109.フェンリル シオン
-狼に間違われているシオン視点-
洞窟の入り口で急に火の手が上がる。
驚いて確認しようとすると、上から何かが落ちたと同時に燃え上がり炎の勢いが増す。
驚きで警戒を強めるが、炎からは主の魔力を感じたので敵ではないと判断できた。
主を見ると…何とも言えない苦々しい顔。
?
あまりに急な事で何が起こったのか分からなかった。
主は視力強化でもしているのか遠くのモノの判断が一瞬だ。
俺達もかなり遠くまで見ることができるが主には負ける。
しかも最近は森の中で危険察知まで広範囲に広げている。
俺たちは主の守りのはずなのだが…守られているような気がする。
もっと頑張らねば。
……
俺らも王も強さを求めて日々訓練をしている。
俺ももっと強くなりたいから頑張っている。
目標は王に1回でも攻撃を決める事。
子供たちに無様な姿は見せたくないからな。
以前、俺達は主の強さを正確に測りきれていなかった。
王と親玉さんが共にいるときに恥を忍んで聞いてみた。
王も親玉さんも勝負は一瞬で終わると同じ答え。
少し迷ったが、王がたった一瞬で負けるということかと気が付いた。
これには驚いたが主の強さに納得のいくものでもあった。
俺達では主の強さが分からなかった訳である。
敵でなくてよかった。
主は我々をとても大切にしてくれている。
人間だと最初は睨んでしまったが、あれも寛大な心で許してくれた。
本当に優しい。
主の心の広さが森に変化をもたらしてくれた。
命を助けてくれただけでなく生きることの意味を教えてくれた。
仲間の大切さは主が俺達を大切にしてくれることで学んだ。
自分の住処だけでなく俺達も共に住むことを許し、俺たちが住みやすいようにもしてくれた。
あの大量のゴーレム達は正直に言えば俺達よりはるかに強い。
王も苦笑いしていた。
そんな強さを持ちながら俺たちがすることを優先してくれる。
駄目な事はある。
それは主の食べるものを害すること、だがその食べ物は俺達にもふるまわれる。
今まで食べたことがないモノもいっぱいあり、ついつい尻尾が揺れてしまう、我慢しようと思うのだが…。
主が自ら作ってくれると言うご褒美もある。
これには王も尻尾が揺れているのを見てしまった。
強いのにほかの種にも心を開いてくれる。
主はすごい、誰よりも強くそして優しい。
いろいろ驚かされてきたが、最近では龍。
主のもとに3龍が集った事だ。
龍はどの王も自己主張が強く、会ってしまったら死闘を繰り返すこともあった。
それが、主のもとでは以前とは異なる存在のようになっている。
王が確認したことがあるらしい。
親玉さんもシュリ殿も驚いていたらしいからな。
そして答えは主の魔力。
主のそばにいると、主の魔力で包まれるような気配を感じる。
それがとても気持ちがいいのだ。
そして心が穏やかになっていくと言う。
これには覚えがある。
確かに主の魔力は不思議と心が落ち着く。
普通は強い力を持つ者の魔力は近寄りがたいモノだ。
近くにいるだけで恐怖を感じ心が悲鳴を上げる。
同種の場合は少しましだが、他の種の場合は恐怖以外の何物でもない。
だが主の魔力は強いのに優しく包み込んでくれる。
そしてその魔力は他の強いモノ達の魔力にも影響があるようで、最近は龍の近くでも恐怖を感じない。
怒らせてしまうと恐怖を感じるだろうが、日常では普通に接することができる、思えば不思議だ。
親玉さんと訓練ができるのも魔力で身が竦まないからだ。
そうでなかったら近づくことなどできない。
食べ物を巡って王達と取り合いなど、今考えたらすごいな。
あの時は必死すぎて気づかなかった。
…すごいな。
牙をむいたのに、ちょこっと奪ったのに、俺生きてる!
親玉さんも水龍も許してくれた。
やっぱり主はすごい。
今日もご褒美がいっぱい…。
あ!土龍さん、それ、ちょこっと、ちょこっとください。




