三十八話 一年夏休み18
「波留さん迷子になりすぎじゃない?」
「……誠に申し訳ありませんでした」
決してわざとではないのだが、迷子になったのは事実なので素直に謝る。秋田くんはしょうがないなぁと笑った。
「……ところで、なんで手繋いでるの?」
「私がはぐれるから」
「なるほど。そのまま繋いでもらってた方が良いと思う」
「嫌だ」
とても良い笑顔で無慈悲なことを言う秋田くんを睨むが彼は特に気にした様子もなくニコニコしている。未だ繋がれたままの私の手を見て。
「もう迷子にならないから、離してください」
「わかった」
手が離されると秋田くんがあからさまに落胆していた。まさか本当に辻村×私ルートを望んでいるわけではなかろうな。
「ところで赤坂くんたちは?」
「赤坂くんたちなら……チョコバナナ買いに数メートル先に行ったよ」
「すぐそこか」
少し視線をずらせば視界に入る場所に赤坂たちはいた。楽しそうにチョコバナナを5本、屋台のおっちゃんから貰っている。浴衣姿の美男美女が無邪気な笑顔を浮べている図はとても絵になる。写真を撮りたいが人が多すぎて二人だけを撮るのは難しい。
「あ、間切! よかった見つかったんだな!」
「手が離れたときは肝が冷えました……」
心配をかけたらしい。申し訳ない。
戻ってきた木野村は私にチョコバナナを1本渡してくる。ありがたく貰ってきて値段を聞けばおまけでもらったやつなのでと言われてしまった。美味しい。
「次どうする? 俺射的あるならやってみたい」
「ヨーヨー掬いとかもやってみたいです」
「祭りを満喫する気満々だね。辻村くんは?」
「僕は花火見れれば良いから、皆が行きたいところ行こう」
「間切たちは?」
「食べ歩きツアーできたので満足」
「波留さんに同じく」
「じゃあ射的っぽいのとヨーヨー掬い探しに行こう!」
そこそこ規模の大きい祭りなので射的もヨーヨーもあるだろう。私ははしゃぐ赤坂と木野村を横目にちらりと時間を確認する。……なるほど。
「射的やヨーヨーも魅力的だけどそろそろ花火始まる時間だよ」
「「えっ……」」
「あぁ、本当だね」
私の言葉に悲しそうな顔をした赤坂と木野村がこちらを見る。見られても困るんだが。
「歩きながらでも見れるとは思うけど……どうする?」
「花火は落ち着いてみたいです……」
「どうせならじっくり見たい」
「じゃあどこか見やすい場所に移動しようか」
少し言った先に開けた場所があるからと辻村が二人に説明するが、二人はしょげたままだ。
今回は少し遅い時間帯に集合したのもあったから回りきれなかったのは仕方ない。が、まぁ、祭りにはしゃぐ気持ちもわかる。
「花火のあともやってたらその時やれば良いよ」
「……やってますかね?」
「どうだろう。この祭りには初めてくるから……。どうしても今やりたいってわけじゃないなら来年も来れば良いと思うよ。屋台の種類はそんな変わらないだろうし」
「来年も一緒に来てくれるのか?!」
「……予定が合えば」
失言したかもしれない。私は元気を取り戻した二人に詰め寄られた。
「なら来年にする! 木野村は?」
「私も来年で!」
「私が無理でも……ほら、槇原さんとか東雲くん誘えば……」
「間切! 来年も来ような!」
「楽しみですね!」
「……はい」
二人の笑顔が眩しい。
「相変わらずちょろいね間切さん」
「押しに弱いなぁ、波留さん」
ほっとけ。
お久しぶりの更新です。




