十一話 1年体育祭 2
さて、周りがどんな状況になろうとも競技は続くのである。私はピストルの音で走り出し、運の良いことに一番乗りでお題を手にすることになった。
さて、お題は、と。簡単なのだと良いが。
折りたたまれた紙を開く。
『理事長』
ピンポイントすぎる。
しかしこれなら簡単だ。理事長はゴールから近いテントの下にいるし、見つけやすい。お題のものを探す手間も、運ぶ時間もかからない。
そうと決まればと私は理事長のいるテントへと走った。
「理事長先生」
「おや、どうしたんだい?」
ジャージを着た理事長は椅子に座ってのんびりと競技を観戦していた。ところで私、スーツの理事長よりジャージの理事長を見ている回数のが多い気がする。
「理事長を借りに来ました。ついてきていただけますか?」
「なるほどそういうことか。良いよ」
ヨイショと立ち上がる理事長の手を引き、軽く走り出す。私が全力で走ったら確実に理事長はついてこれないし、かといって理事長を持ち上げられるほど私は力持ちではない。幸いゴールも目前なのでゆっくりと走ることができる。
お題の運がよく、一位でゴールした私は誘導係に連れられて待機場所へと移動した。何故か理事長も一緒である。
「いやぁ、借りられたのは初めてだよ」
「すみません、走らせてしまって」
「いやいや、ゴールテープも切れたし、楽しかったよ。この年になるとそういうこともなくなるからねぇ」
はははと笑う理事長は相変わらずジャージだというのに紳士だ。
理事長と話していると背後から複数の視線を感じ、思わず振り返る。勿論近くには誰もいない。少し離れたところに応援席があるだけだ。
その応援席が、私の組ので、しかも赤坂と槙原がこちらをじっと見ていることに気がついた私は速攻で視線を反らした。
赤坂は例年のことなのでもういい。しかし槙原、何故君まで私を見ているんだ。意味がわからない。こっちを見るな。頼むから。
「そういえばお兄さんは元気かい?」
「えぇ。最近家庭菜園にハマってますね」
「家庭菜園か。良いね。私もやってるよ。ネギとか」
ネギって家庭菜園で育つものなのか。
ふとわいた疑問を口にしようとした瞬間、ガシっと誰かに手首を掴まれた。
「理事長、すみませんこの子借ります」
「行ってらっしゃい」
「え」
声の主は、私の腕を掴んだのは辻村だった。辻村に手を引かれてゴールへと向かう。待機場所もゴールから近かったのですぐゴールできた。係員に辻村がお題を見せると係員はうなずき、私はまた待機場所へと連れて行かれる。なんなんだ。あれか、借り物か。
「お題はなんだったんです」
「『女子』」
私のはピンポイントすぎるし、辻村のは幅が広すぎやしないか。
待機場所に着いて、競技が終わってからまた応援席へと戻る。少し休んだらリレーだ。




