三十六話 一年夏休み16
「……やぁ」
「波留さん!! 遅いよ!!」
私の姿を視界に捉えた瞬間秋田くんが物凄い勢いで突進してきて私の腰からやばい音がした。
「何があったの?」
「浴衣を身に着けた二人が来た途端周りがざわめいて、二人がナンパされるわ強引な輩が出現するわついでに怪しい宗教に勧誘されるわでおれもう心が折れそう」
「おつかれさま……」
頑張って不審な輩を追い払っていたんであろう秋田くんの目には少しだけ光が戻っていた。よしよし。よく頑張った。
そして普段と変わらぬ私服姿の秋田くんから赤坂たちと合流した辻村へと視線を移す。
「……キラキラしてる」
「俺もう帰りたい」
「私を一人にしないで」
私だって帰りたい。
しかし一度行くと言ってしまった手前行くしかないのだ。それにここで帰っても彼らの安否が不安すぎて眠れない。
「頑張ろう秋田くん」
「頑張る……そういや波留さん浴衣じゃないんだね」
「浴衣じゃいざってときに走れない」
「そのいざって時が来ないことを願うばかりだね。あと鞄大きくない?」
「催涙スプレー、防犯ブザーその他防犯グッズがいくつか入ってるから仕方ないね」
「波留さん殺意高くない?」
「正当防衛正当防衛」
向こうが何もしてこなきゃこれらの出番はない。
「間切ー!」
「何?」
秋田くんと話しいると赤坂が声をかけてきた。
「浴衣は?」
「動き難いから着てない」
「祭りって浴衣着るもんじゃないのか?」
「着る人は着るけど、なれない服装だと大変だから着ない人も多いよ」
私も浴衣なんて数年着ていない。今の私が着れるサイズの浴衣って我が家にあるんだろうか。うちの家族必要があれば買うけど基本服に対して最低限の興味しか持ってないからな。なさそう。
「次来るときは皆で浴衣着ないか?」
「来年?」
「来年」
「気が向いたらね」
「間切そう言いながら浴衣着てきてくれそうだよな」
「……」
木野村や赤坂にお願いされて浴衣を着ている自分の姿が目に浮かぶ。ちょろいな私。
「ところで間切」
「なんだい」
「人多いよな」
「祭りだからね」
「迷子防止には手をつなぐのが一番だと思うんだ!」
「辻村くんと繋いでいてください」
「二人して迷子になるぞ?」
「辻村くん身長高いから見つけやすいし問題ない」
自販機とほぼ同じ大きさだし。
そんな会話をしているとオズオズと木野村が私の隣に来た。
「じゃあ波留ちゃん、私と繋ぎましょう?」
「……赤坂くん繋いであげたら?」
「私と繋ぐの嫌ですか!?」
「いや、どうせなら二人が繋いでた方が映えるかなって」
「私は波留ちゃんと繋ぎたいです」
「……」
赤坂に好意を寄せているはずだからと気を利かせたつもりなのだが断られてしまった。私はまぁいいかと手を差し出す。木野村は嬉しそうに手を繋いでいた。
「波留さん両手に花?」
「赤坂くん、辻村くん、秋田くんが手を繋ぎたいって」
「三人で繋ぐか!」
「秋田くん、よろしくね」
「ひぇっ」
三人で繋いだらさすがに邪魔になるということでひとしきり悪ノリしたあと男子三人は手を繋がずに歩き出した。逸れなきゃいいけど。




