141.エンペラス国の王3
-エンペラス国 王様視点-
ワインを飲むが気が晴れない。
無くした腕を見る。
どうして、我がこんな目に合わなければならない。
調査団はいつ帰ってくる?
魔石の替わりは見つかるのか?
いや、見つかる。
我が求めているのだから三神様がきっと。
恐れる必要などない。
恐れる?
我が恐れるだと!
目の前にあるグラスを壁にたたきつける。
少し離れた所に居た2人の女が悲鳴をあげるがそれすら苛立つ原因となる。
睨み付けるとぐっと体を小さくして震えている。
そうだ、我はこの世界で最強の存在。
恐れ敬われる存在だ。
何を恐れる必要がある、我こそこの世界の王なのだ!
目の前にある机を蹴飛ばす。
近くにあった椅子にぶつかり大きな音を立てた。
「我に恐れなどない!」
苛立ちが増していく。
けして恐れや不安ではない!
周りの者達が我の命令を遂行できない事への苛立ちだ。
恐怖など我には存在しない!
「ワイン!」
隣にいた女がすぐにワインを取りに部屋から出ていく。
なぜ準備をしていないのだ!
侍女はどうした?
クソッ役に立たんな!
部屋にいるもう1人の女に視線を向ける。
「暇だ何か余興をしろ」
「え…」
「早くしろ!」
「っ、はい」
踊りを始めるが…なんだそれは。
踊りになっていないではないか!
「踊り1つまともにできんのか!」
「我の尊い血を持っていながら、なぜ役に立つこと1つできん!」
近くにある本を投げつける。
体にあたったのかバコッと音がして倒れ込んだ。
「王様、お許しください。お許し」
「黙れ!」
倒れ込んだ女の元に近寄ると恐怖からか、がたがたと震えている姿が見える。
俺の血を授かりながら無能な存在になるとは、こいつに生きる価値があるのか?
子を産ませれば男など生みやがって。
…ゴミが。
忍ばせてあるナイフを取り出す。
ゴミはいらん。
恐怖に目を見開き、口から血を吐く姿に少し気が晴れる。
笑い声が部屋に響くと部屋が真っ白に染まる。
その眩しさに目をつぶるが恐怖で体が震え床に崩れ落ちた。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
どれぐらいの時間がたったのか、わからない。
体の震えが収まらず掴んだ机が、がたがたと音を立てる。
視線を部屋に彷徨わせる。
こわいこわいこわいこわい。
なぜ、こんな時に誰もそばにおらん。
我の騎士はどうしたのだ!
どいつもこいつも!
床に手を置き、立ち上がろうとするが、視界に入った手を見て動けなくなる。
…なんだこれは。
我の手はどうなっている?
何でこんな…何が。
張りのあった手が、黒ずんで皺が刻まれ骨と皮だけのような醜いものに。
目の前の現実を受け止められずにいると扉のたたく音と開く音。
扉に視線を向けると化け物が居た。
何だこいつは、なぜこんなモノが我の部屋に入って来られる。
警備兵は何をしている…なんだ?
この化け物は、なんなんだ!
扉が再び開く音がする。
我の騎士が部屋に入ってくるのが見える。
ようやく来たか、あとで罰を与えねば。
早くその化け物を。
「上位魔導師の…」
何?
この化け物が?
そんなはずは…魔石が割れた?
ありえない、あの魔石は三神様が我に授けてくださったもの。
みとめない、ちがう、ありえない、ちがう、ちがう。
こいつは嘘をついているのだ。
何をしている早くその化け物を殺せ!
我は神が…みとめた…神に認められ…たった1人の王。
床に転がる上位魔導師と呼ばれた化け物の顔。
見るに堪えないほど崩れた顔。
…我は違う、我は認められた存在、だからちがう。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
我は…死ぬはずがない、我は…世界の王に…。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
死にたくない死にたくない死ぬはずがない…死ぬのは嫌だ!
神よどうか!
目の前に妻がいる。
その眼を知っている、我を憎む目だ。
なぜ…どれいも…ん…傷…つけ…られ…。
我は…王…せかい…の………。




