135.エンペラス国の王2
-エンペラス国 王様視点-
城が危ないだと?
逃げた方がいいだと?
この国は終わり?…何を言っている!
周りのうるさい声に苛立つ。
逃げ出した者達を反逆罪として殺すよう指示を出す。
家族もろともわが国には要らん!
不埒な事を言った者の喉を焼け!
謁見の間にいる者達の息をのむ音が聞こえた。
そうだ、この世界で我こそが最強。
間違うことは許さん。
「魔導師からの報告は?」
跪いた騎士からは欲しい答えが出てこない。
目の前が真っ赤に染まるほどの怒りが湧いてくる。
何をしている!
魔石をもとに戻すだけだろうが!
奴隷など腐るほどいる、なぜあいつらを使わない。
なんのために奴隷を増やしたと思っているのだ!
無くした腕を見ると怒りも倍増される。
なぜ、王である我がこんな姿をさらさねばならない。
エンペラス国の最強の王である我が!
あの忌々しい攻撃。
あの日から苛立ちが収まらない。
「王様、少しお休みください」
「うるさい!」
隣に来た女を蹴飛ばす。
周りから悲鳴が聞こえる。
我が視線を向けるとすぐに下を向いて震える雑魚どもが。
「王様、血を分けた孫になんてことを!」
「うるさい!」
近くにある何かを女に投げつける。
ちょうど頭に当たったのかそのまま床に崩れ落ちる。
役に立たない雑魚が!
我が求めている答えを持ってこられる奴はいないのか。
視線を壁に並ぶ貴族に向ける。
どいつもこいつも視線を合わせようとしない。
今まで我の力で傍若無人にふるまっていたくせに、役に立たん。
「は、発言をお許しください王様」
1人の貴族が1歩前に出てくる。
「なんだ」
「ひっ…ぉ、お許しいただき感謝いたします。古代遺跡を、再度、し、調べて見てはいかがでしょうか」
苛立つしゃべり方だがぐっと怒りを抑える。
古代遺跡。
我の魔石があった場所。
あの場所は我にとって神聖な場所。
結界で何人たりとも、入る事は不可能にしている。
「古代遺跡か」
たしかに、もう一度調べさせるのは良い案かもしれんな。
こいつは確か侯爵家の者か。
古代遺跡から何か見つかれば褒美をやるか。
「魔導師長を呼べ」
……
古代遺跡の調査隊が城を出発したと報告が届いた。
三神様が我に示してくれた古代遺跡。
そこで見つけた魔石。
我に世界の王になれとのお導きだと。
…そうだ、三神様が我を世界の王として認めているのだ。
いかなる存在であろうと我が恐れる必要などない。
そうだ、恐れる必要などないのだ。
森の王になど何ができる。
他国では信仰の対象だが森の王がいったい何をしてくれた。
エンペラス国にとって奇跡をもたらした三神様こそがこの世界の唯一の神。
森の王などただの獣にすぎん。
我の国が不作で民が死にそうな時、多くの民は森の王に祈ったではないか。
なのに森の王が与えたのは少しの食料のみ。
税にも足りぬ食料に我がどれほど苦労したと思う。
各地に騎士を派遣して税を納めさせる事の大変さが理解できんのか!
あの時代にどれだけの民が飢え死にしたと思う。
民も民だ、我の責任だと?
飢え死にしたのは森の王が食料を渡さなかったのが原因だ。
不作になったのもお前たちの管理が悪かったからだろうが。
魔法が原因になるわけがないだろうが!
どいつもこいつも我の責任だと叫びおって。
苦しんでいる我に追い打ちをかけるように川の氾濫。
民はうるさく食料を分けてくれと言うが、我が飢えたら国が終わるだろうが!
大変な時期に反逆者どもの対処も重なり本当に大変だったのだ。
すべて森の王が原因だ!
三神様は違う。
我の祈りを聞き届けてくれた。
大地を変えてくれたのだ。
今までにない豊作となり多くの民が我にしっかりと税を納める事が出来た。
何と喜ばしい事か。
あの時に理解したのだ。
この世界の唯一の神が三神様なのだと。
森の王の存在など意味がないと。
此度も三神様が我を助けてくれる、かならず。




