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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
高校生編
228/232

四十話 一年夏休み20

 花火はとても綺麗だった。


「携帯で撮ったけど最近のは凄いな。綺麗に撮れてる」

「間切、間切。それ送って」

「ん」

「私にも!」

「僕にも」

「全員に送る」


 ついでに秋田くんにも写真を送りつつ全員で帰り道を歩く。夏とはいえもう日が沈んでいるからさほど熱くはない。全員に写真を送りつけて、携帯を鞄にしまい、防犯グッズをすぐ取り出せる位置に動かす。夜は相変わらず怖い。


「来年も来ような!」

「あ、はい」

「波留さんたち仲良しだね」

「秋田もだぞ?」

「……楽しみだね」


 秋田くんは遠い目をしていた。


「じゃぁ僕達はこっちだから。三人とも気をつけて帰ってね」


 縁日が並んでいた場所から暫く歩けば私と辻村はほか三人とは別方向になる。もう遅いから話し込むことさせずまたね、と言ってふた手に別れた。それに今は携帯もあるし家もそこまで離れていないので会おうと思えば会える。というか、そろそろ新学期が始まる。


「間切さん」

「ん?」

「楽しかった?」

「楽しかったよ。お祭り初めて行ったし」

「そうなの? 毎年行ってるかと思った。圭くんとかと」

「圭も兄さんも、お祭りに行きたいとは言わなかったからなぁ」


 そして私も。人混みはあまり得意ではない。


 どうやら私が初のお祭り参加だということに驚いたらしい辻村は興味深そうにこちらを見てきた。


「圭くんは興味ありそうだけどね、お祭り。意外だな」

「友達とは一度くらい行ってるかもね」


 私が知らないだけで、と続けると辻村はまた驚いていた。


「圭くんなら間切さんとお兄さん誘って行きそうだけど……」

「圭が私を祭りに誘うと思う? この私を?」


 自他ともに認める方向音痴を?


 私の言葉に辻村はそっと視線をそらした。


「そうだったね……」

「それに夜は危ないから。今日だって防犯グッズたくさん持たされた」


 使う機会がなくてよかった。本当に。どうやら私達が合流する前は秋田くんが大変だったらしいが……まぁ、無事だったし。あとは自宅に帰るだけだ。そう、自宅に……。


「……辻村くん、自宅前まで送ろうか?」

「なんで?」

「このまま行くと私の家の前通るけど、そこから辻村くんの家までの間で何か起きそうで怖い」

「大丈夫だよ。僕男だし、大きいから」


 確かに辻村は自販機程に背が高いが、全体的にひょろい。


「でも顔は美人だし……」

「美人……」


 そう、美人。ゲームの攻略対象なので馬鹿みたいに顔が良い。顔の良さだけで生きていけそうなレベルである。


「やっぱ送るよ」

「間切さんに家の前まで送ってもらったことが家族にバレたらたぶん凄く怒られるし遠慮するよ」

「何故」

「間切さん女の子だからね」


 僕はさっきも言ったけど男だし、と辻村は言う。確かに辻村は男で、男女差を考えると普通は辻村の方が強いし不審者にも対抗できるが……。


「辻村くん痩せてるしたぶん私のほうが強いよ」

「容赦ないね。これでも鍛えようとしてるんだよ。ジム通ったり」

「じむ」

「そう、ジム。昔は病弱で運動もロクに出来なかったけど最近はそれもマシになったから、健康維持のためにも」


 なるほど、と辻村を上から下へと見る。ふむ。


「通いたて?」

「……………………筋肉、つかないんだよね、何故か」

「あぁ……」


 たぶんそういう体質なんだろう。辻村は遠い目をしていた。


「食べる量も増えてるんだけどね」

「良いことだね」

「うん。あ、着いたね」


 話しているうちに我が家の前についたらしい。辻村が足を止める。


「次会うのは夏休み明けかな」

「かな。……家の前まで送らせては……」

「だめ」


 良い笑顔である。


「じゃあ電話しよう。君が家つくまで」

「なんでそんなに心配するの?」


 辻村は不思議そうにしている。ごもっともな疑問でだ。


「正直なこと言っていい?」

「うん」

「純粋な心配半分、このあと君に何かあった場合に学校で君の取り巻きに何かされそうで怖いのが半分」

「なるほど」


 納得された。


「じゃあ電話しようか」

「うん。しりとりでもする?」

「それ、傍から見たら僕が変な人になるよね」


 電話しながら何故か単語だけをブツブツ言う男……いくら顔が良くても不審者確定である。


「不審者には不審者度合いで対抗したら良いと思う」


 流石の不審者でも不審者を襲うことはしないだろう。


「間切さん無茶言うよね。……じゃぁ、またね」

「ん」


 携帯を通話状態にして去っていく辻村を見送る。


『……間切さん、そろそろ家入った方が良いと思うよ』

「君、背中にも目ついてたりする?」


 遠方に見える辻村はこちらを向いていない。取り敢えず見えなくなるまでここにいようと思ったのだが、言われてしまっては仕方ない。私は玄関の扉を開けた。


「姉さんおかえり〜」

「ただいま」

「あれ? 電話中?」


 扉の音を聞いて玄関まで来てくれた弟を見る。既にパジャマ姿だ。可愛い。


「……」


 電話の相手は私じゃなくても良いんだよな。


「辻村くん、ちょっと圭に代わるね」

「え!?」

『え?』


 返事は聞かず、携帯を弟に渡す。何事かとオロオロした弟だったが、直ぐ携帯越しに辻村と会話し始めた。さて。


 部屋に荷物をおいて、そのまま本棚から図鑑を手に取る。索引を見てから、目的のページを開けばオオミズアオの写真が目に入った。


「こいつ、名前変わってないなぁ……」


 ゲーム内で出てきた記憶はないが、名前が変わっていない蛾だ。この世界は前世と同じモノでも名前が変わっていることが多々あるが、同じ名前のものもある。ランダムすぎて逆にこんがらがってくる。


 図鑑を本棚に戻してからリビングへ行くとちょうど弟が通話を切っているところだった。


「も〜、姉さんいきなりはやめてよ」

「ごめん。なんの話してたの?」

「姉さんの話」


 なぜ私の話をしているのか。というかなんの話をしていたんだろう。


 気になって聞いたが弟は教えてくれなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ辻村君も波留さん呼びしてもいいと思うんですよね。 秋田君と同様に波留さんの扱い方心得てきたみたいだし
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