122.獣人の子供
子供に対する暴力表現があります、ご注意ください。
-奴隷だった獣人の子供視点-
怖い大人にいつも言われてきた。
国のために役に立てと、生きていることを王に感謝しろと。
それは王の慈悲なのだからと。
何を言われているのか分からなかった。
感謝?
なぜか殴られて蹴られて、痛いけど声を出すことは出来ない。
声を出そうとしても出ないから。
殴っても表情が変わらないから気持ち悪いって言われた。
それでまた殴られた、表情って?
体からすごい音がした、でも獣人だから丈夫だろうって。
足ですごく痛い所を踏まれた。
全身に走る激痛にも、声は出なくて。
体を小さくしてすごく我慢した。
感謝ってなんだろう?
少し周りの事が分かるようになった。
自分が奴隷で周りの子達も奴隷だと。
声が出ないのは封じられているから、表情というものも奴隷には必要ないらしい。
でも、目だけは少しだけ表情があることに気が付いた。
なんとなくそれがうれしかった。
でも表情のある目を持った子はどんどん少なくなっていって周りから居なくなった。
悲しかった。
貴族って人が何度か来た。
その人たちが来ると部屋から奴隷が引きずり出される。
その人たちは殴ることはしない。
蹴ることはあるけど一番多いのは銀色に光るもので奴隷を殺すこと。
試し切りって言っていた。
貴族が殺した奴隷はなぜか部屋に戻される。
掃除の日は決まっているからだって言っていた。
少しずつ自分が分からなくなってきた。
でも、なぜか殴られる回数が減った。
俺達を殴る嫌な奴が怯えた顔をしているのを見た。
空から音が降り注いで、光が空を走るのを見た。
空から音が落ちた時はびっくりした。
でもそれよりも声が出たことに驚いた。
それはびっくりした小さい悲鳴だったけど。
生まれて初めての声、周りを確認すると他にも数人いるようだった。
なんとなくそんな子達だけで集まっていた。
何が起こっているのだろう。
分からないから怖い。
怖い顔をしていない人が来た。
その人は俺達を見回して帰って行った。
次の日に大人の奴隷が2人来た。
その大人は話すことができていろいろ教えてくれた。
この国の事、森の事、魔物や魔獣の事、奴隷の事。
初めての事で難しくて、でも覚えられるだけ覚えろって言われて頑張った。
頑張っていると、このまえの怖い顔ではない人が来た。
今度はすぐに俺達に近づくと「機会が来たら逃げろ」。
答えを聞くことなくすぐに部屋から出て行った。
何かが起こるのだろうか、怖い。
……
急に部屋から出され、狭い檻の中に入れられて移動が始まる。
一緒にいた子達とは離れてしまった。
何が起こるのか、怖くて怖くて。
ギュッと震えて小さくなっていた。
その手を誰かが握ってくる。
目の前には見たことない子。
でも、目を見てわかった感情があると。
声は出さない、感情を見せない。
ただただ手だけ握って小さくなる。
檻が開けられていきなり引っ張りあげられる。
驚いて声を出しそうになり何とか耐える。
ばれたらダメ!
引きずられて森の中に。
森!!
驚いた、話に聞いていたから。
そこからは今まで以上の地獄だった。
全身が悲鳴をあげている。
目の前には恐ろしい魔物が何匹もいて。
自分を食べようとしているのか爪を立てられ転がされる。
ここで死ぬのだと、ギュッと目を閉じる。
魔物が牙を突き刺そうとしたら遠くで見ていた奴らが魔物を殺す。
何度も同じことが繰り返される。
意識がふっと遠くなる。
体がなぜかぶるぶる大きく震えているような…分からない。
視線を彷徨わせると手を握ってくれたあの子がいる。
次はあの子なの?
逃げて…。
何か光が見えたような気がした。
何かは分からない。
ただ、体が暖かい何かに包まれた。
すごく気持ちがいい。
背中もぽかぽかしている。
背中には大きな模様がある、それが痛くて痛くて。
大人の人は奴隷紋だって
その背中から痛みが引いていく。
……
顔に水がかかる。
目を開けるとあの子がいる。
びっくりして周りを見ると怖い大人がいっぱい倒れている。
手を差し出されたのでギュッと握って立ち上がる。
どうしようか。
「にげよう」
これが教えてもらった機会なのか。
逃げろって言っていた、なら逃げないと。
他にも逃げられる子がいるならと檻のもとへ。
檻が開いている。
中に声をかけるけど反応がない。
もう1つ檻があったけど反応を見せる子はいない。
大人たちの話では生きているけど心が死んでしまったって言っていた。
悲しい。
周りの荷物から食べ物と水をもらって森の奥へ走って逃げる。
怖い大人が目を覚ますと今度こそ殺される。
小説を初めて2か月が終わりました。
読者の皆様のおかげで総合評価が10000ptを超えました。
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これからもどうぞよろしくお願いいたします。




