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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
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76話 お見舞い



『お見舞い来て』


 昼休み、早苗ちゃんたちとご飯を食べていると学校を休んだ秋田くんからそんなメールが届いた。


「……」


 いや、秋田くんの家の住所知らないから行けない。そう送ればものの数秒で返信が来る。なにやら画像つきだ。


『地図つけた。あと一人できて』


 おや注文が多い、と思いながらもまぁいいかと了承の返事を送る。地図があれば迷いはしないだろう。


「波留ちゃんどうしたのー?」

「ううん、何でもないよ」

「それにしても今日もデコ弁? お兄さん凄いね……」

「兄さん今受験勉強で若干ストレス溜まってるから」

 流石に勉強好きな兄でも受験のための勉強は、少しだけつかれるらしい。





 放課後、途中の店でプリンを買ってから送られてきた地図通りに秋田くんの家へと向かった。そして、着いた先にあったのは大きな家。表札には「秋田」と書かれているのでここで間違いないだろう。恐る恐るインターホンを押す。


『はい』

「こんにちは、秋田くん……湊くんのクラスメイトの間切波留です。お見舞いに来ました」

『あら、あらあら! ちょっと待ってくださいね!』


 インターホンに反応したのは女の人だった。恐らくお母さんだろう。インターホンから声が聞こえなくなると家の方からバタバタと足音が聞こえた。


「ごめんなさい、お待たせしちゃって! どうぞ入って! 息子から話は聞いてるわ!」

「お邪魔します。あ、これプリンです。皆さんで食べてください」

「あらまぁ! ご丁寧にどうも。あとでいただくわね!」

 玄関から姿を見せた若々しい女の人に案内され、秋田くんの部屋の前へと辿り着いた。


「湊ー、間切さん来たわよ!」

「んー……入ってぇ……」


 弱りきった声ではあるが、許可が出たので遠慮なく入らせてもらう。中々綺麗に整頓された部屋だ。秋田くんはベッドに腰掛けていた。


「あんた起き上がって大丈夫なの?」

「平気だよ。それよりお母さんなんか用事あるって言ってなかった?」

「え、えぇ。でも……」

「俺は平気だから」

「…………わかったわ。少しでもおかしなことがあったらすぐ連絡しなさい。いいわね?」

「うん。気をつけて行ってらっしゃい」

「あなたは寝てなさいね。それじゃあ間切さん、私はこの後用事があるから少し家を空けてしまうけど、ゆっくりしていってね。あ、お菓子とお茶用意するわ」

「いえ、お構い無く。お見舞いに来ただけですから」

 お菓子とお茶は遠慮して、ドタバタと去っていく秋田くん母を見送る。


「秋田くん体調は?」

「風邪なら問題ないよ。熱もないし」


 秋田くん母が去ったあとの部屋で、ベッドに腰掛けた秋田くんを見る。ふむ。顔色が悪い。ところで私はどこに座れば良いんだろうか。床でいいかな。


「波留さんこっち」


 ペシペシと自分の隣を叩く秋田くん。大人しくそこに腰掛ける。うわふかふか。


「若々しい人だったね」

「でしょ? 凄く良い人なんだよ。俺のことを気にかけてくれて、大事にしてくれるんだ。お父さんも、すぐ近くに住む祖父母も。みんな、俺を大切にしてくれるの」

「そう。……何があったの?」




 秋田くんは、見舞いに来て、などと言う人間ではない。以前体調を崩して休んだ時は、見舞いに行こうとしたら断固拒否されたくらいだ。そんな秋田くんが私一人で見舞いに来るように要求するなんて違和感がある。


 十中八九、前世に関係することだろう。


 そう当たりをつけて聞けば秋田くんは弱々しく笑った。








「俺の最期、思い出しちゃった」








 声が震えていた。

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