112.水龍 ふわふわ
-毛糸玉に羽のふわふわ視点-
森にとって世界樹は命と同じ。
そんな存在がすぐそばにある。
湖から顔を出すと、主の魔力に喜んでいる世界樹が見える。
何とも不思議な光景だ。
……
かつては森の許しを得て、その姿を見ることも触れることもあった。
だが、森の秩序が人によって崩され、知性のない魔物や魔獣が増える中、世界樹はその姿を隠した。
それは森を守るためであり、我らを守るためでもあった。
人は遥昔から世界樹を手に入れようと、森に挑み続けてきた。
それらの人を森から追い出し、時には殺して力を示し森の存在を誇示し続けたのが王達の存在。
森には王達がいると長い間にわたり人を遠ざけることに成功していた。
森を尊重するエルフや共に生きていた獣人たちは森に入ることはあったが、
けして中心へと足を進めることはなく、古の教えに忠実であったため問題はなかった。
それがあるときを境に森全土を覆う魔眼に狂わされていく。
その苦しみから我らを解放したのが主。
そんな主に守られて強く根を張りだした世界樹。
このまま、穏やかに時が過ぎることを願うが。
……
願った矢先に世界樹に異変が表れる。
魔力が揺れ、苦しそうにもがいている。
我ら王達が魔力を注いでもまるで効果がない。
トレント達が主を連れてきた。
急いでくれ!
このままでは世界樹が!
主のもとに集まった仲間たちの表情はどれも苦しそうだ。
俺も同じ。
地上の異変を感じ取ったのか、地下の氷龍の不安げな魔力も感じる。
主が魔力を世界樹に流す。
一時は苦しさも半減するようだが、すぐに苦しみだしてしまう。
何が起こっているのだ。
まさか、また人が森に攻撃をしているのか!
世界樹は森と一心同体の存在。
今の世界樹はまだ生まれたばかりで森に攻撃が加わればすぐに影響が!
世界樹の魔力がもう少し強ければ防御もできるが…。
我の気を森に巡らせ異常を確かめる。
森の入り口に人の気配をかすかに感じる。
遠いため確実ではないが、そこから何か不快な気配が。
風龍がいれば確かめようがあるが…我の力では微かにとらえられる程度だ。
それにしてもまた人なのか!
主の魔力が徐々に研ぎ澄まされるのを感じる。
その中にかすかに怒りを感じ取った。
これは初めての事で少し戸惑う。
主はいつも穏やかに我々を守ってくれている。
魔力に怒りを感じるのは初めてだ。
研ぎ澄まされた魔力が増幅して、世界樹と主を包み込む。
誰もが祈るように主を見つめる。
信じているが敵もまた強大だと知っている。
主に何かあれば…我の命を使ってでも主を助ける。
主の魔力が今までにないほど膨れ上がっていく。
その異常な状態に我は少したじろいでしまう。
主を中心に、今まで感じたことが無いほど鋭い魔力が森全土を覆う気配を感じる。
森を覆っている?
そんな事が出来るのか?
この森は世界の半分にも及ぶ広大なもの。
我らでも森全土を見ることは出来ない。
微かにとらえれる程度だ。
しかし、主だ、あり得るのか?
唖然として主をそして周りを見るが周りも我とほぼ同じ反応。
と言うことは仲間達も感じたようだ。
主はすごいとは思っていたが…。
次の瞬間、世界樹の魔力が倍増する。
違う、倍増どころではない。
主の魔力を最大まで取り込んだ世界樹が、その姿を一気に変えていく。
あまりの事に我は呆然と世界樹を見ているだけしかできない。
…我だけではなかったが。
見上げるほどに成長した世界樹は、以前の世界樹よりはるかに力がある。
前の世界樹にも守りはあったが…今ほど強いモノではなかった。
おそらく身を守るために主が世界樹に渡した力なのだろう。
膨大な魔力を秘めた世界樹を見上げていると、
主からものすごい魔力の流れを感じとる。
慌てて主を見ると、魔力が恐ろしい程の怒気を纏い威圧として放たれた。
魔力を含んだ魔法の言葉と共に。
全身から血の気が引いた。
あれが何処に向かうのかは知らない。
だが、どこに向かおうと被害は確実だ。
初めて見た主の本当の怒り。
それは森だけではなく世界に響いたことだろう。
…ビビっている間に主はすでにもとに戻っている。
と言うか、本当にあの威圧を放った人物なのかと思うほど普通だ。
主が敵でなくて本当に良かった。




