三十四話 一年夏休み13
どうやら満足したらしいお二人が部屋から出ると有村さんは膝をついて蹲ってしまった。
「大丈夫ですか?」
「いらん恥をかいた気がする……」
「有村さんって昔は遊ばない人だったんですね」
「……まぁね」
大きなため息をついて、有村さんは顔を上げる。困ったように笑っていた。
「厳しいんだよあの人。だから暇さえあれば習い事に、勉強。遊び方なんて知らなかったから」
「……」
「中学の時間切くんと出会って、色々あって間切くんに放課後寄り道する方法を学んだ」
寄り道は、まぁあまり宜しくないけど、息抜きにはいいんじゃないかな。兄は何をしたんだろう。
「で、そのあとは君に会って、休日に遊ぶってことを知った」
「他の同級生の方とは」
「銀杏会の人間を遊びに誘うやつなんていないよ」
「そうですか」
じゃああれが初めて休日に遊んだ、ということになるのか。ならもう少しマシな計画を立てればよかったな。いきあたりばったりだったし。
「別にあの人悪い人じゃないんだよ?」
「……」
息子からのお土産に感動して消費期限ギリギリまで飾る人を悪い人だとは思わないが。それ以外のこと知らないし。
「授業参観の日とか仕事休んで夫婦揃って来るし」
「それは……凄いですね」
「だよねー。さっきはうちの家族がごめんね。緊張したでしょ」
「心臓が胃から出るかと思いました」
「口じゃないのかー」
「間違えました」
「そっか。お詫びにお菓子上げる」
「チョコー」
貰ったチョコは有難く頂いた。美味しい。
「間切ちゃんまた今度遊びに行こうね」
「浮気になりません?」
あなた婚約者いるでしょう。
「千裕さんも一緒」
「なるほど。私はお二人の子供ポジですか」
「愛人かも。千裕さんの」
「泥沼ですね」
「一緒に行くなら茜やマサも誘いましょ。間切ちゃんが愛人なら大歓迎よ。いらっしゃい」
「わーい」
ぎゅっと千裕さんに抱きつかれる。そうか、私は千裕さんの愛人か。
「姉さーん! 帰ろう…………え、どういう状況?」
「千裕姉さん何してるの」
千裕さんに抱きつかれたままでいると辻村が兄弟を引き連れて戻ってきた。そして私達の現状を見て固まる。
「私は千裕さんの愛人らしい」
「私の愛人可愛いでしょ?」
「夫公認の愛人だよ」
私達三人の言葉を聞いて兄弟たちが顔色を変えた。
「姉さん!? 餌付けでもされたの!?」
「波留、不倫はいけない」
「……ま、間切さん……?」
「冗談だよ」
君たちは私をなんだと思っているんだ。




