二十四話 一年夏休み3
と言う訳で、私は今母親にきせかえ人形にされている。
そりゃあもう楽しそうに。
パーティーに誘われたと両親に話せば二人とも快諾した。そして三人とも新しくスーツやドレスを買い直すということになり、休日に店へ連れて来られた。もうなんでもいいから早く帰りたい。
「母さん……楽しそうだね……」
「すっごく。貴方もそろそろ自分で選ばせなきゃってわかってるんだけどねぇ。あ、2着買いましょう。どうせ身長はもう伸びないでしょ」
「伸びるよ。まだ成長期だよ」
「この淡い青も素敵よね。……一着は自分で選ぶのよ」
オーダーメイドでも良いわよ、と母親が豪胆に言い放つ。仕方ない、自分でも選ぶか。あまりにも酷かったら止めてくれるだろう。
「ちょっと店内回ってくる」
「迷子にならないようにね」
「善処する」
「こちらなんていかがです? 波留ちゃんに似合うと思うのですが」
「あら、いいわねぇ。でももう少し淡い色合いの方が……」
「……」
店内を見て回って戻ってきたら何故か母親と木野村が一緒にいた。幻覚だと信じたい。いや、それはそれで私がやばいやつになるんだが。
「あ、波留ちゃん! こんにちは!」
「波留、こっちとこっちどっちがいい?」
「木野村さんこんにちは。どっちでも良いよ母さん」
なんで木野村がここにいるの、と口を開こうとしたら木野村が妙に驚いた顔でこちらを見ていた。なんだ。
「波留ちゃん本当に無頓着なんですね……」
あぁ……。
「必要最低限着飾ればいいかなと」
「ところで赤系と青系ならどっちが好きですか?」
「どっちでも……」
「じゃあどっちも試着しましょう」
「……」
「あ、すみません試着お願いしても?」
押しが強い。そして私の言葉なしに物事が進んでいく。
結局私は何着かのドレスを試着して、その中から二人が選んだものを買うことになった。自分で選ぶ練習はまた今度になるらしい。嫌だ。
「ところで木野村さんは何故あそこに……」
「波留ちゃんと同じくパーティーに誘われてますので、それで」
ぐったりとしながら聞けばそんな答えが返ってくる。なるほどね。いや、そうじゃない。
「なんで母さんと一緒にいたんだ……」
「初等部の頃、授業参観あったじゃないですか」
「あぁ……そうね」
今も一応あるけど。初等部の頃は必ず両親が来ていた。3人同じ学校に通っていたから、結構大変そうだったな。
「その時少しお話しまして」
「何故」
「私が転んで、それを見ていた波留ちゃんのお母様に助けていただいたんですよ」
私は空を仰いだ。兄弟のときもそうだが、うちの家族は知らない間に私の知り合いと顔見知りになっていないか。そのコミュニケーション能力を分けてほしい。
「波留ちゃんを着せ替えられて私は満足です!」
「さいですか……」
「なんなら当日ヘアアレンジもしましょうか? メイクもできますよ? あ、髪巻きます?」
「……」
キラキラと楽しそうな目をした木野村。そうか、そうだよな。もう高校生。花の女子高生だもんな。オシャレにも目覚めるし、化粧もするか。普通はそうだよな。ん? もしかして私女子として終わってないか。
「いや、遠慮して」
「あら、いいじゃない。お言葉に甘えちゃいなさいな」
「……」
にゅっと私の後ろに現れた母があっけらかんと言い放つ。なんてことを言うんだ。
「じゃあ当日、パーティーの前に私のお家に来てくださいな!」
「え、いや……」
「私、友達のヘアアレンジしたりするの憧れてたんです!」
キラキラした笑顔でそんなことを言われてしまっては、断れるはずもなかった。そろそろ私はNOが言える人間になるべきだろう。もう長年こんな感じだから無理な気がするが。因みに母親は温かな眼差しでこちらを見守っていた。
「というわけで当日私は別行動です」
「じゃあ会場で初めて姉さんのドレス姿が見られるんだね! 楽しみだ!」
「あぁ。楽しみにしてる」
畜生。兄弟が眩しい。




