八話
「さっき辻村様が重たそうな荷物を持ってる女子を当然のように手伝ってた……」
「赤坂様も同じことやってたよ……紳士かな……」
高校生活が始まって1週間。うちの学年間では赤坂たちの噂で持ちきりだ。吹っ切れたらしい赤坂たちは遠慮なく他人に関わりに行くので、やはり目立つらしい。
「篠崎くんに勉強教えてもらっちゃった……やばい……口調が少し刺々しいのに優しかった……」
「そんなこと言ったら菊野先生だって。荷物運ぶの手伝ったら笑顔でありがとうって……! 授業時は仏頂面なのに!」
……いや。なんかそれだけじゃないな。なんだこれ。
昼休みにベランダに出て秋田くんとみんなが好き勝手話している教室を眺める。温かいココアが美味しい。
「なんかもうここまで彼らの話題で持ちきりだとアレだね」
「凄いよね」
私の隣でコンポタをのむ秋田くんは苦笑いを浮かべていた。
因みに噂の根源たるクラスメイト三人は木野村も巻き込んで仲良く話している。あと、ゲームの主人公である槙原も早苗ちゃんたちと穏やかに何か話していた。
「ルート分岐、最初は何だったかな……」
「覚えてないの?」
「日を追うごとに忘れていくんだよ。数あるゲームのうちの1つだもの。ずっとは覚えてられないよ」
そりゃそうだ。私だって覚えていない。大まかな流れはなんとなく覚えていても細かいところはどんどん忘れていく。
「というか、ゲームだと主人公目線がほとんどだし、重要なシーンはきちんと表示されるから良かったけど、現実はそうもいかないよね。気がついたらイベント終わってそう」
「ほんとにな」
私達モブが巻き込まれるイベント以外は普通に気がついたら終わってそうだ。そして気がついたら巻き込まれてるとかありそう。
「そういや波留さんは乙女ゲーム得意?」
「初回プレイ時には毎回バッドエンドに辿りつきますが。どのキャラでも」
「そっか……。男心わからないんだね。俺もわからないけど」
「男にもわからない男心とは」
「2次元と3次元の差かな」
「なるほど」
おざなりに頷いてから缶に入ったココアを飲み干す。だいぶぬるくなっていた。
「コーン飲めた?」
「全然でない……」
缶に入ったコンポタのコーンって中々取れないよね。何かやり方があった気がするけど覚えてない。




