
…なんで俺はこの2人を選んだんだろう。
「ここ1ヵ月で随分変わりました」
「…あぁ、1月前の調査に参加していたな」
「…団長、まさか部下の行動をお忘れで?」
「まさか…」
副団長の視線が痛い。
周りを見ると木々の間に川が何本も見える。
川を覗くと透明の何かがいる。
見えないが、精霊と呼ばれるモノかもしれない。
「何かいますよね」
俺の魔力が高いと、もう少しはっきりと精霊の姿を見ることができるそうだが。
今の俺では不可能なんだよな。
一度だけでもいいから、姿を見たいものだ。
すっと風が吹いた瞬間、近づく気配に気が付く。
俺と副団長は剣を補佐は弓に手をかけ、周辺を見渡す。
何かがこちらに近づいて来る。
数が多く、その全体が分からない。
魔眼の影響は薄くなったが、魔力が読みにくい状態は続いている。
そのため近づくモノが魔獣か魔物か眷属かの判断ができない。
眷属は大群で動くことはないと聞いている。
ならば魔物か魔獣の大群か?
補佐は弓を引く。
近づいてくる。
がさがさと言う音と自分の心臓が早くなる音が耳に響く。
木の陰から何かが飛び出すのと補佐が矢を放つのは、ほぼ同じ。
しまったと補佐の顔が青くなる。
木の陰から見えたのは獣人の子供。
魔法で防ごうとするが、間に合わない!
最悪の事が頭に浮かぶが、子供が白い光に包まれるとぶつかる直前の矢が弾き飛ばされた。
「よかった」
補佐の声が聞こえる。
副団長も大きくため息を付いているようだ。
だが、俺は目の前の現実から目が離せなかった。
…森の奥から次々と姿を見せる子供の多さに。
……
「疲れた」
子供の数は198人。
5、6歳の子供達は全員が奴隷だった。
元奴隷の彼がいなかったら収拾がつかなかったかもしれない。
奴隷の時の号令がまさかここで役に立つとは、皮肉なものだ。
あれから数時間。
朝日が森を照らしている。
徹夜だな…はぁ~。
「失礼します」
入ってきたのは元奴隷のカジュという人物だ。
子供達を落ち着かせて、話を聞いてくれていた。
「ありがとう。カジュがいてくれてよかったよ」
カジュは嬉しそうに笑った。
子供達はエンペラス国の奴隷、背中の奴隷紋で確認された。
だが奴隷紋はすべてカジュと同じように効力を失っていると魔導師が確認。
ただ、この子供達にはカジュ達とは大きく違う点があった。
それは何者かによって守られている、という事だ。
その力が補佐の矢を弾いた。
守っているのは誰か。
白い光だったため魔導師達が、かなりやる気を出している。
子供達が怖がっていなければいいが。
「…は?」
今、何と言った?
魔物が食べ物を持って来た?
えっと?…子供たちの話によれば魔物が食料を運んでいたらしい。
…あり得るのか?
「し、失礼します!」
魔術師の1人が大興奮で天幕に駆け込んでくる。
「子供達を守りそう守り!あ~森の流れる風の中に含まれる魔力とお、同じ魔力が!」
は?
大丈夫かこいつ。
「…落ち着け。もう一度ゆっくり」
「え、えっと…ふ~。
子供達を守っている魔力と森に吹いている魔力が似ているというか、同じと言うか!」
どっちなんだ?
「同じなのか?似ているのか?」
「区別がつかないぐらい似ています!…いや、あれなら同じと言っても…」
…この興奮状態では冷静に判断を出すのは無理だな。
森に吹いている風?
文献では森の中を流れる風には世界樹の魔力が宿っていると書かれていたな。
…ん?
え…つまり、世界樹の魔力が子供達を守っていた?
いや、似ているだけの可能性も。
世界樹の魔力に似ている魔力って…森の王か?
………。
「国に戻る!」
俺の手に負えるか!




