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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
小学生編
20/232

じゅうく 1年学園祭 3

 学園祭はまだ少し先だが、演劇をやるからには準備に時間がかかる。

 衣装を作ったり、小道具を作ったり、役者ならば台本を覚えたり練習したり。なので早めのうちから準備を始めることになった。

 そういえば美野里ちゃんに聞いたが、辻村のクラスは合唱らしい。伴奏辻村。辻村ピアノ弾けたのか。そして木野村のクラスは演劇、赤坂は合唱。本当に一年生はこの2種類が定番みたいだ。



「今日は色塗りするよー!」

「おろしてください」


 放課後、中高の演劇部の部室にお邪魔して作業の手伝いをすることが日課になった今日この頃、有村さんに抱っこされるのにも慣れた。

 有村さんは裏方担当らしい。なので裏方の作業をするときは有村さんの指示のもと動く。いきなり抱き上げたり撫でてきたりするが、指示はわかりやすいし、しっかりしているので信頼している。ところでそろそろ下ろしてほしい。

 今日の作業を手伝う一年は私だけだ。早苗ちゃんは茶道の稽古、秋田くん風邪気味なので病院へ行くらしい。他の子はまたいない。役者側の子は何人か残って練習しているようだけれど。


「間切ちゃん作業楽しい?」


 指定された色を塗っていると茜さんが私に話しかけてきた。

 辻村姉妹は役者側の方だと有村さんが教えてくれた。でも二人とも時間があれば裏方も手伝っているようで、よく作業場で見かける。

「楽しいです」

「そっか! でももう下校時間だから帰ろうね」

 え?

「間切ちゃん延々と塗り続けてるんだもん。もう部員もほとんど帰っちゃったよ」

「え!?」

 あたりを見回すと有村さんと辻村姉妹しかいなかった。そんなに時間が経ってたのか。

「もう遅いし家まで送ってくよ。お家どこ?」

 住所を答えればどうやら辻村宅と近いらしい。なぜか喜ばれた。


「有村君逆方向よね?」

「女性二人に子供一人じゃ危ないんで送ります」

「異常なまでの可愛いもの好きがなければまともよね、あなた」

「可愛いのは正義ですよ」

 可愛いは正義か。うん。それはいいんだけど、私を撫でながら言わないでくれないかな。私は可愛くない。小学一年生という小ささだから可愛く見えているだけだ。

 帰りは辻村姉妹と有村さん、私の四人で帰ることになった。一人だけ小さいので会話するときに見上げるはめになり首が痛い。でも抱っこよりマシなので我慢しよう。






 家の前に兄が立っている。


 家が見え始めたところで私は無表情ながらも怒っている雰囲気を醸し出す兄を見つけた。

 そういえば何時に帰るって連絡してなかったな。小学一年生がこの時間に帰宅は心配か。そりゃそうだよな。反省せねば。反省するんで兄はそのお怒りを鎮めてくれませんかね?


「あの、皆さん、私の家はあそこなのでここまでで大丈夫です。送ってくれてありがとうございました」

「家の目の前まで送るわ」

「遅くなってしまっとことも詫びなきゃいけないしね!」

「そうそう」

 いや、家の前に兄がいるので。兄に怒られているところを見られたくないんです。

 私の言い分など聞いてもらえるわけもなく家の前まで三人ともついてきた。



「に、兄さん」

「…………おかえり。そちらの方々は?」

「文化祭準備でお世話になっている中高の演劇部の方々です……」

 兄が怖い。

「そうですか。妹がお世話になっています。送っていただきありがとうございます」

「いえ、こんなに遅くなってしまったのはこちらの不手際です。ごめんなさいね」

「せめて連絡の一つでもすればいいものを、それを怠ったのは妹ですから」

「すみません……」

「反省してるならいい」

 反省してます、すみません。



 うつむく私の視界ににゅっと影が落ち、何事かと顔を上げればそこには有村さんが立っていた。

「間切くんじゃん! 久しぶりー!」

「ぅわぁぁぁあ!!!! 有村さん!? 下ろしてください!!」



 妙に静かだった有村さんが雰囲気をぶち破る。凄いなあの人。あの兄を持ち上げてるぞ。



 兄の慌てる様子は滅多に見られない貴重なものなのでちゃんと写真に収めておいた。そして私は家族に凄く怒られた。ごめんなさい。

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