138.ある国の騎士8
-エンペラス国 第1騎士団長 団長視点-
「ご苦労様」
「これぐらい問題ありません、俺は団長の右腕ですので」
右腕か。
随分と苦労を掛けていると思う。
団員の調整、選別、物資の準備…苦労を掛けすぎだな。
今回の古代遺跡の調査はいい機会だと思った。
我々の罪に付き合う必要のない若い者達を逃がす方法として。
そして表の調査団ともう1つ、調査団を支える一団を用意した。
こちらは城に仕える若い子供たち、貧困層から連れてこられた子供達の一団だ。
名目は生活の補助…かなり無理があるが何とかなったな。
たしかに王は恐ろしい存在だろう。
だが、この城の中にいるすべての人間が経験したのだ。
この世界の王の力というものを。
姿を見せることなく力を振るえる恐ろしさを。
そして噂話にすら反逆罪を行使する王の姿が拍車をかけた。
王は気が付いていないようだが、あの姿は怯えているとしか見えない。
現実に怯えているのだろう。
ノックの音と共に友人が部屋に入ってくる。
以前に比べるとずいぶん穏やかな顔をしている。
だが、俺と視線が合うとしたり顔をして報告をしてくる。
「調査団は無事に安全圏まで出たようだ。ついでに奴隷棟への道を封鎖して例の道をあけて来た」
「ありがとう」
安全圏まで出れば彼らは安心だな。
今、逃げた者達がいるとばれても、すぐに追手は追いつけない場所だ。
失う必要のない命を失わずに済む。
奴隷達もおそらく逃げることができるだろう。
ここ数日で心を取り戻している奴隷達が目に見えて増えていた。
原因はどうでもいいことだ、彼らの逃げるチャンスが広がることの方が重要。
檻の鍵を壊してある、道を示す地図も見える所においてある。
奴隷の監視たちには奴隷にかかわると森の怒りをかい次は死ぬと噂を流した。
実際に攻撃を受けているのが効いたのだろうな、奴隷棟には誰も近づかなくなった。
そして内密に作った城の外に通じる道への扉を友人は開けて来てくれた。
まぁ奴隷たちは俺の部下がうまく誘導して城からなるべく遠くに逃がしてくれるだろう。
この日のために少しずつ俺は仲間を増やし準備をしたのだから。
王にはけしてばれないように、第5騎士団が送り込むスパイにも気を付けながら。
「魔導師達はどうしている?」
「他の団長が調べてくれた。どうやら軟禁状態で魔石を調べさせられているようだ」
「いい加減、諦めたらいいのにな」
部下の言葉に友人と笑ってしまう。
それができればここまでひどい事にはなっていないだろう。
しかし第2騎士団の団長と部下がこちらに付くとはな。
だが、調査団の護衛としては心強い。
これからの事を考え…剣に手を置く。
この国を変えるために。
不意に城全体に白い光がふりそそぐ。
部屋の中も真っ白に染まり目がちかちかと点滅する。
「団長」
「大丈夫だ、落ち着け!」
森からの攻撃か?
体が押しつぶされる記憶にぐっと緊張する。
視界が元に戻るころには部屋は元の状態に戻っている。
体に違和感もない。
「何が?」
城が異様に静まりかえている。
おそらく誰もが恐怖に動けないのだろう。
1つ大きく深呼吸をする。
心臓がおかしなほど早くなっていることに少し笑えた。
窓から外を確認する。
城から逃げ出す兵士たちの姿が見える。
「どうする?」
「予定通りに」
友人の声に剣を手に持ち部屋を出る。
森からの光に驚いたが、すでに準備は調っている。
あとは実行するだけだ。
……
あっけなく着いた王の寝室。
覚悟をしていただけに拍子抜けしてしまう。
先ほどの森からの攻撃に誰も我々の動きに注意を払わず、止められることもなかった。
城の警備兵としては考えさせられるが今日は助かったな。
先ほどの攻撃は俺達を助けるために?
…まさかな。




