124.ある国の騎士7
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
森を調べに行っていた騎士から第5騎士団全滅の知らせが入った。
予測はしていたが。
1つため息を吐く。
第5騎士団がいた場所の近くには空の檻が2つ。
おそらく連れて行った奴隷たちが入っていた檻だろう。
これまでの反応を考えると奴隷を殺すことは出来なかったはず、
だとすれば奴隷たちはどこへ行ったのか。
森へ逃げたのか。
だが、心の折れた奴隷達が多い。
檻が開いていたからと出るだろうか。
…考えても分からない。
王はあれ以来、姿を見かけない。
魔導師達の姿も少ない。
何をしているのか、調べてはいるが情報がつかめない。
魔導師の奴らは口が堅いからな。
王の最後の砦と言われるだけのことはある。
どう、動くべきか。
王は負けを認めることはない。
きっとこの国の最後の1人になるまで、どんな犠牲を出しても勝とうとする。
だが、勝負はすでに見えている。
何をしても森には勝てない。
…力が違いすぎる。
部下の無駄死にだけは食い止めたいが。
だが…。
ため息が出る。
何をしても無駄なような気がする。
森の怒りをかったのだ、そしてその怒りは振り下ろされた。
何度も警告を受けたが、この国は止まらなかった。
すでに手遅れか。
……
城の中の異様な緊張感。
いつ襲われるかわからない為、怯えている。
雷といい、今回の事と言い前触れがない。
敵の姿が見えない状態での攻撃だ。
恐れるなと言うのは無理だろう。
逃げ出した者達も多いようだな。
騎士の中にもかなり動揺が走っている。
第5騎士団はかなり非道な面があり、あまり好かれてはいなかった。
だが強さは騎士全員が認めていた。
今回は恐怖心もあり応援している騎士達が大勢いたのだ。
彼らならどうにかしてくれると、少し情けない気持ちもするが。
それがあっという間に全滅の知らせだ。
騎士達にとって強かったはずの彼らの死。
敵がどれほどなのかを身に染みて感じたのだ。
騎士とはいえ今まで敵に攻撃された事はない。
エンペラス国に攻撃するような国がなかったからだ。
初めて感じた敵という存在に逃げ出さないだけましなのだろう。
団長会議へ向かう足が重い。
話し合いをしたところで何も結果は出ない。
窓の外を見る。
夏の終わりだ。
少し涼しい風が吹いて季節的にはとても穏やかな日。
一瞬を見れば以前と変わらないような気がするな。
あの平和な…。
違うな平和に見えていたが実際はずっと森を侵略していたのだから。
こうなるのは……自業自得だ。
曽祖父が残した日記にかつての森の事が書かれていた。
幼い時に内緒で読んだ記憶が思い出される。
穏やかな風が流れ、森の木々が揺れ、森は人々に恵みを授けてくれたと。
森の王たちの姿も見ることがあったと書かれていた時には羨ましく思った。
見てみたいと。
俺が幼い時にはすでにこの国は森を侵略していたので、森については話せなかったが。
……
会議室に入るとどの騎士団長も副団長も険しい顔をしている。
…今日から友人も参加するようだな。
第5がいなくなったのだから味方は多いほうがいいという事だろう。
「会議を始めます」
部下の声に部屋が緊張に包まれる。
第5騎士団の全滅した場所での調査結果の報告が始まる。
騎士団の生き残り捜索は結果0。
消えた200人ほどの子供の奴隷の捜索も0。
ただ、小さい足跡が多数見つかったこともあり奴隷は生きている可能性がある。
今の所、所在は不明。
最後に死体の回収報告。
数を見て首を傾げるものが多い。
報告している第2騎士団長に数が間違いではないか確認する。
魔導師の遺体数0。
騎士団の遺体数64。
魔導師は確か35人、第5騎士団は全員で121人のはず。
「遺体の数はそれで全てです」
魔物に食べられたのかも知れないが…。
92人の遺体が消えた…多すぎるな。
森へ消えた?




