三十五話 一年夏休み15
どんなに気分が乗らなくとも祭りの日は容赦なくやってくる。
「……行ってきます」
「姉さん防犯グッズ持った?」
「財布は?」
「携帯ちゃんと持った?」
圭、兄、一宮さんに玄関で持ち物などの確認をされつつ気乗りしないながらも祭りに行く準備をする。防犯グッズも財布も充電済の携帯も持った。ところで相変わらずこの人たち私を三歳児か何かだと思っていないだろうか。
「そんなに遅くはならないと思う」
「あぁ。何かあったら迎えに行くから連絡するようにな」
「わかった」
行ってきます、と行って玄関を出る。
「こんばんは、間切さん」
「……………………こんばんは、なんでここにいる?」
玄関を出た先、少し後方に浴衣姿の辻村がいた。はいちーず。
「流れるように写真を撮るね。ちょうど僕も向かうところだったんだよ」
「綺麗に撮れたよ。そうなんだ」
てっきり待ち合わせ場所までは車とかで来るかと。鉢合わせてしまったなら仕方ない。私は辻村と待ち合わせ場所へと向かった。
「ほか二人は?」
「二人の家は僕の家と少し離れているからね。一緒には行かないかな」
「それもそっか」
確かに。待ち合わせ場所を考えると三人一緒に待ち合わせ場所へ行くのは効率が悪い。
「間切さん浴衣じゃないんだね」
「浴衣動き難い」
「たしかに」
何かあったとき動けるようにと私はいつも通りの服装だ。浴衣だとどうしても普段の服より動きが制限されてしまうし。
「辻村くん浴衣似合ってるね。着付けはお姉さん?」
「ありがとう。僕が自分で着たよ」
「着付けできるんだ」
「着物とか着る機会結構あるからね」
着物を着る機会ってそんなにあるんだろうか。私は七五三の時くらいにしか着なかったが。正月とかか……?
「間切さんの浴衣姿見てみたかったな」
「機会があればね」
浴衣なら、わりと着る機会は多いだろう。その機会に私が着るかどうかは別として。動きやすい服が好きなので動き難いのはちょっと……。
今回は花火も見てみたいとのことなので集合時間は夕方。夏場といえど日が沈み始め、空がオレンジ色に染まっているなか、そんな他愛のない話をしているうちに待ち合わせ場所にたどり着いた。
「……秋田くんの目が死んでる」
「……一体何があったんだろうね」
待ち合わせ場所には既に赤坂、木野村、そして秋田くんが揃っていた。秋田くんの目は死んだ魚のようだ。
まぁその原因は浴衣を身に着け、着飾った木野村と赤坂なんだろうが。キラキラしてるし周りがすっごい見てる。
「……トンズラしようかな」
「夏樹が寂しがるし秋田くんが可哀想だよ」
「……行きます」
行きたくない。




