77話 見舞い2
「つらいね」
泣きそうに笑ったまま、秋田くんが言葉を続けた。私は何も言わずに秋田くんの言葉を聞く。
「俺ね、病死だったよ。まだ19だった」
あぁ、君もそんな若さで死んだのかと、ぼんやりと思う。
「一昨年に前世を思い出してからさ、少しずつ、記憶を思い出していってた」
彼は膝を立てて、枕を抱きしめて話を続ける。
「妹が出来た時の喜びも、妹ばかりに構う親へ不満が出て、子供っぽい反抗をしたことも」
「誰かの誕生日には毎回みんなでケーキを食べてたことも、くだらない喧嘩をしたことも、友達と学校へ行って、勉強して、遊んだことも」
なんてことない日常だけれど、とても大切な記憶なんだろう。今はもう会えない家族や友達との。
「それと、病室から眺める外の景色も」
「毎日毎日、母さんがきて、妹が来て、父さんも来れる日は来て、友達だって来てくれて、皆いろんな話をしてくんだ。妹なんかは今日何があった勉強がわからない教えろだなんだ言ってきたな」
少しだけ秋田くんが笑った。
「でも皆、退院後の話を必ずするんだ。元気になったら何がしたい、どこに行こう、そんな話」
「時間が経つに連れて俺の身体はどんどん駄目になっていって、あぁこれはもう長くないなってわかるんだよね」
「日に日に弱ってく俺に母さんたちも辛そうにしてて、そんな顔見たくなくて、どうにかして生きようとしたけど駄目で」
「最期は、病室で、家族がみてるなか、死んでった」
「みんな泣いてた。妹の泣き顔なんかもうずっと見てなかったのに、凄く泣いてて、両親も泣いてて、そんな顔見たくなくて、笑ってほしくて、でも泣かせてるのは俺で、俺には何もできなくて」
秋田くんは泣いていた。きっと、思い出してからまだあまり時間が経っていないのだろう。頭の中がゴチャゴチャで、感情の整理もできていないのだ。自分の死に際の記憶なんて一人で対処するには辛すぎる。
それに、私はまだ小さかったからひと目も気にせず泣き続けられたが秋田くんはそうは行かない。学校もあるし、やらなければならないこともある。心の整理には圧倒的に時間が足りない。
静かに泣き続ける秋田くんの頭を撫でる。秋田くんは特に拒絶もせずに抱きかかえた枕に顔を埋めた。そのまま撫で続ける。
でも、そうか。秋田くんはご家族に看取られて最期を迎えられたのか。
…………いいなぁ。




