三十一話 一年夏休み10
どうしてこうなった。
温かいシャワーを浴びながらそんなことを考える。
今日は千裕さんたちに招かれたパーティーで、赤坂たちとも会って話して。圭が楽しそうにしているのに癒やされて。そしたら私の側で小さな女の子が転んで、手に持っていたジュースが私にかかって……あぁ、運が悪かったのか。
ジュースまみれになった私を茜さんが連行してシャワー室に押し込んで、そして今に至ると。規模の小さなパーティーだったから会場は辻村家。つまりここは辻村家の風呂場である。
「間切ちゃーん、服ここに置いておくからねー」
「ありがとうございます」
下着は無事だったが服にはジュースがかかってしまったので、茜さんが服を貸してくれるという。パーティーも終盤だったのでまぁ帰れれば良いだろう。服は洗濯して後日返しに来よう。ドレスはクリーニングに出せば問題ないだろうし。
シャワーを止め、風呂場を出る。脱衣場には先程はなかった服がおいてあった。これを着ればいいのか。
「……?」
用意されていた服はTシャツと半ズボン。Tシャツのサイズが結構大きい気がする。ロングTシャツというものだろうか。だいぶラフなものだ。取り敢えず着よう。
着てみたらTシャツは大きいのだが、丈が些か短い。Tシャツと一緒に用意されていたズボンも履いて……気づいた。
「…………これは……」
明らかに男物である。恐らくTシャツも。
そして腰回りが緩くてずり落ちて来る。これは履けない。というか待ってくれ。辻村家にいる男性は辻村父と辻村のみ。つまり私が今着ている服はその二人のうちのどちらか……絶対に辻村のものだろう。何故こんなものを。まぁ別にいいけど。しかしどうしたものか。Tシャツだけだと心許ない。
「……あ」
ベルトもある。
私は用意されていたベルトを使用してなんとかズボンを履いた。これで安心……ではないな。
なんだこの展開。少女漫画か? それなら私ではなく槇原にやってほしい。私はそれを眺めて茶化すから。モブに徹するから。
「間切さん、服持ってきたけど……開けて平気?」
頭を抱えていると扉の向こう側から辻村の声が聞こえた。
「平気といえば平気だけど、今私は茜さんが持ってきてくれた服を着てるよ」
「え?」
脱衣場の扉をあければ衣服を抱えた、私服姿の辻村が立っていた。パーティーは終わったらしい。私の姿を捉えた辻村は目を見開いて──
「……なんで閉める?」
脱衣場の扉を勢い良く閉めた。
「…………ごめん、つい」
扉を開けたら申し訳なさそうにした辻村がいた。視線が明後日の方向を向いている。
「服が大きくて不格好になってしまったんだ。見苦しくてごめん」
「そっか……。取り敢えずこっちに着替えてくださいお願いします」
「これは?」
「千裕姉さんが昔着てた服」
「なるほど。一応聞くけど、私が今着ているこの服は?」
「僕の服」
「やっぱりか。……ところで君、身長はいくつ?」
「身長? 春測ったときは180だったけど」
180か……。
「自販機かよ……」
「じはんき」
そりゃあ服もぶかぶかなわけだ。
月日が経つのは早いですね。何も問題がなければ4週連続で一話ずつ更新されます。




