三十七話 一年夏休み17
まぁ逸れますよね。
私が。
「あ〜……」
その後食べ歩きツアーをしていたら人混みに飲まれ木野村と繋いでいた手が離れてしまい、私がみんなと逸れてしまった。買ったたこ焼きを隅っこで食べながら人混みを何となしに眺めるが、当然木野村たちは見つからない。たこ焼きを食べ終わったら連絡をするとしよう。たこ焼き美味しい。
浴衣姿の美男美女に周りからの視線は凄かったが実際に声をかけてくる人間は少なかったし、私がいなくとも問題ないだろう。綿あめ食べたくなってきた。たこ焼きに焼きそばに唐揚げと食べ続けてたら甘いものが食べたくなってくるものだ。チョコバナナでもいい。少し歩いたらどっちかはあるだろう。
「よし、買いに行こう」
「間 切 さ ん ?」
「わぁ……」
いざ甘味を目指して足を踏み出した私の目の前には辻村が立っていた。相変わらず背が高い。
「何してるの?」
「綿あめかチョコバナナ食べたくて」
「うん」
「……見つけるの、早かったね?」
「居なくなったってわかったあと直ぐ探し始めたからね。三人も近くで大人しく待機してるから、行こうか」
「はい」
連絡する前に辻村が見つけてくれたので大人しくついていくことにしよう。チョコバナナと綿あめは後だ。
「間切さん」
「ん?」
スッと目の前に綺麗だけど男性とひと目で分かる辻村の手が差し出される。ふむ。
「焼きそば食べたいの? はい」
「手を繋ごうね」
「……」
「無表情の中に拒絶の雰囲気滲ませないで」
木野村は同性ということもあったので手を繋いだが、辻村は一応異性である。モブの中のモブであり赤坂には性別:間切と認識されている私でも生物学上は女に分類されるし身体年齢はお年頃なので出来れば手を繋ぎたくない。万が一同じ学校の人間に見られたら私のモブ人生が終わる。
「手なんて繋がなくても……」
「圭くんから『姉さんはすぐ迷子になるので手を繋ぐなりしておいたほうが良いですよ』って言われてるんだ」
弟に推奨されていた。
「『拒否した場合は縄とかで繋げばいいと思います。ハーネス的なやつで』とも言われたんだけど……」
散々な言われようである。
「はーねす……」
「どっちがいい?」
ハーネス……もとい迷子紐を同級生につけられて歩くのと、手を繋いで歩くのと、どちらの方がダメージが少ないかなんてわかりきったことである。
「……手を……繋いでください……」
「うん」
そうして私は辻村に手を引かれて三人のもとへと向かったのであった。




