ろくじゅうはち 六年冬休み
「波留、冬期講習行ってみる?」
「冬期講習?」
とある日の夜、今日は母が早めに帰ってこられる日だったので、夕食作りを母に任せ、洗濯物を畳んでいると、母親がそう声をかけてきた。冬期講習。
「そう。少し前にテストの点が〜って言ってたでしょ。もし勉強が不安なら行ってみる?」
ふむ。この間の社会のテストのことか。あれはひどかった。まぁ、あれを抜きにしてもそろそろ前世の記憶を頼りにするのにも限界があるしな。それに……塾か。前の人生では中学生高校生のときしか行かなかったからな。小学生が通う塾……ちょっと気になる。
「行きたい」
と、いうことで、私は今塾に通っている。
私立の子供用の授業で、既に中学の内容をやっているよ。社会ができないよ。ていうか英語もあるよ。前世の時から英語は苦手なんだよ。
折角通わせてもらっているので、成績を上げようと授業が終わったあとも自習していると、気がついたら夜になってたりする。冬だから日が沈むのも早い。いやまぁ、夜の10時だから、夏でも日は沈んでる時間だけど。
「波留」
「兄さん」
冬期講習初日、夜まで勉強していた私が一人で夜道を歩くことを不安に思った両親は、必ず兄か両親のどちらかが迎えに行くから、それまで待っているよう言われてしまったので、夜遅くまで勉強した日は誰かしらが迎えに来る。両親は仕事があるので、基本兄だ。
「帰ろうか」
「うん」
兄と二人並んで帰る。
「今日は茜さんいないんだな」
「今日はお休みらしいよ」
冬期講習に通っている塾はビルの中に入っており、同じビルに茜さんが通っている塾もあるらしい。たまに来るメールの中で判明した。びっくり。
茜さんは帰りは一人らしいので、時間が合う日は一緒に帰ることになった。茜さんが帰るのはだいたい夜遅くだし。人数が多いほうが安心する。
帰る途中、ところどころで光るイルミネーションを見た。もうクリスマスか。
「兄さんクリスマス・プレゼント何にするか決めた?」
「ほしいものが無くて困ってる。波留は?」
「無欲だなぁ。…………参考書とか?」
「お前も無欲だな?」
「かもしれないね。あ、皆で遊ぶ用のゲームとかいいかも知れない」
「それいいな」
帰ったら何かいいものがないか調べてみようと二人で話す。因みに数年前、サンタさんへの手紙に兄は「難し目の本」、私は「参考書の類」、圭が「図鑑」と書いたところ、兄には六法全書、私には英和辞典、圭には英語版の分厚い図鑑が届けられた。この世界でもサンタは大体父親である。父よ、このチョイスはどうかと思うんだ。
まぁあの時のように曖昧なことを書かなければ大丈夫だから、今年もキチンとものを指定させてもらおう。ゲームもらったら皆で遊びたいなぁ。
夜道を兄と二人で歩く。ポケットには防犯ブザー、鞄にはスタンガンが入っている。
夜道は苦手だ。良い思い出がないし、怖い。一人では絶対に歩きたくないな。




