5話
「東屋、ですか」
裏庭に足を運んだらまた理事長と出くわしたので花壇の手入れを手伝っていた時、ふと思い出してあの草むらのことを聞いたら理事長は「東屋だよ」と簡潔に答えてくれた。
「うん。昔、銀杏会の皆で天気の良い日に昼ご飯食べてたんだ」
「へぇ……………………え、理事長、この学校の卒業生なんですか?」
「そうだよ。もう随分と昔だけれどね。あ、東屋の方はまた使えるように手入れしておこう。好きに使って構わないよ」
そうか。理事長、この学校の卒業生だったのか……銀杏会メンバーだったのか……。東屋は今度使わせてもらおう。
「銀杏会作ったのも私だよ」
「えっ」
最初からあったわけではないのか。
私が驚いていると理事長は作業が終わったのか一息つき始めた。地べたに座って紅茶らしきものを飲んでいる。その水筒に入ってる紅茶は自分で淹れたのだろうか。というかこの人迷いもなく地べたに座ったな。
「君も一杯どうだい?」
「ありがとうございます」
理事長が新しく紅茶を淹れてくれたので素直に受け取る。地面に座るのをためらっていたらハンカチを敷かれた。その高級そうなハンカチの上に座れというのか。
「他にも私に聞きたいことがあるなら聞くといいよ」
座った私に理事長がそう投げかける。ふむ。なら質問させてもらおう。
「なんで『銀杏会』なんて名前なんですか?」
「銀杏が好きだからだね。他の植物も好きだけど銀杏が一番好きなんだ」
「綺麗ですよね、銀杏」
「あぁ。それに食べられるし、葉には防虫作用があるから栞にもってこいなんだ。…………まぁ、今はこの名前、絶妙にダサいなって思ってるよ」
「……」
「若気の至りだね」
そうですね……。
名前についてはなんのフォローもできなかった。
「なんで、銀杏会を作ったんですか?」
「私に必要だったからかな」
私の質問に簡潔に、それでいて有無を言わさぬ言葉で答える理事長。なるほど。何故必要だったかは話さないつもりなのか。まぁいいや。
チビチビ紅茶を飲む私に理事長がクッキーをさしだす。貰おう。
「美味しいかな?」
「美味しいです」
「それはよかった」
理事長が人の良さそうな笑みを浮かべる。うまうま。
その後、理事長はどこから出したのかグミもくれた。美味しかった。




