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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
163/232

84話 修学旅行3



 2日目の夜、就寝時間までの自由時間。早苗ちゃんたちの部屋に遊びに行きたいが残念なことに二人は入浴時間なので大浴場にいる。私は備え付けのシャワーで済ませたので暇だ。

 取り敢えずウォーターサーバーで水でも飲むかと廊下に出た。


「……」

「……」


 部屋を出てすぐそこの壁際で座り込んでいる赤坂と目があった。


 ここは女子だけが泊まっている階のはず。



「……何してるの?」

「あ、あぁ……いや……」

 ふいっと視線を反らして歯切れ悪く答える赤坂に疑問を感じながらもまぁいいかと足を進めようとした時、不意に赤坂を呼ぶ声が聞こえた。声の高さからして女子だろう。


 その声にビクリと肩を揺らす赤坂が視界に入ったので、女子から逃げてきたのかと、大体想像がついた。今はうちのクラスの女子が入浴中だから他のクラスの女子は自由時間だ。

 複数の足音が徐々に近づいてきているのがわかる。それに伴って赤坂の顔色も悪くなってきた。仕方ない。


「こっち」

「うぇ……!?」


 自分が泊まっている部屋に赤坂を引きずり込む。赤坂は何が起きたのか理解していないようなので「暫く待機」とだけ言って外に出た。ちょうど別のクラスの女子が数人近くに来ていたところだった。


「あっ、間切さん」


 女子たちの一人が私に声をかける。何回か同じクラスになったことがある女子だ。


「ん?」

「こっちに赤坂様来てない?」

「私は今水飲むために部屋から出てきたところだから……」

「そっかぁ。お話したかったんだけどなぁ」

 残念そうにする彼女たちはまた別の方向へと去っていった。私はウォーターサーバーで水を飲んで、部屋に戻る。



「おかえり」

「ただいま」


 部屋の中では赤坂が体育座りをして大人しく待っていた。犬かな。


「……間切でも嘘つくんだな」

「話聞いてたのか」

「扉付近にいたら聞こえた」

「嘘は言っていない」


 ベッドに腰掛けて答える。嘘は言っていない。確かに私は水を飲むために外に出た。が、赤坂を見ていないとは一言も言っていない。あちらが勝手にそう解釈しただけだ。


「わー、悪い人ー」

「はいはい。女子は去ったから部屋に……いや、鉢合わせたらまずいか。辻村くんと先生どっち呼ぶ?」

「まさ」

「ちょっと待ってなさい」


 携帯を取り出し、辻村の番号を呼び出す。すぐに出た。早いな。


『もしもし』

「私の部屋で赤坂君を保護してるんで回収に来てください」

『あ、はい』


 電話を切り、またベッドに座る。赤坂が静かに近づいてきた。

「間切髪濡れてるけど」

「……あぁ、そういえば乾かしてなかったや」


「乾かしてやるよっ!」



 え。






 微かに戸を叩く音が聞こえて、「どーぞー」と声をかける。相手はきちんと聞こえていたらしく中に入ってきた。


「間切さん、夏樹……えぇ……」


 中に入ってきた辻村は私達を見て固まった。そりゃそうだ。私は今は椅子に腰掛けていて、その後ろでは赤坂が立って私の髪をドライヤーで乾かしているのだから。


「何してるの?」

「髪乾かしてる!」

「乾かしてもらってる」


 乾かし終わったのかドライヤーの電源が切られ赤坂が私から離れる。さらさら。


「仲良しだね」

「だろー?」

「うん。間切さん夏樹回収してくれてありがとう」

「いいえ」

「……間切さん、同室の子はいないの?」


 部屋に私の荷物しかないことに気がついたのか辻村が不思議そうに聞いてきた。赤坂は今気がついたのか驚いた顔をしている。


「人数の関係でね」

「寂しくないか?」

「寂しい」

「折角の泊まりだもんな〜」

 そう言って笑う赤坂の隣に立つ辻村からの視線が痛い。

「夏樹、そろそろ僕達も入浴時間」

「あっ」

「じゃあ間切さんまた」

「ん。じゃね」


 扉のところで二人を見送って私は再び部屋の中に戻った。ベッドにダイブすればふかふかのそれに体が沈む。

 そろそろ早苗ちゃんたちの入浴時間が終わるし、遊びに行く準備をしよう。


 辻村の視線の意味については考えるのを放棄した。

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