140.第4騎士団 団長4
-エンペラス国 第4騎士団 団長視点-
王の寝室に入ると異様な存在が居た。
上位魔導師の衣をまとっているが、姿が…。
「上位魔導師の…」
友人が目の前の存在に声をかける。
これが彼らのうちの誰かだと言うのか?
こんな…存在が?
見えている皮膚はどす黒く、皺が無い場所がなく。
余った皮膚が垂れている。
目だけが異様に大きく見えて、鼻の位置もおかしい。
「魔石が完全に割れました。その結果ですよ」
「結果?」
かすれた声が耳に届く。
魔石が割れた事にも驚いたが、それ以上に目の前の異様な存在が気になる。
どうしてこんな姿になっているのか。
話している声がかすれたものから、どんどんしわがれた聞こえづらい声に変わる。
聞いた内容にも驚いたが話している間にも変わるその風貌に恐ろしさを感じる。
何処からかもう1つ。
しわがれた声が聞こえるが、その意味が聞き取れない。
余りにも、かすれすぎている。
視線を彷徨わせて音の発生源を探すと少し離れた所に、上位魔導師と同じような存在がいる事に気が付く。
…あの服は…では、あれが王?
恐れていた王の変わりすぎた姿に息をのむ。
友人も俺も動くことができない。
覚悟を決めて王の元に来た。
未来を変えるために、だがこれは想像をしていなかった。
どうするべきなのだ?
目の前の上位魔導師が床の上に倒れ苦しみだす。
少し離れた場所に居ても、何かがボキッと折れるような音が聞こえる。
その姿と音に一歩足が下がる。
恐ろしい。
だが、視線を外すことができず見ているといきなり首が床に転がった。
「ひっ」
第1騎士団の副団長の口から小さく悲鳴が飛び出す。
俺も情けないが小さな声が漏れた。
ガタッと何かが倒れる音がする。
そちらに視線を向けると王が床の上でもがいている姿が映る。
逃げようとしているようだが、ほんのわずかしか動けてはいない。
我々がとどめを刺さなくとも王は確実に死ぬだろう。
これがエンペラス国の王の最期なのか。
こんな化け物のような姿になって王は死ぬのか。
…こんな。
すっと王に近づく存在に気が付く。
王の孫娘の1人だと言われている姫だ。
実際は奴隷妻の1人だろう。
手がすっと上に上がるのを静かに見ていた。
「あ」
誰の声だったかはわからないが、その腕が振り下ろされると同時に王の首が床に転がった。
「これで守ってあげられる」
姫からか細い声が聞こえる。
王の奴隷妻として、どれほどの苦しみがあったのか。
私にはわからない。
ただ、静かに涙を流す姫の表情は本当に優しく。
今、王の首を刎ねたとは思えないものだった。
……
王は王座を争った兄弟だけでなく、血縁者の男性を反逆者として処分した。
その際、女性は全て王が作った奥の宮に監禁され、奴隷紋を刻まれ妻とされた。
反抗した妻には見せしめとして、かなりひどい行為がなされたらしい。
奥の宮の事はほとんど表に出て来ることはないが、それでも噂は流れる。
刃向うことを一切許さず、血縁者にもけして情けをかけない。
それが王城すべてに知れ渡ったのは、王子が生まれた時だ。
王は生まれた子供が王子だとわかると、すぐにその子を殺すように指示を出した。
世継ぎの心配をした周りに激怒した王は、王子を連れてこさせ目の前で殺して見せた。
それからは王子が生まれると、その日のうちに処分され。
姫が生まれると、10歳の誕生日に奴隷紋を刻まれ新たな妻として奥の宮から出られなくなる。
奥の宮から出られるのは王がそばに呼ぶときだけ。
いつしか奥の宮の妻たちを奴隷妻と呼ぶようになり、王はそれを否定することはなかった。
どれほどの命が奥の宮で失われたのかは知らないが、
王が死ぬことで少しは傷ついた心も癒されるだろう。
友人が王の近くに落ちた王冠を手にする。
「行こうか」
部屋を出て廊下を歩く。
道行く兵士や騎士は友人が持つ王冠を見て一瞬だけ固まり次に安堵の表情を見せる。
あっけない王の死。
誰にも守られず、妻と言う存在に殺された最強と言われ恐れられた王。
「あっけないものだな」
ついつい言葉が口からこぼれてしまう。
ふっと友人の笑う声が聞こえる。
「これからが大変だろう。
我々は今まで虐げてきた奴隷達と森の者達に許しを請わなければならないのだから」
「…許されるのか?」
「許されるまで、それが我々、私の償いだ」




