16話
「ーーと、言うわけだけど、何か思い出せそう?」
「ごめん波留さんの過去が予想以上に重いことに驚いてそれどころじゃない」
話し終わって秋田くんに目を向けると彼は頭を抱えていた。
「面白くないって言ったじゃん」
「いや、面白いとかそういう問題じゃない……」
自分の分の茶を飲み、喉を潤す。
まぁ私の過去なんてそんなもんだ。……確かに少し重いかもしれない。いやでもこれは重要なところだけを切り取った結果だ。話したこと以外は基本何事もない穏やかな人生だったはず。うん。
「え、ていうか波留さん刺されたの? なんで?」
「それは前世で? それとも今世?」
「どっちも」
「前世については……狂った男の思考回路なんぞわからん」
大方、フラれたのは私のせいだと認識して、その私がいなくなれば彼女とまた恋人になれると思ったんだろ。知らないけど。なれるわけないけど。彼女、大丈夫かな。心配だ。
「今世は人違いに巻き込まれた感じかな」
「うわぁ……」
「他にも疑問があるなら聞くけど」
「……やっぱりここ、ゲームの世界なんだね」
「やっぱりってことは気づいてたんだ」
「やったことあるからね。そのゲーム」
え、その乙女ゲームだぞ。やったことあるの。まぁ、男子でも乙女ゲームする人いるか。ギャルゲーやる女の友人いたし。
「…………やっと転生の事実を受け入れられ始めた俺にその設定は重い……キャパオーバーです……」
「だろうね」
「もうやだ……どうしろというの……」
「ゆっくり受け入れたらいいんじゃないかな」
「……」
「話なら聞くし」
「ありがとう波留さん」
チビチビお茶を飲みながら秋田くんがお礼を言ってくる。
「っと、私はそろそろ夕飯の支度をしなきゃいけないんだけど、どうする? もう少しうちでゆっくりしてく?」
「いや、帰るよ。話したらだいぶ落ち着いた」
そう言って秋田くんは荷物を持ち、立ち上がる。何かスッキリした顔をしている。
「そっか」
それだけ言って秋田くんを玄関まで見送る。そういや夕飯の献立考えてない。何を作ろうかな。
「じゃ、波留さんまた明日」
「ん。気をつけて帰りなよ」
「うん」
秋田くんが扉を開けようとノブに手をかける前に扉が開く。そこには習い事から帰ってきた兄と、泥だらけになった圭が立っていた。
「ん? 君は」
「あ、こんにちは。秋田湊です」
「こんにちは。波留の友達だよね?」
「七年間クラスが一緒の友人だよ。お帰り二人とも」
「ただいま。秋田くんは今から帰るの?」
「はい。お邪魔しました」
「そっか。また遊びにおいで」
兄が外面の笑顔で秋田くんに対応する。いつ見ても慣れない。秋田くんは何か萎縮してるし。圭は一言も話さないけどどうしたんだろう。
「じゃ、またね波留さん。お邪魔しました」
「ん」
去っていく秋田くんに軽く手を振る。秋田くんが見えなくなると二人が家に上がってくる。圭が私をジーッと見てきた。
「圭?」
「お姉ちゃんあの人彼氏?」
「え、波留の彼氏なのか?」
「違う。ただの友人」
「……年頃の男女が二人きりになるのはいけないと思います!!」
そう叫んだ圭は走って風呂場へ向かってしまう。なんなんだ。っていうか替えの服……。
「反抗期……?」
「どっちかというと思春期じゃないか?」
そうか、思春期か……。じゃあそのうち反抗期も来て私に近づかなくなったりするのかな……。あ、想像しただけでも悲しい。泣きそう。




