134.ある国の魔導師4
-エンペラス国 上位魔導師視点-
魔石の前で魔導師達に緊張が走る。
何をしても無反応だった魔石が振動を伝えた。
また何らかの攻撃が始まるのではと体の芯が冷えていく。
誰もが忘れたいと思い忘れられない記憶。
その記憶に恐怖心が募る。
魔石は数回にわたり振動をしたがそれ以上の変化は見せない。
大丈夫なのか?という空気が流れる。
誰かのため息が聞こえると部屋の緊張が解けた。
無意識に呼吸を止めていたようで、息を吐くと体から力が抜けた。
床に座りこみ、何も起こらなかったことに感謝した。
魔石を見る。
これまで多くの時間と人を費やして魔石について調査をしてきた。
過去の文献も読み込んでみたがこの魔石がどんな魔物から出てきたのかもわかってはいない。
どんな高度な魔法解析をおこなっても結果は得られず。
魔石の属性すら判別できず。
どう調べていったらいいのかさえわからない。
だが、私たちには調べ続ける事しか許されない。
それが王からの命令だからだ。
「死にたくなければ答えを持ってこい」
その言葉がずしりと重くのしかかる。
私はすでに死を覚悟している。
今までの事を思うと妥当と言えるだろう。
…自らの手で多くの者を死に追いやり。
多くの者が死ぬとわかっていながら様々な事を王に提案してきた。
今は、自分の罪に押しつぶされそうだ。
…あの少女には何を今さらと言われるな。
魔石によって多くの恩恵を受けて生きてきた私には許しはない。
だが部下の魔導師達は違う。
私のような罪を犯していない者も多い。
特に今の魔導師達は位的にはかなり下になる。
少し前に多くの魔導師達が反逆罪で処刑された。
それより下位の彼らに、死は重すぎる。
何とか助ける方法はないだろうか。
部屋の隅に祭られている三神様の像を見つめる。
教えてください。
王が納得する、そして諦めてくれる答えを。
罪を犯していない部下の命を助けることができる答えを。
部屋の扉に視線を向ける。
外からカギがかけられ、騎士が護衛ではなく監視としてついている。
本来なら中に入って監視するのだが、どうにも魔石が怖いらしい。
何が起こるかわからないからな。
魔石にかかわる我々の自由は完全になくなった。
この部屋から自由になるには答えが必要となる。
ただし王が求める答えが。
王が求める答え以外は許されず下手に口にすれば待っているのは反逆罪。
一家すべてが同罪で裁かれる。
重苦しい雰囲気の中、魔石についての文献を読み返す。
私の求める答えが無いことを知りながら、それでも手を止める事は出来ない。
全員の手が止まれば、ここに居るすべての魔導師と家族の死が待っている。
これ以上、死を作り出したくはない。
騎士の1人が部屋に入ってくる。
今までの結果とこれからの方針、意味があるとは思えない報告を行うためだ。
隣に座る魔導師長はずいぶんとひどい顔色をしている。
もしかしたら私も似たようなものかもしれないが。
会議の結果はいつもと同じ…いや、今日は魔石が振動をしたことを伝える必要があるか。
ただ、振動だけなので良い事か悪い事かは不明だが。
魔石の状態からいえば、けっして安心できる報告ではないな。
魔石を見る。
あと少しで二つに割れるところまでヒビが広がっている。
完全に割れてしまったら…報告は必要となる。
その時は、私が王のもとへ報告へ行こう。
きっと、それが私の最後の仕事となるだろう。




